公開中
【乖世堂 其一】もし、アイツが居なかったら。
いつも通り。
ああ、あの人の帰りが待ち遠しい。
チリンチリン…
客の来店を知らせる音が聞こえる。
「いらっしゃいませ、乖世堂です。
どんな世界をお望みでしょう?」
いつもの言葉を口にする。
すると、いつも通り、客は驚く。
「えっ…乖世堂?噂の?お前は?」
いつも通りの質問。
「ええ、ここは乖世堂。
もしもの世界を売る店。
そして私は、乖世堂にて接客を任されている、
《《世未知无詩喪》》。ああ、
《《よみちもしも》》でございます。
どんな世界を、お望みですか?」
「…え…?」
しばし悩んだ後彼はこう答えた。
「俺が通ってる学園の、
嫌いなやつ…純恋の居ない世界にしてほしい」
「はい、承りました。
では代償…つまり、お代は________」
最後の方は聞こえていないようだった。
期待で胸が踊っているのだろう。
---
ん…?ここは…家?
俺は記憶を手繰って思い出す
たしか…《《乖世堂》》に行って…
そこで…願いを…?
そうだ、変わっているはず。
学園に急ぎ足で向かう。
そして学園に行き、学園内を探しつつ歩く。
…居ない。
胸が高鳴る。あの大嫌いな純恋がいない。
これまでも隙が有れば水をかけたりなどを
していたがなかなか学園を辞めなかった。
これで俺は純恋に酷いことをしているなどと
疑いを掛けられ先生に叱られることもない。
教室に行く。
何故か、クラス全体から避けられている気がする。
なんなら、先程からすれ違いざまにも
生徒にも先生にも避けられていたような…
疑問に思いながら席に着く。
普段声を掛けてくる友達が掛けてこない。
「なぁ、どうした?」
声を掛ける。
「うわ、失せろよ」
「…は?」
「お前のこと嫌いだっつってんだよ。
関わんな」
そう言い立ち去る。
何故?
ああ、そういえば乖世堂でお代として
何かを取られたような…
ああ、そうだ。
《《`愛`》》だ。
『__では代償…お代は愛。愛されなくなります。』
そう、確かに言っていた。
何故、あの時しっかり確認しなかったんだろうか。
これから一生。愛されないまま生きていく。
それはとても虚しいことだ。
---
やっぱり。
閉店後、私は一人結末を《《見て》》いた。
予想通り結末はbadend…
期待していた結末ではない。
それよりも。
そろそろ《《あの人》》の帰ってくる頃だ。
私は一人待つ。
それまで、お客様に最上の世界の提供を。