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ウマ娘~オンリーワン~ 10R
最初に謝っておきます。長くなってしまいました………(もはや短編でもない)
ですが、いつも通り楽しんで読んでいただけたら幸いです。
10R「強いウマ娘」
トレーナーさんと喧嘩してから一週間。
トレーニングも後ろめたくて出れていない。
でも、私は意を決した。
トレーナーさんと、ちゃんと話そう。
部屋を出て歩き出した。
気がついたら、私はチーム室の扉の前に立っていた。
扉を開ける手が震える。
そんな震える手でドアノブに手をかける。
すると――――――
「バタン!」
扉が開いたしかし、私が開けのではない。チーム室の中から誰かが開けたのだ。
扉の前に立っていたものだから、私は弾き飛ばされ、一瞬宙に浮いた。
そして、数十センチ先の地面に尻もちをついて倒れた。
アルノ「いてて……」
幸い、怪我は扉にぶつかったおでこと、尻もちをついたお尻だけという軽いもので済んだ。
「す、すまない!だっ、大丈夫か!?……ってア、アルノ?」
アルノ「トっ、トレーナーさん!?」
一週間ぶりのトレーナーさんの顔。いきなりトレーナーさんに会うことになってしまった。
牧村「お、俺、ちょうどアルノのところに行こうと思ってて……ひょっとしてお前もか?」
アルノ「はい……トレーナーさんに謝ろうと思って…………色々勝手なこと言ってすみませんでした!」
私は、頭を下げ、深く謝罪した。
牧村「か、顔を上げてくれ!悪いのは全部俺なんだ!アルノがなかなかレースに勝てなくて……それで焦っててつい……菊花賞では絶対獲るってすごく意気込んでたから……でも、アルノが菊花賞出たくないなら、俺はアルノの気持ちを尊重したい。考えたんだ。アルノがいない間に、代わりに出走できそうな重賞を。次、アルゼンチン共和国杯なんかどうだ?2500mだし、アルノは長い距離に向いてると思うから……ダメだったら距離は短いけど、福島記念なんて選択肢もあるぞ。それに――――」
アルノ「トレーナーさん。こんなに考えてくれてありがとうございます……!……でも、私、休んでる間に色々考えたんです。トレーナーさんに言われた言葉が、思ったより心に刺さっちゃって。確かに、2人に負けっぱなしは嫌だ。私は、レースは大逃げですけど、もう2人からは逃げません!出ます、菊花賞!やらせてください。次こそ勝ちます!」
牧村「ほっ、本当か……??」
アルノ「はい。トレーニング休んでる間に、1日1回、街中で3000mマラソンしてきたんです。菊花賞は、3000mですから。下準備はOKです!」
牧村「アルノ……よーし!次こそ頑張ろう!!打倒2人!!一緒に菊花賞目指そうな!」
アルノ「はい!」
私の中で、曇った世界がぱあっと明るくなった気がした。
今なら、何をやっても出来る。そんな気がしていた。
そして、私は本当に2人に勝てるんじゃないかと思った。
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アルノ「――――うおおおおおおっっ!!!」
牧村「ゴーール!アルノ、また自己ベスト更新だな。菊花賞のレコードタイムまで1秒差に迫ったぞ!」
ショート「ハァッ、ハァッ……長距離だとアルノには敵わないよ……強すぎ……」
ブリザード「2着のサンちゃんに5バ身差だもんね〜♪」
サン「す、すごすぎる……距離が長いほど、逃げの勢力が上がるって、どんな身体してるんでしょうか……??」
もう私は、長距離だったら先輩にでさえ圧勝してしまうほどに成長していた。
絶対勝つ。今度こそ。
いや、勝たなければいけないんだ。
〈レース当日・京都レース場〉
実況「さあ、やって参りました。クラシック三冠レース最終戦・菊花賞。圧倒的な1番人気は17番・ユニバースライト。41年ぶりの2年連続クラシック三冠ウマ娘の誕生が期待されております。前走の神戸新聞杯では3着。ですが、周りからの期待は厚いです。
続く2番人気です。14番・クリスタルビリー。前走の神戸新聞杯で重賞初勝利。こちらも期待がかかります。
続く3番人気です。18番・アルノオンリーワン。今年に入り、全て3着以内。こちらもGⅠ制覇に期待がかかります。
その他にセントライト記念を勝利した15番のバルカシエル。そして5番人気に同じくセントライト記念6着の5番・カナタサンセットがいますが、菊花賞は、注目の三強対決となります。―――――」
ユニバ(絶対に負けない………ママの代わりに、三冠ウマ娘に…………!!)
