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Chapter 2:従姉妹
「ただいま〜」
家の中から返事はしない。そりゃそうだろう、母親はパートで日銭を稼ぎ、夜はスナックの激務だ。
生活するために朝も夜も仕事に飛び回っている母を見ると、無関心で有名な私も流石に申し訳なくなる。
そんな私の気持ちを無視して腹は鳴り続ける。成長期である自分の体が憎らしい。
ちなみに父親は大地震の際に亡くなった。
父親と言っても、酒とタバコと暴力と不倫に溺れたバカだ。正直いなくなってくれて幼心に安心したのを覚えている。
階段を登ると、自分の部屋の襖を勢いよく開ける。
スパァン、といい音がしたそれに満足しながら部屋の中に目をやると、一瞬頭がフリーズした。
「お、はろはろ〜」
そこにいたのは、深緑色のポニーテールに黄色の優しげな吊り目、スーツに身を包んだ長身の女性。
間違いない、北海道に住む従姉妹──|安藤 花《あんどう はな》だ。
いや、気のせいだろ。流石にな?
もう一度襖を閉めると、深呼吸を2回して襖を開ける。
花「よっ!芽衣!」
芽衣「帰れ」
花「酷くない??」
てかなんでここにいる。鍵しまってただろ。
花「まぁまぁ落ち着いてぇ、鞄下ろして、飴ちゃんいる?」
芽衣「要らん。てかどうやって入った。」
花「もろもろ説明するからとりあえず座って〜」
鞄を下ろされ、ついでに身長チェックをされ、放り投げられたペシャンコの座布団に座る。いや、これ一応私のなんだけど。
花「いつもだったら酒飲んだくれてるだけだけど、今日は仕事できたの。はいこれ名刺。」
先ほどとは打って変わって丁寧に渡されたのは、黒地に金の文字が浮かぶ洗練された印象の名刺だった。
渡されたことのない物に戸惑い、え、と間の抜けた声を出す。
芽衣「魔法少女育成事務所…スカウト課、安藤花…」
冷静になって文字を読むと、聞いたことのある名前が脳みそに入ってくる。
魔法少女──10年前、サティロスの大量発生が起こった時、どこからともなく現れた奇術を使う少女…というところくらいなら知っている。
彼女らは奇術を使いサティロスを退治し、そのおかげで一時サティロスが減ったことがあった。
花「ま、そういうこと。私、魔法少女育成事務所──そのまんまだけど、魔法少女を育てたり素質のある人を探したりっていう仕事をしてんのね。」
芽衣「はぁ…ってか、仕事ってどういうこと?お母さんなら仕事でいないけど。」
花は3秒ほどきょとんとしたかと思うと、まだわからないのと言わんばかりにため息をついた。
花「だ〜か〜ら!|少女《・・》って言ったでしょ!私がスカウトしにきたのは斗霧芽衣、あんたよ!」
芽衣「は?」