公開中
『想いは、時を巡る。』 episode.2
私―――増田結奈、普通の高校2年生。
今から、推しに催眠術をかけられます――――――
「はい!じゃあー、名前を教えてください!」
このイベントを回しているPrince×2のリーダー・|宮本優人《みやもとゆうと》くんがそう言う。
ユウトくんに話しかけられるだけでも緊張するのに、タクトに催眠術かけられるなんて…………………
ユナ「………増田…結奈です……………」
ユウト「はい!じゃあ、ゆなちゃん!馬場くんに催眠術をかけられる準備はバッチリですかーっ??」
ユナ「が……頑張ります……………」
タクト「よし!もう俺頑張るんで!ユナちゃんも、気ぃつかって演技とかしないで、リラックスしていいからねー!」
ユナ(ぎゃあああああああっっ!!!!はっ、話しかけられた………!!)
タクト「よしっ!じゃあ、行きます!眠くなる催眠術です!………あなたはだんだん眠くな〜る………あなたはだんだん眠くな〜る………」
タクトに見つめられる。
あれ……??顔真っ赤になってないかな………ああ、こんなことならちゃんと髪型セットしておけばよかった……!!
そんな考えがぐるぐる私の頭の中を駆け巡る。
ちゃんと集中しないといけないのに、いざ見つめようとすると、また緊張して顔が真っ赤になってしまう。
―――というか、全然眠くらならないな……………!?
タクト「あれっ??全然かからないぞ……………??」
ユウト「ダメじゃん!」
ユウトくんのツッコミに、会場は盛り上がる。
タクト「マジか〜っ!ごめんね、ユナちゃん。」
ユナ「あっ………いえいえ。」
ユウト「はい!以上、馬場くんの特技披露でした〜!―――では、続いて、佐野くん!―――」
私のせいだ。私が緊張しちゃったから催眠術にかからなかったんだ。
何で私なんかを選んだんだろう………
---
全てのイベントが終わり、私たち生徒は教室へ戻る。
七海「ユナ〜!すごいじゃん!生タクトと話せたじゃん!」
ユナ「う、うん………でも、緊張しすぎてかからなかったから、申し訳ないって感じ…………やっぱかかったフリでもしておけばよかったかな…………」
七海「いいんだよ!気にしない気にしない!タクトくんだって『かかったフリはしなくていい』って言ってたし!それに、まあ………タクトくんなんて催眠術師でもないんだからさ、失敗ぐらいするって!」
ユナ「うう、そうだよね………ありがとう。ちょっとだけ元気出た。」
先生「増田ー!ちょっといいかー。」
ユナ「あ、先教室行ってて。」
七海「うん。」
---
先生「―――実は、Prince×2の方に、君を呼んで来てほしいってお願いされてね。ステージにも上がったし、きっとお礼か何かじゃないかな。―――ここが控室だから。終わったら教室戻るように。」
ユナ「……はい。」
そう言って、先生は去っていった。
控室は、被服室だった。
「コンコン」
扉を恐る恐るノックする。
「失礼します。増田です………増田結奈です………」
「ガラッ」
控室の扉が開く。
タクト「来てくれてありがとう!………ごめんね、呼び出しちゃって…………」
いきなりのタクトに、私は失神する一歩手前まで行ったが、何とか踏みとどまった。
ユナ「ぜっ…全然!!」
タクト「さっき俺の催眠術付き合ってくれたのに、失敗しちゃったから、ずっと申し訳なく思ってて………」
ユナ「いえいえっ、そんな!私も、すごく緊張してて………その……実は私、タクトさんの大ファンで………」
タクト「えぇっ!?マジで!!超嬉しい!俺も実は誰に催眠術かけようかな〜って選んでるとき、なんか一人だけすごい………何だろう……こう、オーラを感じて………それで選んだのがユナちゃんでさ。何か分かんないけど、親近感を感じるんだよね。」
ユナ「私も、初めてタクトさんを見たとき、なんか他の人とは違うオーラを感じて……」
「お〜っ!これって両想い〜!?」
「ヒューヒュー!タクト頑張れ〜!」
同じ控室にいたPrince×2の他のメンバーがそうはやし立てる。
タクト「やっ………やめろよ………!ごめんね、ユナちゃん。気にしなくていいから。あいつら、見た目は20前後の大人だけど、中身は中学生男子だからさ。」
「おい〜!中学生男子って何だよ〜!」
そう言って、笑い合うタクトと他のメンバーを見て、私はほっこりした。
みんな仲良しなんだな、と思った。
タクト「あ、そうそう!お詫びとお近づきの印に。これ、来月やるPrince×2のライブチケット。」
ユナ「えっ…………!?嘘……!?あ、ありがとうございます!」
タクト「それじゃあ!時間取らせちゃったね。今日はどうもありがとう!」
ユナ「はい……!!こちらこそ!夢のような時間になりました!それでは!」
タクト「はーい♪じゃあね!」
扉の閉まり際、タクトは私に向かってウインクした。
また、胸がドキッとなった。
---
七海「―――へー、ホントに夢みたいな出来事ね。」
ユナ「うん!本当に幸せだった!」
七海「それに、ライブのチケットまで貰えて。結構大きなコンサートなんでしょ?この前、ユナ買おうとしてたけど売り切れちゃってたもんね。」
ユナ「そう!だから、ほんっとに嬉しい!」
七海「まあ、楽しんできなよ。頑張れー!応援してるぞーっ!」
ユナ「そ……そんな、大袈裟だよ〜………」
七海「じゃあ、私はここで。」
ユナ「うん、じゃあね。」
―――本当に、夢みたいだな…………
まさか、タクトも私に親近感を持ってくれていたなんて…………
――――でも、もう二度と話すことは無いんだろうな。
所詮、タクトはアイドル。私はただのファン。
私はタクトだけを観ているけど、
タクトは大勢のファンを《《全体》》として見ているんだ。
だから、それ以上の関係なんて、無いんだ…………
夕暮れに染まる学校からの帰り道が、いつもより寂しく感じた。
〜character.2〜
馬場拓斗(ばばたくと)
身長……176cm
見た目……焦げ茶髪の髪色。
今をときめく人気アイドルグループ・Prince×2の一番人気のエース。イメージカラーは青。身長も年齢もメンバーの中では下から二番目に低い。愛されキャラ。