〈約10年前〉
幼い頃のユニバ「ママ~!今日もおみまいにきたよ~!」
ユニバの母「あらー。今日も来てくれたの?ママ、嬉しいな~!」
私のママは、ウマ娘だった。
現役時代も、レースでたくさんの勝利を挙げた。
そして、ママはクラシック二冠ウマ娘でもあった。
そんなママの夢は、クラシック三冠ウマ娘になることだった。
しかし、菊花賞トライアルの神戸新聞杯から、ママは調子を崩してしまい、神戸新聞杯も、菊花賞も3着に終わった。
その頃は、まだ私は生まれていなかった。全部ママやパパから聞いたことだ。
ママはあまり長くは走れず、現役を引退したのも早かった。
そして、ママは私を生んでわずか3年で、病気で寝込んでしまった。
私が物心ついたときから、ママは病院にいた。
私の記憶の中で、ママが我が家に帰ってきたことは一度もない。
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ユニバ「わたしねぇ~、ママみたいなウマむすめになりたいんだ!そして、ママの代わりに“さんかんウマむすめ”になりたい!」
ママ「あら、ママの代わりに?じゃあ、私はずっとユニバのファンでいるからね。」
ユニバ「ほんと?やったーぁ!」
しかし、それが叶うことはなかった。
私が5歳になった時に、ママは死んだ。
病気は、治らなかった。
ユニバ「う………う”ぇ~~っっ……!!ママはどこにいったの~っっ!!ママにあいたいよ~~!」
幼くして母親を無くした私は、谷底に突き落とされたような絶望感に陥った。
「………大丈夫だ。きっと、ママはお空からユニバとパパを見守ってるよ。」
ユニバ「本当……?」
パパは、優しく微笑んで私にそう言った。
パパ「そうさ。きっと、もっと成長したユニバがレースに出て走っているところを、ママはしっかり見守っているさ。」
ユニバ「………わたし、ママの代わりになる!さんかんうまむすめになる!!」
それから、私の三冠ウマ娘に向けてのトレーニングは、幼い頃から始まった。
幸い、パパは昔とあるスポーツの指導者をしていたこともあって、トレーニングのサポートは、得意分野であった。
私は、死に物狂いで頑張った。
だから、ここまで来た。
皐月賞も勝った。日本ダービーも勝った。
神戸新聞杯は、負けちゃったけど、そのあとも猛特訓した。
全ては、|菊花賞《三冠目》の為に!!
私は、今ママと同じ場所に立っている。
あとは、ママを超えることが出来るかどうかだ。
アルノ(ついにこのときが来た。今度こそ二人には勝つ!同期の中で重賞を勝ってないのは私だけ。だから、|このレース《菊花賞》で決めて見せる!トレーナーさんも、プロミスちゃんも、お母さんも!みんなみんな私に期待してくれている!その為にも………)
実況「――――さあ各ウマ娘、続々とゲートへ入っていきます。―――最後に、18番・アルノオンリーワンがゲートに入り、体制が整いました。」
私は、ゲートに入る。
天候は雨。それに大外枠。
ついてない。でも、そんな不幸だって乗り越えてやるんだ。
皐月賞は回避。日本ダービーは降着。
十分な結果を出せていない。
だから菊花賞こそは、私が主役になるんだ。
二人を引き立てる脇役じゃなくて、二人と同じ舞台に!
「ガシャン!」
実況「スタートしました!おっと、アルノオンリーワン、好スタート!先頭からすでに7バ身のリードです。2番手は――――」
よし、完璧なスタート。ペース配分も完璧。
実況「―――後方集団、クリスタルビリーが先頭。三冠がかかるユニバースライトは集団よりやや後方の位置です。そして、アルノオンリーワンは……なんと言うことでしょう!2番手から大差で突き放しております!こんなに逃げて最後は持つのか!?そして、1000m通過タイムは………な、なんと従来の通過タイムを3秒更新しました!かなりのハイペースだ!」
もっと大胆に!
まだまだ体力はあるんだから。
クリス(離れすぎててアルノが見えない………なら、いっそ2番手でアルノの様子を伺えば!)
