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白と黒のグリンプス 3
「? 此処かな……」
僕、中島敦はヨコハマ市内のある裏路地を覗いていた。
中華街から少し離れた辺りの寂れた路地。
申し訳程度に取り付けられた街灯の硝子が割れてしまっている。塵が落ちていないところを見ると、定期的には掃除されているようだ。
此処は手鏡が目撃された地点のうちの一つ。
触れると消えてしまったケエスの場所だ。
そっと足を踏み入れてぐるりと見回してみる。
(まあ、有る訳ないよなぁ)
きらりと光るものは勿論、何かの気配すらもしなかった。
裏社会に根差していそうな場所を選んで見に来ているのだが。
(此処も収穫なしか……)
然う思って帰ろうとした、その時。
(ッ!?)
僕はバッと振り返る。
虎の暗視で、暗闇に蠢くものが見えた。
(なんで)
何で、お前が居る?
「!?……人虎?」
息が苦しくなるほどに惹かれる声。
「芥川……」
僕が、見ていたくて、けれど目を逸らしたくなる人物の姿だった。
「ッ何で此処に居るんだよ」
「愚問だな。……この依頼を入れたのは異能特務課。ならば探偵社にも依頼を入れていると思い、表社会からも接続しやすい場所を中心に探していたのだが……真逆貴様がいるとは」
対して表情も変えず──否、何時もよりも少し目が大きく開かれているだろうか。
彼方も少なからず驚いているらしい。
僕は然う思った。
(敵意は向けられていないみたいだ……良かった)
なんて小さく胸を撫で下ろしていると、芥川の纏う雰囲気が少し変わったことに気がついた。
ジリ、と画像が乱れるような、微かな不機嫌。
殺意とまではいかない微々たるものに、僕は心の中で首を傾げた。
芥川が口を開く。
「貴様、何故左様に目を遠くにやる」
「は」
僕の頭の中に疑問符が湧く。そして同時に警鐘が鳴り響いた。
僕の悩みを此奴に知られてはならない。
(だって、|露見《ばれ》たら、若しかしたら……)
そんな考えを頭から追い出すと、僕は芥川を見た。
「何でお前がそんなこと気にするんだよ」
「否定はせぬのか」
否定しないのは何故か、自分でもよく分からない。
若しかすると、“悩む”そのことを無い物にしたくない、と思っているのかもしれない。
僕の気持ちとは正反対な筈なのだが。
「貴様が現に有らぬようなのは気に食わぬ」
芥川がぽつりと漏らした言葉を耳が拾う。
雰囲気も更に苛立ったものに変わっている。
それに釣られるように、僕も眉を顰めてしまう。
「お前、其れはどういう意──」
然し、僕が口にした追及の言葉は途中から空気へ溶けていった。
同時に、芥川の注意も別のものへ向く。
「あれは──」
然う呟いたのは何方か。
目の端に映った、きらりと光るもの。
先程迄は、確かに無かった筈のもの。
僕はそれに吸い寄せられるように近づいていった。
「ッ人虎!」
芥川の声が聞こえたのは、夢か現か。
鈍色に輝く、豪奢な枠。
その中に嵌った霧がかる面。
近づくうちにその霧がすっと晴れ、僕の目は、僕を映した。
静止するように|帯《ベルト》が引っ張られる。
鏡に自分ではない黒が映った──然う認識したときには、僕の姿は白に包まれていた。
・
眠り姫です!
今回。死ぬほど短い。
でもキリいいのがここなんです!
許して!
でも多分此処からは筆が乗ってくる筈。
心情ばっかだから、私の好きな分野(キリッ)
ということで、更新遅くてすみません。
では、此処まで読んでくれたあなたに、心からのありがとうを!