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キミの名前を描きたい。7
「見た目だけで決めつけるのは酷いんじゃないかな。」
「は、お前、海勢頭をかばってんのか!」
本当にそうなのかな。
人の心は誰にも見えない。
「海勢頭授業さぼってんじゃんw」
黒板に大きく自習と書かれた教室では、海勢頭君が授業に参加しないことで愚痴を言っている男子や女子の声で埋もれていた。
「海勢頭君、どうしたんだろう。」
私は後ろの席にいる小羽玖にそっと耳打ちした。
「お腹痛いとかでトイレにでも行ったとか。そんな重大なことではないんじゃない?海勢頭君の事だし。」
「そ、っか」
いや、確かにさっきあんなに酷いこと言われたんだし。一颯君は私が一颯君の彼女だ宣言するし。ちょっと、衝撃的だったな。
「ね、一颯が守ってくれたんでしょ?穂稀を海勢頭君から。」
「う、ちょ、」
もう、はずいから変な声出たじゃんか!さっきまでの事、小羽玖に教えなかったら良かったかも。さすがにハグしたまでは言ってないけどね。言うわけないじゃん。
「確かにそうだけどさぁ、でも、うーん」
「おや?照れちゃってるのかな?」
なんか小羽玖変わってないか?
「そっそんなことない!ないない!うん、ないな、絶対」「ww」
そう、一颯君。私の大大大好きな人。
一颯君が海勢頭君から私を守ってくれたんだ。もうほんっとに好きだ。優しいし、運動できるし、私にとってはめっちゃカッコいいし。最っ高だ。
「海勢頭ってホント酷いよなぁ。口悪いし。」
男子が大きめの声でそう叫ぶ。
「それなー!」
それにつられて他の子も頷く。
確かに、酷いは酷いけど、悪口をいうのはダメなんじゃないかな。でもそんな思いは、次の言葉が張ってられると同時に、一瞬でどこかに行ってしまった。
「ほんとに、死んだらいいのに。」
私だって海勢頭君に散々辛い思いをさせられてきた。ほんとに毎回毎回。嫌になるほど見てきた海勢頭君の顔。もう、見たくない。
海勢頭君は最低最悪な人だから。
誰かがそう言った言葉に対しては笑いが起きた。
私の口からもふっと息が漏れる。
この言葉がどれだけ重いものか、全く気にしずに。
「あー、あっという間に休み時間だね~!」
小羽玖の声が聞こえて私はハッとした。
「なになに、寝ぼけてるのかな穂稀さんw」
「う、うん。だっ、だい、じょうぶ、だよ…」
あ、ヤバい。ホントにヤバい。死にそう。死んでもいい。
「あ、あれ?穂稀どうしたの?」
「…」
私はほぼ小羽玖の声が聞こえなくなっていた。
ほんとにやばい、これ。
あ、うわ。ちょ。何やってたんだ私。
「穂希見すぎ!見すぎだよ!」
耳元で小羽玖の注意の声が聞こえて、またハッとした。
「ご、ごめん。」
私が何気なくそう言うと小羽玖はにかっと笑って
「もー、恋する乙女は暇じゃないな~w」
なんてことを言う。は、恥ずかしいじゃん。
まぁ、そりゃ、ハグしちゃったからね。
「だって、はぐ…あっ、いや、なんでもない。」
「ん?はぐ?」
そうだ、忘れるところだった。小羽玖には一颯君とは、ハグしたこと伝えてないんだった。危な。
「だから、何でもないって!」
「ww」
顔がとてつもなく熱いことがはっきりと分かる。目玉焼きでも焼けそうだ。
あぁ、早く一颯君と話したいな。一颯君の声を聞きたい。
私は小羽玖から目をそらし、一颯君の横顔を眺める。クラスメイトの男子友達と楽しそうにじゃれ合っているその顔が愛おしかった。可愛くて、仕方がなかった。それに、たまに見せる真剣な顔も、とてつもなくカッコいい。
ふいに一颯君の瞳が私をとらえた。
「へっ⁉」
とっさに上擦った声を上げてしまい、隠すように両手で口元を覆っていると、
「穂稀どうした?」
って一颯君が言う。な、なんで大声でそんなこと言うの⁉「え、あ、そっ、その、な、」
私が一人でわちゃわちゃやってると、一颯君は私に近寄ってきて、今朝のように上から目線で私を見下ろしてきた。あぁ、カッコいいな、相変わらず。
一颯君は制服のズボンのポケットに手を突っ込んで、柔らかな笑顔を私に向けている。
「穂稀、どうかした?」
一颯君の口から私の名前が発せられる。
「なんでも、ないよ。」
私はそう答え、クラス中の視線から逃れようとした。でも、一颯君は全く諦めようとしないで、逆にもっと聞き出したいような雰囲気を身にまとっていた。
一颯君の目が同じ高さにある。至近距離で目が合う。
「へ」
私の口からは頼りない細い声が出ていた。
おそらく、今の状況を把握するのは困難だ。だって、一颯君が目の前にいるんだもん。恥ずかしくて目が合わせられない。
―手に、ぬくもりを感じた。
読んでくれてありがとうございます!
穂稀の気持ちは動いていくのでしょうか?