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海に溶けゆくこの想いは
彼はただ、海を見つめて言った。
「彼女が帰ってきてくれたら…」
そんな夢を見るのは何度目だろうか。
また、僕は君を求めている。
海が緩やかに僕の涙を包み込んだ……
「おい、海原!さっさと起きろ!」上司の声で目が覚め、僕はデスクに突っ伏していたことに気付く。どうやら、寝落ちしていたようだ。「はぁい」と気だるげに返事をし、僕、海原快《うなばらかい》はパソコンに向き直る。 また夢を見てしまっていたようだ・・・
僕はとある海辺の町で会社員として働いている。仕事は大変だが、友人には恵まれている。
仕事帰りは毎夜、同僚で友人の対馬と話をする。
「今日も居眠りしちゃったよ、もう何回目だろ?」
「快、また転寝して、あの子の夢を見てたのか? 早く忘れたらどうだ? あの子はもう帰ってこないんだから」 その一言が重くのしかかる。 あの子、流華《るか》は僕の恋人だった人だ。
流華との出会いは何か月か前のことだった。ある日、僕は海に出かけた。本の気晴しのつもりだった。
そこには一人の女性が立っていた。彼女はこちらを振り向いた・・・と思うと、彼女は砂浜に倒れた。必死だった。助けを呼び、助けが来るまでの間、彼女に声をかけ続けた。それに答えてくれたのか、彼女はぼそりと何かを呟いていた。その後、救急車が来たので、僕は事情を説明し、場を後にした。
それからお見舞いにたびたび行くようになり、彼女の名前が「流華」であると知った。
ある時、流華はこう言った。
「快さん、私、持病があって、それであの時倒れてしまって、もう長くないかもしれません」
流華によると、彼女の持病は治る確率がかなり低いらしく、いつその時が来てもおかしくはないと言う。
「私、病気が治ったら、快さんとあの海に行きたいです。」
笑顔だった。病気であるとは感じさせない、明るいものだった。一目惚れと言ってもよいと思う。
その瞬間、僕は声に出してこう言っていた。
「付き合ってください」
彼女は目を丸くした。しかしすぐに、「はい」と返事をしてくれた。
それからは毎日病院に通った。 他愛のない話や、病気が治ったらここに行きたいなど、流華は話してくれた。体調も安定し、退院はもうすぐだと思われた。
しかし、突然彼女の容体は悪化し、治療をしたものの、彼女は死んでしまった。
唐突な出来事に、何が起こったのか分からなかった。 心にぽっかりと穴が開いたようだった。
二人であの海に行くはずだったのに・・・ その夢はあまりにも無慈悲な形で打ち砕かれた。
次の日、仕事が休みだったので、久しぶりにあの場所に行ってみることにした。
流華が好きだった、あの海に。
海はとても綺麗だった。彼女が生きていたころと変わらず、美しい青色をしていた。
潮風が僕の頬を撫でる。そこには誰もいない。僕一人でただ一心に海を見続けていた。
彼女と見ることができたら、どんなに良かっただろうか。
その夢も叶わないまま、ただ一人立ち尽くしている。
その時だった。海の向こうに、流華が見えた気がした。 もしかすると・・・
彼女は海になったように思った。
僕は必死に叫んだ。
「流華ーー!僕は君とここに来れて嬉しいよーー!!」
精一杯だった。これで彼女との夢は叶っただろうか。
僕の叫びと彼女への想いはこの海に溶けていった。
海は彼の言葉を喜ぶかのように波を立てていた。
この物語を作ったのは、私が小学生の時でした。
中学生になり、整理をしているとこの物語を見つけたので、デビュー作として投稿させていただきました。著者が子供ということもあり、つたない表現もあったとは思いますが、お楽しみいただけたのでしたら幸いです。 引き続き執筆を続けていこうと思っていますので、私、御香里(みかり)るなをよろしくお願いいたします。