クリス「はあああっ!!」
実況「おっと、なんと内からクリスタルビリーが上がり、2番手に出ました。ユニバースライトはまだ後方に控えております。半分を切りました。アルノオンリーワンとの差は未だにその差は縮まりません。京都レース場はどよめきと歓声で包まれております。」
足音もなにも聞こえない。まるで、たった独りで走っているかのようだ。
やっぱり、走るのは楽しいな。
すっかり忘れていた。二人に勝つことだけを考えてしまい、走る楽しさなんて優先していなかった。
先頭で受ける風。冷たくて気持ちがいい。
実況「さあ、アルノオンリーワンが真っ先に第3コーナーをカーブし、第4コーナーへ!――そして、直線に入りました!!」
来た。待ちに待ったこの景色が。
まだ足音は聞こえない。
脚に、全ての力を溜め込んで――――
アルノ「うおおおおおおおおおっっっ!!!!」
実況「アルノオンリーワン先頭!まだ10バ身ほど差があります!しかし、ここでクリスタルビリーが追い詰める!………そして、来ました来ました!間からユニバースライト!三冠まであと10バ身だ!届くか、届くのか!?しかし未だにアルノオンリーワンが先頭だ!」
クリス(負けない………“あの人”に近づきたい!あの人に見てもらうんだ!)
クリス「はああああっっ!!」
ユニバ(ママが見ている前で、負けるわけにはいかない!)
ユニバ「やあああああっ!!」
実況「クリスタルビリー、ユニバースライト、先頭に一気に迫る!」
「タッ、タッ、タッ………」
聞こえた。足音が。
でも、もうそんなので怯まない。
三冠レース。それぞれのレースでは、勝つウマ娘のタイプが違う。
皐月賞は、最も速いウマ娘が。
日本ダービーは、最も運のあるウマ娘が。
そして菊花賞は、最も強いウマ娘が。
私は、脚も遅いし、肝心なときに雨だったり大外枠だったりと、運もない。
だけど、強いウマ娘――――それなら、私にだって当てはまる。
それに、昔から私はずっと強いウマ娘になりたかった。
大丈夫。あとはゴール板を越えるだけ。
それだけで、私は強いウマ娘だと証明される。
実況「残り200メートル!徐々に差は縮まっているが、中々追い着けません!もうアルノオンリーワンの勝利は確定か!?」
ユニバ(どうして!?こんなに一生懸命なのに………クリスちゃんも交わせない…)
クリス(―――まだだ!!ゴール板を通過するまでは勝利は決まらない!勝つのはあたしだ。神戸新聞杯でも勝った!あたしの|番《ターン》が来たんだ!負けてたまるか!!)
クリス「はああああああっっ!!負けるかぁぁーーっっ!!」
まだ、体力はある。最後まで、全力を出しきるんだ。
ラストスパート。加速力には自信がないが、今の私には、できるような気がした。
アルノ「うおおおおおおっっ!!!!!」
実況「残り100メートル!クリスタルビリー猛追!しかし、さらにアルノオンリーワンはラストスパートをかける!!」
ユニバ(……どうして、どうして………こんなに速く走っているつもりなのに……追い付けない…悔しいよ。)
実況「ユニバースライト、3番手のまま届かない!三冠の夢は散ってしまった!先頭は、逃げる!アルノオンリーワン!アルノオンリーワン!オンリーワンです!……まさに底無しの体力ーっ!!……2番手は、クリスタルビリー。そして3番手は、ユニバースライト。三冠の夢は叶いませんでした。」
ふと、我に返る。周りの景色を見渡す。スタンドから響き渡る歓声。スタンド前の掲示板を見ると、1着の欄には「18」と点滅していた。
私の番号だ。2着との着差は9バ身――――
タイムは3分00秒01―――その横に「レコード」と書かれていた。
そして、パッと右上に「確定」の赤い文字が光った。
さらに歓声は大きくなる。
実況「アルノオンリーワン、なんとレコードを0.9秒更新!それと同時に、URAの菊花賞最大着差、さらにURAのGⅠレース最大着差タイでもあります!!本日、新たな歴史が刻まれました!」
歓声が、とめどなく溢れてくる。
みんなが、私を祝福してくれた。涙が、ツーっとこぼれ落ちる。
私は、両手で思い切りガッツポーズをした。
人生で一番忘れられない日になった。
クリス「―――あーあ……また、越せなかったなぁ………」
ユニバ「……ごめんなさい………ママ。」
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牧村「アルノ!よく頑張った!おめでとう!とっても嬉しい。ああ、俺も涙が出て来そうだ……」
アルノ「私も、すっごく嬉しいです!ここまで来れたのも、全部トレーナーさんのお陰です。私を強くしてくれて、ありがとうございました!」
牧村「おいおい。引退レースで言うようなセリフを言いやがって。まだまだこれからだ。ここからが、本当のアルノオンリーワンの幕開けなんだから。」
アルノ「……そうですね。トレーナーさん、これからも、お世話になります!」
すると、どこからか甲高い拍手が聞こえてきた。そして、その拍手の音は段々大きくなっていく。
「ブラボーだったよ!アルノ君。」
その人は、会ったこともないような知らない人だった。
黄色い耳カバー。お団子結びのツインテール。私と同じような色の栗毛に頭頂部から流れる流星。
右耳には赤い星の飾りをつけ、トレセン学園の制服を着ている。
堂々として、威厳のある立ち振舞いだった。
どうして、私の名前を………??
