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十一
アランの言いたいことは、だいたい分かった。
———情に|絆《ほだ》されて、自分の魔力を与えるな。
そう言いたいんだろう。
俺の持っている魔力の色は、黄金色。黄金の魔力は珍しい上に、特殊である。
———他人にそれを譲渡することができるのだ。
与え方はそれほど難しくない。
黄金の魔力を持っている者が、『与える』という意思を持って、与える人間の体内に自分の血液を両掌一杯分くらい注入することで譲渡が成立する。
そして、与えた人間は、もともと持っていた魔力を喪失し、与えられた人間は、それまで持っていた魔力を失い、与えられた黄金の魔力に上書きされる。
また譲渡後———
———魔力を与えられた人間は、それ以前の記憶を喪う。
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事件が起こったのは、セナがこの館に来てから一ヶ月くらい経ったときだった。
そのとき、俺は仕事を休憩して、魔術室の隣にある休憩室でのんびりと過ごしていた。
「レオ!」
ほぼ怒号に近い大声とともに、バン!と扉が開けられた。思わずビクッと背筋を伸ばす。同僚の一人だった。トム、という名前だ。
「……何。」
ひどく顔は青ざめているようで、|只事《ただごと》じゃないと分かった。
「どうしたんだよ?」
みるみるうちに湧き上がる、強烈に感じる不安を抑えながら、静かに問う。
「……あの子が。あの女の子が、セナちゃんが———」
上手く息ができているのか分からない。
何があったのか。何がどうなっているのか。理解できない。
絶句する、とはこのようなことを指しているのだろう。
場所は館の横の、細い通りだった。
血を流して倒れるセナ。それに付き添う別の同僚。治癒魔法をかけているのだろうか。
背中までの長い髪を乱し、足は有り得ぬ方向に曲がっていて、目は薄く閉じられている。どこからの出血なのか。それすら分からぬほど、辺りには血の海ができている。
走り、近くに寄る。鼻腔を貫くかというほどの錆びた鉄の臭いに、息をこらえた。
「……レオ、トム。」
治癒魔法をかけていた同僚が、俺たちに気づいたようでハッと息を呑んだ。
「セナ、は、」
一つの動きもなく、まるで死んでいるかのようだった。
「……ドン、って音がして、来たらここで倒れているんだ。」
トムが、必死に治癒魔法をかけている彼の代わりに話してくれた。
見ろ、と、トムが上を指差す。
開け放たれた窓があった。部屋の窓。確か、あそこの部屋は———
「飛び降りたんだ、セナちゃんは。」
自分がどんな顔をしているのか、分からなかった。