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【 - 春雷標本 - 】
これは、春が訪れた、とある日本での物語。__※この作品はフィクションです。__
3月の終わり、校舎の裏にある古い桜の木が、音を立てて目を覚ました。
――と、僕は思った。
その木は、グラウンドの隅で何十年も立ち尽くしている。
入学式の写真にも、卒業式の写真にも、同じ場所で写り込む、変わらない背景だ。
幹は太く、樹皮はひび割れ、枝は空へと広がっている。けれど、今年は違った。
雷が鳴ったのだ。
春なのに、乾いた空を引き裂くような一閃。
光が走り、校舎の窓がびりりと震えた。僕は理科室でひとり、
放課後の実験の片づけをしていた。雷は桜の木に落ちた。
駆け出して、裏庭へ回る。焦げた匂い。まだ煙が細く立ちのぼっている。
幹の一部が裂け、内部があらわになっていた。
けれど、不思議と枝は折れていない。蕾は、無傷だった。
翌日、学校はざわついた。危険だからと、桜は伐採されることになった。
老木だし、雷に打たれたのだから当然だ、と大人たちは言っていた。
でも、僕は見てしまったのだ。
裂け目の奥に、透明な塊があるのを。
放課後、こっそり裏庭へ行く。幹の傷口に手を伸ばすと、そこには拳ほどの、
琥珀のようなものが埋まっていた。光を受けると、内部で淡く揺れる。
それは、雷の『カケラ』だった。触れた瞬間、景色が反転する。
そして気づいたときには、僕は木の中で立っていた。
年輪の層が、時間の層として広がっている。薄茶色の帯、濃い色の帯。
その一枚一枚が、1年だ。僕はその層のあいだを歩いていた。
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--- **「――ここは、春の標本室だ」** ---
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声がした。振り向くと、風の形をした何かが立っている。
顔はないのに、確かにこちらを見ている。
「雷が、扉を開けた。おまえは招かれた」
そのまま、僕は黙ってそっと層に触れる。すると、風景が立ち上がった。
触れることに意味はない。ただ、無意識に体がそうしていたんだ。
そして、僕の目に、数しれない “春の記憶” が映りだす。。
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どこか戦争の年の春。校庭は畑になっている。子どもたちは制服ではなく、
もんぺ姿で土を耕していた。しかし、それでも桜は咲いている。
高度経済成長の春。新しい校舎が建ち、
真新しいランドセルが揺れている。そして、高い笑い声が響く。
震災の翌年の春。体育館の窓に、手書きの「がんばろう」が貼られている。
校庭の片隅に仮設住宅が見える。桜は、少し枝を減らしている。
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すべての春が、この木に刻まれていた。
「なぜ、これを僕に見せる?」
「おまえは、春を〝ただの季節〟 だと思わなかっただろう」
胸の奥で、何か引っ掛かる感じがした。
確かに僕は、春が好きだった。始まりの匂いがするからだ。
だけど同時に、終わりの匂いもする。別れ、卒業、変化。
春はいつも、始まりと終わりを与えてくる。
「春は、破壊だ」
そう風が言う。
「凍った世界を壊し、均衡を崩す....春。
そして、芽を押し上げるために、殻を裂く....雷」
喋る風を横に、僕はそのまま年輪の中を歩き続ける。
そうして年輪の奥へ進むと、まだ見ぬ未来の層があった。
薄く、柔らかい。同じように再び触れようとすると、風が止める。
「そこに、|未来《つづき》の標本はない。まだ刻まれていない。
....この木は《《切られる》》からな。しかし、それも春というものだ」
その言葉を聞いて、僕ははっとする。
今まで気づかなかった。破壊は、終わりだけじゃないんだ。
木は切られる。けれど、その年輪は製材され、板になる。
机になるかもしれない。本棚になるかもしれない。あるいは、誰かの家の柱になる。
――春は、形を変える。
気づけば、僕は裂けた幹の前に立っていた。
手には、あの透明な雷の『カケラ』が握られている。
翌週、伐採は行われた。
チェーンソーの音が響き、桜はゆっくりと傾き、地面に横たわる。
花は、その衝撃で一斉に舞い上がった。
空が、白くなる。その花吹雪の中で、僕は思う。
これは、終わりじゃない。
数日後、理科室の棚に、小さな標本箱が置かれた。
中には、あの、透明な|塊《カケラ》。あの後、僕が理科室に持ち帰ったものだ。
そしてそのラベルには、こう書いた。
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--- **【 - 春雷標本 - 】** ---
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試しに、その中を顕微鏡でのぞくと、太陽の光を反射するように、
内部で微かな光が走る。誰にも見えないほどの、ほんの小さな閃光。
新学期が始まる。
校庭の隅には、若い桜の苗木が植えられた。
頼りない幹。細い枝。けれど、確かに芽をつけている。
風が吹く。
僕はもう一度、標本をのぞく。その光は、まだ輝いていた。
あの老木が抱えていたすべての春が、
雷とともに解き放たれ、今はどこかで形を変えている。
――壊すことで、始める。
――裂けることで、芽吹く。
――春は、やさしい顔だけじゃない。
――それでも、世界を前へ押し出す力を持っている。
そしてその力は、いま、僕たちの中にも落ちているのだ。
は〜るがき〜た〜は〜るがき〜た〜どぉ〜こ〜に〜きた〜♬
そういえばなんで1話完結となると主人公が男になりやすいんだろう....(?????)
色々書いてみたけど、自信はNA☆I☆ZE((((((((((((