「君のレースは、ずっと拝見させてもらったよ。やっぱり僕の目に狂いは無かった!GⅠ初勝利、おめでとう!」
アルノ「す、すみません。誰ですか………?」
牧村「ああーーっ!!き、君は!去年の三冠ウマ娘・ヘキサグラムスター!!」
アルノ「えっ………ああ!!」
ヘキサグラムスターさん―――今一番勢いを増しているチームの先輩・サンエレクトさんでさえ春の天皇賞で歯が立たなかったすごいウマ娘。
でも、そんな人がどうして………
ヘキサ「青葉賞のときから、君には惹かれた!君の大逃げはすごい才能だ!僕は君のことが気に入った。いつか、一緒に戦おうじゃないか。そのときも、素晴らしい大逃げを頼むよ。アルノ君。」
そして、ヘキサさんには私の肩をポン、と叩いたあと、くるりと後ろを向き、甲高い笑い声を発しながら、どこかに消えていった。
私は、状況がすぐに飲み込めず、しばらく立ち尽くしていた。
牧村「……お、お前、三冠ウマ娘に気に入られたようだな………」
簡潔にまとまったトレーナーさんの一言で、私は、状況を全て理解した。そして、とても驚いた。
アルノ「えっ………ええーーーっっっ!!!」
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ユニバ「……パパ、ごめんなさい。あんなに協力してくれたのに……私、なれなかった。」
パパ「いいんだ。さっきのレース見て、パパは昔を思い出したよ。ママが走った菊花賞と重ねて見てた。ママもきっと喜んでいるさ。これからまた頑張ればいい。――――ユニバ。君はまだ、終わっていない。」
ユニバ「うっ…………うわああああーーっっ!!わあああーーん!わああーっ!!!」
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司会「それでは、京都11R・菊花賞のウイニングライブです!」
かっこいいギターのロックな感じのイントロが流れる。
♪光の速さで駆け抜ける衝動は
何を犠牲にしても叶えたい強さの覚悟
♪(no fear)一度きりの
(trust you)この瞬間に
賭けてみろ 自分を信じて
♪時には運だって必要と言うのなら
宿命の旋律も引き寄せてみせよう
♪走れ今を まだ終われない
辿り着きたい
場所があるから その先へと進め
涙さえも強く胸に抱きしめ
そこから始まるストーリー
果てしなく続く
winning the soul
♪掴め今を 変えたいなら
描いた夢を未来に掲げ
恐れないで挑め
♪走れ今を まだ終われない
辿り着きたい場所があるから
その先へと進め
涙さえも強く胸に抱きしめ
そこから始まるストーリー
果てしなく続く
winning the soul
♪woh woh woh
「わああああああ!!!」
こうして、私の二人へのリベンジは、幕を閉じた。
でも、まだまだ私はこれからだ。
再び二人と戦うことになっても、勝ってみせる。
私は―――――――
強いウマ娘だから!
第2章『憧れのレース』第1部 完
-Next to 11R
今回は長すぎてしまったので、キャラ紹介はお休みです。
作中に出てきたウイニングライブ曲の題名
『winnig the soul』
(かっこいい曲なので是非聴いてみて下さい!)