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偽証罪
レジからお金を取り出して、財布に入れる。
立派な犯罪だが、悲しいことにこのスリルがやめられないんだ。
ひとまず1万円ほどをポッケないないした後、私は店を出る。
――――今日は何か買おうかな。
私はそう思いながらドアを開ける。そして、その瞬間、私はその場で硬直した。
「七海。やっぱりお前だったか」
――――嘘。
「とりあえず、警察に言っとくから」
――――噓だ噓だ噓だ噓だ!
私は本能のままに、その場にあった包丁をつかんだ。
「うぐっ!?」
その瞬間、彼は崩れ落ちた。
彼の胸から血が滴る。
「ご…ん…ね」
彼の最期の言葉は、私には聞き取れなかった。
私は自分でも驚くほど冷静だった。
ここまでやってしまった以上、やることは一つだろう。
「隠さなきゃ」
◇◇◇
「行方不明、ねぇ」
私――――暗狩四折はショッピングモールのクレープ屋にやって来た。
どうやら店主が行方不明で臨時休業らしい。
普通ならちょっとムスっとするところではあるが、今日はクレープ以上の収穫を手に入れたから気分がいい。
「あの~…手を放してもらえませんかね?」
私は隣にいる女性、梅好 霞の手を握って放さなかった。
「だーめーです!だってこの間は逃げられたんだもん」
「相変わらずだなぁ…四折ちゃん」
薄手のコートを着こなす霞さんは、一年前よりかっこよく見える。
「相変わらずって…」
私はつい子供みたいな態度をとってしまう。
だって霞さんと一年ぶりに会えたんだもん。
そりゃこんなテンションにもなるよね。
「にしても、ちょっと気になるよね」
「何が?」
「だって、ここの店主さんつい昨日まで元気そうにしてたもん」
その言葉を聞いた途端、私の好奇心が跳ねるのを感じた。
「それまじ?」
「まじまじ」
私は胸が高鳴るのを感じた。
――――霞さんとの久しぶりの冒険だ。
「行きましょう!」
私は手をつかんだまま語り掛ける。
「行くってどこへ?!」
「事件解決へ!」
彼女は、呆れたような微笑みを見せた。
どうやら、彼女もそんなに変わってないらしい。
「しっかし、事件解決と言っても何から始めるの?」
「そもそも、まだ事件かどうかすらわからないし」
霞さんは私にそう言うが、私はこれが事件だと言う自信があった。
「私の好奇心が反応してるんです。これは事件な気がする!」
「えぇ…」
彼女は手を上にあげ、わけがわからないというジェスチャーをした。
その直後、彼女は何かを思いついたような顔をした。
「そういやさ、最近SNSやってるの?」
「え?」
「ちょっと見せてよーん」
そのまま、彼女は器用な手つきで私からスマホを奪う。
「あ!ちょっと!」
私は激しく困惑する。
「んー…指紋認証かー…」
どうやらスマホのセキュリティに苦戦しているらしい。
「まったく…貸してください」
私は電源ボタンに指を置き、スマホのロックを解除する。
「もう…霞さんの悪い癖ですよ」
…前にも似たようなことあったよな、そういえば。
確かチョコレートの争奪戦になって、最終的に流血沙汰にまで…流血?
