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#01
約30年前――
「ハァ、ハァ……速く逃げなきゃ……!」
ボロボロになった少女が必死に走る。後ろからは天竜人の男たちが叫び声をあげ、追いかけてきた。
「しっかり捕えろ!あいつを逃すな!」
少女のすぐ後ろで、ボディガードが銃を構え、何発か発砲する。
「危ない……!」少女は思わず身をかわし、銃弾をかわす。
「何をしているんだ、ちゃんと当てろ!」追っていた男たちが怒鳴った。
だが、その中の二人が突然撃たれて倒れる。
少女は震える手で、中くらいの木箱を強く抱きしめた。
(これだけは絶対に奪われたくない……!)
息を整えながら、彼女はその場から逃げ去った。
――
「イゾウ親父、頼まれたことは大丈夫か?」
「うん、メモしてあるから心配いらない」
金髪の少年と黒髪の少年が静かに話している。
「じゃあ安心だな」
イゾウは周囲を見渡し、突然何かに気づいた。
「おい、大丈夫か?」
「イゾウ?どうしたんだ?」
「説明は後だ。この少女を船に連れて行くぞ」
マルコが「お、おう」と応え、慌てて走り去った。
――
「親父!」
「どうした、イゾウ、マルコ?」
「男の子がボロボロの状態で眠っていたんだ。多分、家族に捨てられたんじゃないか」
イゾウとマルコはそう話す。
親父は深く頷いた。
「こいつは今日から俺たちの家族の一員だ。風呂に入れてやれ」
――その日の夕方――
バサッ!
(ここは……どこだ?船の中……?)
勢いよくベッドから起き上がった少女は、部屋を出た。
「いた!ここにいたんだ!」
看護師さんが駆け寄ってきた。
「あなたはイゾウさんとマルコさんに連れてこられたのよ」
「連れてこられた……?」
看護師さんが丁寧に説明してくれた。
「ニューゲートさんが、あなたが起きたら来てほしいと言っていましたよ」
「今起きたばかりで場所もわからないのですが……」
「それなら俺が連れて行くよ」
後ろを振り返ると、同じくらいの年の男の子が立っていた。
「看護師さん、あとは俺に任せてください」
「ええ、その子に変なことしたらニューゲートさんに言いますからね」
看護師さんはそう言って彼に微笑んだ。
男の子はわかったと言って、少女の腕を引っ張った。
――
「親父、連れてきたよ」
「ありがとうな、マルコ」
マルコは部屋を後にした。
「ところで、私に何か用があると聞きましたが?」
「今日からお前は俺たちの家族だ」
その言葉に、時間が止まったように感じた。
――それから一ヶ月後――
「アインスちゃん、こっちこっち!」
看護師さんが手招きする。
「これって……どうなってるの?」
「多分、他の海賊が島を荒らしているのよ」
その言葉にアインスの顔色は悪くなった。
「マルコとイゾウ兄さん、それに見習いの人たちは?」
「みんな戦場へ行ってる」
その瞬間、動悸が速くなり、彼女は苦しみだした。
「うぅ……カブリ!」
「何をしているんだ!」
看護師が慌てて彼女を取り押さえた。
「あ、ちょっと待って!」
アインスは治療室を飛び出した。
――
それ以降の記憶はなかった。
看護師たちは口を揃えて言った。
「アインスはまるで鬼のような姿で奴らを倒していた……」
――
「アインス、なぜお前は自分の腕を噛んだ?」
親父が静かに尋ねる。
「わからない。でも二年前に、白装族の男がこう言ったんだ」
――二年前――
「マーティン家の子は、才色兼備を持って生まれる。もし大切な人ができたら、潜在能力が開花するかもしれん」
そう言った男は、そのまま消えた。
――
「なるほどな、そんなことがあったのか」
突然、マルコが現れた。
「『なるほど』じゃないだろ、マルコ!」
イゾウが怒ってマルコの頭を叩いた。
「まあまあ、喧嘩はやめなさい」
ちょっとおねぇ感のあるサッチが入ってきた。
「マーティン家ってそんなにすごいの?」
おでんが尋ねる。
「そうらしいね。僕は忌み子として捨てられたから、よくわからない」
「忌み子って何だ?」
「望まれずに生まれ、不吉とされて忌避される子のことさ」
「じゃあアインスは忌み子なのか?」
「うん、4歳の頃に捨てられたから」
「じゃあ、11年もどうやって生き延びたんだ?」
「あまり覚えていないんだ」
――その夜――
「お疲れさま、親父にいろいろ聞かれたようだな」
「サッチ兄さん、しょうがないだろ!」
「まあまあ、落ち着け。これでも食べて元気出せ」
そう言って差し出されたのは、アインスの大好物のプリンだった。
終わり