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おくすり
いつまでも、ずっと私は私だよ。
「甘えん坊で、可愛くて、お薬が大嫌いな由奈ちゃん」
そんな言葉が頭をよぎるの。私が幼稚園を嫌がって熱を出した時に、お母さんが柔らかいストローのついている水筒に注いでくれたポカリの味。あの味を感じると安心するの。
おでこにずーっと付けてた冷えピタも、今は使うことがないね。
小学校に上がって、みんなが九九を覚えて筆算を勉強してるときに私は4の段を一生懸命覚えていた。だけどみんな笑って一緒に覚えてくれた。
その頃も体が弱くて、ずっとお薬を飲んでいた。でも大嫌いで、よく先生が給食のあとに飲ませてくれていたっけ。
小学校最後の運動会。クラス対抗の大縄で私がみんなの足でまといになっちゃったけど、放課後一緒に練習してくれた。結果は最下位だったけど「楽しかった」って笑ってくれた。
中学校にあがって、勉強も難しくなった。数学は特に分からなくて、先生や友達が時間をかけて教えてくれた。それでも出来損ないな私は赤点ばっかり取って、居残り。先生に小学校の内容からまた教えてもらったな。
中学校は小学校よりも遠かったから遅刻ばっかりで、朝の読書の時間、5分遅れで到着する私をみんなは笑ってくれた。
その頃もお薬を飲むのが苦手で、よく昼休み保健室に行って、養護の先生に飲むのを手伝ってもらった。
すごくマイペースな私は授業の準備が遅くて、一緒に移動教室に行ってくれていた友達に迷惑をかけちゃったけど、私の事を待っててくれたな。そんな大好きな友達がたくさんできた。
偏差値50の高校を受けることになって、1年間周りの人に支えてもらいながら猛勉強して、なんとか受かることができた。お母さんも、お父さんも、先生も、友達もみんなが一緒に喜んでくれて嬉しかった。
私が行く高校には同じ中学校だった子が1人もいなくて、不安でいっぱいだった。高校に入学する頃にはお薬はもう必要無くなってた。
そんなこともあって、私は今までみたいに周りに甘えすぎずに、ひとりでも頑張っていくぞって張り切ってたな。
だけどそこに待ち構えていたのは冷たい世の中だった。
遅刻は許されないし、みんなが迷惑そうに冷たい視線を向けてくる。授業の準備が遅い私をクラスのみんなは平気そうに置いていくし、先生も1人だけ授業についていけない私を見て見ぬふり。体育祭の二人三脚ではペアの子に迷惑をかけちゃって、その子がクラスの中で高い立ち位置にいたから色々言われちゃって、みんなに嫌われちゃった。
いつも友達とグリコをして帰ってたあの帰り道も、今はひとりで泣きながら授業に追いつこうと教科書をめくる帰り道。
家に帰って、昔とは違う病院に行って、昔とは違うおくすりをもらう。
ぼーっと眺める夕焼けが綺麗だった。夕焼けは昔からずっと綺麗だね。変わらないね。
「だけどいつまでも、私はずっと私だよ」
周りは変わっていっちゃった。私だけ、置き去りみたい。
お昼休みに、求めるようにおくすりを飲む。
よかった。
1人で飲めたよ。
変われたよ。