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『想いは、時を巡る。』 episode.3
「みんなー!今日は俺たちのライブに来てくれてありがとー!」
「思う存分、楽しんでね!」
「それではー、まずは1曲目!――――」
私―――増田結奈は、今、Prince×2のコンサートに来ている。
ライブは何十回も行っているのだが、やっぱり生Prince×2はテレビで見るよりはるかにカッコいい。
そして、タクトもやっぱりカッコよかった。
そんなタクトのことをじーっと見つめていると、パチっとタクトと目が合う。
すると、タクトは私の存在に気づいたのか、ニコッとウインクした。
―――心臓が、止まるかと思った。
ユナ(えええええええっ!!!た、タクトが、私に!???)
しばらく、歌を聴くどころじゃなかった。
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ユナ(ふぅー。色々あったけど、やっぱ楽しかった!)
コンサートが終わり、グッズでも買って帰ろうと思ったそのとき――――
「―――増田結奈さんですか?」
「……は、はい………」
黒いスーツのメガネをかけた男性に、声をかけられる。
誰だろう………??
「わたくし、Prince×2のマネージャーをしております、板見と申します。すみませんが、このあと、お時間ありますでしょうか………?その……馬場があなたに会いたいと申しておりまして………」
|アイドル《タクト》が………
|ファン《私》に会いたい……??
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マネージャー「――こちらです。」
マネージャーさんに連れて行かれた先は、控室だった。
扉の横には、『Prince×2 馬場拓斗様』と書かれている。
流石は大きな会場でやるコンサートだ。
どうやら、控室も別々になっているらしい。
「ガチャ」
マネージャー「お連れしましたよー。拓斗さん。」
タクト「ああ、ありがとう。」
マネージャー「それでは、私はここで。」
マネージャーさんは席を外してしまった。
タクト「ごめんね、急に呼び出しちゃって。」
ユナ「いえいえ、そんな………」
タクトは、まだライブのときの衣装を着ていた。
タクト「そうだ、ライブのとき、僕と目、合ったよね?気がついた?ウインクもしたんだけど……」
ユナ「はい!もちろん。」
タクト「よかったー。たまたま観客席の方見渡したら、ユナちゃんがいてさ。来てくれたんだ、って思って、嬉しくてつい。」
ユナ「い、行くに決まってるじゃないですか!Prince×2のライブなら、たとえ火の中水の中、どこにだって行きます!」
タクト「………あははっ!やっぱユナちゃんは面白いね!」
そうやって笑う、タクトの笑顔に思わず私はドキッとした。
タクト「―――ユナちゃんは、まるで妹みたいだなあ………」
ユナ「い、妹……??」
タクト「うん。もう、俺の妹にしたいって感じ!……俺にも妹いたんだけど、幼い頃に両親が離婚して別々になっちゃったからさ………あ、これここだけの話ね。」
妹いたんだ………初めて知った………
タクト「―――でも、そのとき妹はまだ生まれたばかりだったから、俺のことなんて覚えてないんだろうなぁ……」
ユナ「………いつか、妹さんと会えると良いですね……」
タクト「…………そうだね。―――あっ、ご、ごめんね。こんな暗い話しちゃって!そうそう、ユナちゃんに頼みたいことあってさ。その……俺と付き合ってくれない?」
つ、付き合う!?
付き合う!?
私が!?タクトと!?
タクト「……その、もうすぐ彼女が誕生日でさ。だから、誕生日プレゼントをと思ってるんだけど、中々良いプレゼントを選べる自信なくて………だから、同世代のユナちゃんに付き合って欲しいと思って!……イヤなら全然良いんだけど………」
あ、タクトって彼女いたんだ…………
そりゃそうだよね。タクトカッコいいし。
やっぱ私はただのファン。
私がタクトとなんて…………
―――え、待って。
私、今何考えてた?
私、何を期待してたの…………??
タクト「―――ユナちゃん?」
ユナ「―――ハッ!す、すみません…………!」
ダメだ!なに落ち込んでるの、私!
タクトのファンとして、彼女さんに贈る最高のプレゼントを選んであげるんだ!
ユナ「……わっ…私でよければ!」
こんなにカッコいいタクトの彼女さんだ。
きっとオシャレで美人な人に違いない。
そんな人に似合うプレゼントが選べるか分からないけど、私がやってみせる!
タクト「本当!?ありがとう!じゃあ、来週の日曜の午後とか空いてる?」
ユナ「はい!大丈夫です。」
タクト「よし。じゃあ、来週の日曜の午後2時に渋谷駅で待ち合わせね!」
ユナ「は…はい!」
タクト「あと、なんかあったときのために………」
タクトはスマホを取り出す。
タクト「連絡先も交換しよう。」
た、タクトと連絡先を………!?
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タクト「―――よし、追加完了、っと。」
ユナ(やってしまった…………)
ついに、ファンの領域を越えてしまった…………
ごめんなさい、他のファンのみなさん………許して………
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七海「―――それ、“ショッピングデート”じゃん。」
ユナ「……ゴフッ!…………しょっ、ショッピングデート!?」
危うく、飲んでいたペットボトルの麦茶を噴き出しそうになった。
七海「だってそれしか考えられないでしょ、連絡先まで交換して。彼女いるのも、もしかして嘘だったりして………」
サンドイッチを頬張りながら、七海はそう言う。
ユナ「た、タクトが嘘つく訳ないじゃん!」
そうだよ………!!第一、嘘までついて私を誘うとか、何のメリットが…………
七海「まあ、嘘じゃないにせよ何にせよ、頑張ってね〜、応援してるよ〜。あと、相手は有名人だから、写真だけは撮られないようにね。あんな状況撮られたら不味いし、彼女いるんならもっと不味いから………」
ユナ「う………うん………」
七海の気があるのかないのか分からない応援と、その忠告に、私はガックリとうなだれた。
〜character.3〜
鈴木七海(すずきななみ)
身長……163cm
見た目……茶髪のポニーテール
しっかり者の面倒見の良いユナの中学からの親友。ユナのことを度々気にかける。女子と集団でつるむよりユナと一緒に過ごした方が楽しいらしい。思ったことは結構ズバズバと言うタイプ。