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一
⚠️嘔吐表現あり
涼しげな顔でコーヒーを飲む彼の首元を、穴が空くほど見つめている。人を魅了するためにつくられたのではないかと思うほど完璧に整った喉の、緩やかな曲線を見つめ続けている。
彼は毎朝、私の淹れたコーヒーを飲む。
彼はおよそ自分の身体にものを入れる行為に執着しない。食べること、飲むことを彼が自ら欲したのを私は見たことがない。いつも私が勝手に食事を用意し、手に入れたものを飲ませている。彼の要望なんて聞かないし、聞く必要もきっとない。だって彼は何も望まないからだ。
そして彼がコーヒーを飲むことに対して、彼自身に関心がなくても、私には関心がある。
今日はコーヒーに毒を混ぜたのだ。
彼は食事に対して何も言わない。たとえ毒が混ぜられていても。
私は彼を見つめて、じっと待っている。
彼が机にカップを置いた。
そして、おもむろに指を口に近づけて。
パンも満足に入らなそうな小さな口に突っ込んだ。
私は彼がコーヒーを吐き戻すのを黙って見届けた。特別驚くようなことでもなかった。
そして、私が驚かない程度のことは、彼も驚いたりしない。
コーヒーを戻した彼は、平然と口元を拭い、色のない目で私を一瞥した。
その顔に、仕草に、堪らなくぞくぞくした。
私はゆっくりと彼に近づいた。胃液で艶めいた彼の手をそっと取り、骨ばっていて青白い彼の手に、自分の唇を近づける。ぬるぬると濡れた感触が唇に触れる。
その日のキスは、苦い苦い胃液の味がした。