公開中
Prologue どこにもない何か
こんにちは。初めまして。S and Nと申します。
どうぞ宜しくお願いします。
世界は、静かだった。
風も、音も、
すべてが遠くにあるみたいに、薄い。
---
「……遅いな」
ぽつりと、誰かが呟く。
その声すら、やけに軽い。
---
足元には、影。
崩れたもの。
動かなくなったもの。
でも、それが何だったのかは――
よく分からない。
---
「もう少しだったのに」
少し、残念そうに言う。
本当に、少しだけ。
---
しゃがみ込む。
手を伸ばす。
だが、触れない。
「……間に合わなかったか〜」
風が吹く。
何かが、崩れる音。
それだけがやけに大きく響いた。
---
「ま、いっか」
立ち上がる。
軽く、土を払う。
「次は、ちゃんとやろ」
その言葉だけが、
妙に、はっきりしていた。
---
振り返らない。
何も気にしないみたいに、
そのまま歩き出す。
---
世界は、何も変わらない。
---
ただひとつ、
確かだったのは――
---
さっきまでそこにあった“何か”が、
もう、どこにもないということだけ。