「ん、どうした?」
私はほんのりとした違和感を感じた。
「あぁ、大丈夫」
そのまま、私は画面をスクロールする。
その後すぐ、私は違和感の正体を知ることになった。
――――なるほどね。
「行くよ!」
私は霞さんの手を引き、その場から動く。
「え、ちょ、どこへ?!」
「捜査の準備!」
私はスマートフォンの画面を彼女に見せる。
そこには、トイレの画像と共に文字が並んでいた。
《ブラックライトでトイレを照らしてみたらありえんくらい汚れてて草》
「あ、あの…お客様、何をしているんです?」
私は後ろを振り向く。そこにはクレープ屋の女性店員が立っていた。
胸に付けられた名札には『七海』という文字が並んでいた。
「あーいや。気にしないでください」
彼女は口をあんぐり開けたまま突っ立っていた。
「ん~、おかしいな」
私はブラックライトを使っても、何も出ないことに疑問を感じた。
「なんかミスった?」
作り方は簡単だったからミスとかはないと思うんだけどなー…。
頭の中をグルグル考えが巡る中、私の視界が急に暗くなった。
「え?」
その瞬間、霞さんの声が聞こえた。
「ブラックライトは、周りが暗くないと反応しずらいよ」
「コート貸したげる」
あら恥ずかしい。
「本当、四折ちゃんは昔からそうだからな。いいところまで行くのに凡ミスが多い」
なんか腹立つな。
私はその怒りを抑えつつ、上着をかぶったまま辺りを調べる。
「あ、あの…」
店員さんの声が聞こえるが、私は無視を決め込んだ。
ここまで来たんだ。真実を知らずに帰る手はない。
――――そして、私は『痕跡』を見つけた。
「おっ」
ブラックライトに何かが反応する。おそらく、血痕だろう。
さらに前に進み、血痕を辿っていく。
私は夢中になって血を追った。
一度店外に出て、私はモールに付属しているグラウンドにたどり着く。
ここまで来れば後は大体見当がつく。
私は走り出して、屋外トイレの横にしゃがみ込む。
軽く地面をさすってみると、そこにはクレープ屋の店長がいた。
――――彼は、悲しそうな顔でこと切れていた。
「霞さん!」
私は霞さんにこのことを言おうとする。
ただ――――私は死体を探すのに夢中になりすぎたようだ。
目の前には、さっきの女性店員がハサミを私に突き付けていた。
「しゃべらないで!」
私は目を見開く。
激しい恐怖が私を襲う。が、その恐怖は5秒後にはきれいさっぱりなくなっていた。
「おりゃぁぁぁ!」
「え?!」
霞さんは目の前の店員を投げ飛ばす。
その姿は、まるで神話か何かに出てくる勇者のようだった。
「うっ…あぁ!」
私は倒れ込んだ店員に向かって語り掛ける。
「店長さんを殺したのは、あなたですね。七海さん」
彼女は歯ぎしりをしながら、首を縦に振った。
「あなたに一つだけ質問があるんです」
「…何よ」
彼女は私を睨みつける。
「あの死体…悲しい顔をしてるんです。その理由に心当たりはありませんか?」
「――――え?」
彼女はハッと目を見開いた。
その瞬間、後ろから男性店員が走ってきた。
私は男性店員にも質問をする。
「死体が悲しんでそうな顔をしてるんです」
「理由に、心当たりは?」
彼は困惑したような目をしつつ、何かを察したように答えた。
「あの…七海さんと店長は仲が良かったんです。元々」
「七海さんがレジのお金を取ってたり、そういうことをしないように克服させていきたいと言っていたのですが…」
彼は一呼吸し、言葉を続けた。
「レジのお金が本格的に誤魔化せないほどに少なくなって、それで、店長は七海さんを警察に突き出すことに」
「だから、その顔は、あの…七海さんへの申し訳なさから、だと思います」
私は地面に横たわる女性店員の方を向く。
彼女は私たちに顔を見せないようにしていた。
だが彼女の近くに落ちていた水滴は、どう考えても涙だった。
「しっかし大変なことになったねー」
「ほ、本当にね」
ショッピングモールを出てから、ずっと彼女は何かにおびえていた。
どういう事なんだ?ひょっとして、一年前に私の前から姿を消したことに関係あるのか?
その疑問を持ちながら、私は信号が変わるのを待つ。
その時だった。
――――私は、何者かに押し出された。
「うわぁぁぁ!」
次の瞬間、私の体は強く引き戻される。
霞さんが助けてくれたらしい。
私は心臓の鼓動を抑えられなかった。
「ごめん…ごめんね…」
彼女は絶望した顔で、何かに向かって謝り続けていた。
正直言って、なぜ私が赤信号に突き飛ばされたのか。
その理由が気にならないと言えば嘘になる。
ただ、私はその謎を気にしないことにした。
――――私の大切な人に、何があったのか。
この一年間を紐解いていくことが、何よりも大切だと感じたからだ。
人事ファイル No.9
梅好 霞
好きなもの: 筋トレ
嫌いなもの: 悪人
底抜けに明るい少女。