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28.
「思ったんだけど、私達って魔王討伐が目標だよね。」
「そうだね、そのために戦ってるわけだし。」
「ずっと家でウジウジしててもしょうがない気がして。」
「でも、僕らが魔界に乗り込んだら被害が尋常じゃないよ。」
「だから、アレを使おうかなって。」
西魔界に存在する、戦闘狂のための制度。
宣戦布告してコロシアムで戦う。勝ったら負けた方に一つお願いができる。
そのお願いに、制限は一切ない。
「それなら、勝ったら確実に新魔王になれるね。」
説明すると納得してくれた美音。
「1週間後、決着をつけるよ。」
「でも珍しいね、美咲が計画的に行動するなんて。」
鋭い返しに、言葉が詰まる私。
「うっ・・・・、まあそうだけど。」
流石に「明日に魔王倒すぞ!」なんて言えない。
入念に準備をして、確実に倒す。
「あのさ、朱里ちゃんって戦えるの?」
できれば小さい子を戦場に連れて行きたくない。
でも、そんなことを言っていたら勝てる戦いも勝てない。
「戦えるも何も、朱里は普通の兵士よりも強いよ。」
そう淡々と言われて、思わず朱里ちゃんを見てしまう。
この子、そんなに強いの・・・・・?
「みさきおねえちゃん!一回戦ってみようよ!」
自信満々に提案してくる朱里ちゃん。
もしかして、舐められてる?
「よし、やってみようか。」
---
「美咲、絶対に朱里のこと傷つけないでね。」
バカ兄がそんな無茶なことを要求してくる。
「それは勝負じゃないじゃん・・・・。」
「たしかに・・・・・。」
美音がこんなに悩んだのって初めてじゃない?
そう考えつつ、シャルムの言葉に耳を傾ける。
「攻撃を当てたら勝ちにすればいいのでは? 美音さんが朱里さんに結界を張れば怪我しませんよ。」
結界に攻撃を当てたら私の勝ちってことかな。
「それなら大丈夫かも。美音と朱里ちゃんはどう?」
「あたしは大丈夫だよ! 当たらなければいいんだよね!」
「まあ、それならギリギリ許せる・・・・かな。」
これでギリギリなら、どうしようもないよ。
私と朱里ちゃんはそれぞれ位置につく。
「『上級聖魔法 八神結界』」
私には傷すらつけられない結界。守るにはうってつけだ。
「それでは―――、始め。」
「『中級地魔法 |地魔刀《テールエペ》』」
__「美咲も様子見って言葉を覚えたのかな。」__
美音がつぶやいた通り、普段の私なら迷いなく突っ込む。
でも|相手《朱里ちゃん》について何もわかってない今、迂闊に攻めるのは危険。
「へぇ、みさきおねえちゃんは土系なんだね!」
流石に9歳の少女に私の能力はわからない。
私の能力はチートじゃない。ただ、初見殺しな部分はある。
「『中級霊魔法 霊はあなたの足枷となる』」
まっすぐ飛んでいたナイフがからんと音を立てて落ちた。
なるほど、朱里ちゃんは霊魔法をつかうんだ。一つ収穫。
・・・・霊となるとやっぱりあれが関係あるのかな?
私は朱里ちゃんを注意深く見つめる。
正確には、戦う前にはなかったもやのようなものを。
「朱里ちゃんの周りにさ、幽霊っている?」
「幽霊さん・・・・? もちろん、いっぱいいるよ!」
彼女は少し驚いていた。どうして私がそう質問したのか不思議がるように。
やっぱり、あれは霊なんだ。
ずっと神降ろしの練習をしてたからそういうのが見えるのかな。
「手加減しないよ。『妖刀』」
私はアイテムBOXから呼び出した妖刀を手に取る。
「みさきおねえちゃんも自分の武器があるんだね、いいなー!」
朱里ちゃんの武器はないってことかな。
・・・でも油断はせずにいこう。それは確実に命取りになる。
「『妖刀 刀突』」
構える、走る、相手に貫通するような形で突く。
この流れを一瞬で行う。相手は反応できずに散っていく人がほとんど。
「おねえちゃん速いね! でも私のほうが速いよ!」
ほとんどの人、に朱里ちゃんは含まれないらしい。
朱里ちゃんは一歩も動いていない。
なのに、当たらない。
__「一体どうやって・・・・・。」__
このからくりを解き明かさないと。
「まだまだいくよ!『究極妖術 死神の迎えは命との別れ』」
少しずつ黒い霧が生まれる。
私はできるだけ距離をとった。さっきとは違う異質な雰囲気を感じたから。
霧が変化する。黒光りする危険な刃へ。
まるで死神が使うような大きな鎌へと。
私はその鎌に見つめられているような気がした。
思わず顔を背ける。
今にも私から命がこぼれ落ちてしまいそうな恐怖。
それに耐え、前を見ると鎌は消えていた。
「お嬢様、後ろを!」
私はその声を聞き、反射的に屈んでいた。
その真上を通過していくのは消えたはずの鎌。
これに当たったらアウト、と感じざるを得なかった。
「『上級妖術 舞妖』おねえちゃん、避けるのが上手だね!」
たくさんの鳥の影が飛んでくる。
いや、影じゃない。黒い鳥だ。自然界にないような漆黒。
「お嬢様! ぼーっとしている暇ありませんよ!?」
シャルムに言われて我に返る。
「『中級雷魔法 雷神の加護』」
屈んでいるから自由に動けない。急いで加護を展開する。
鳥が体当たりしてくるたびに、私の加護が悲鳴をあげる。
・・・だめだ、守りきれない。
「あれ、今度は雷の魔法なの? 土じゃないんだね〜!」
もうここまできたら、バレてもいいか。
「『中級零魔法 |小規模爆発《スモール エクスプロージョン》』全部吹き飛べ!」
多くの鳥がどこか遠くへ吹っ飛んだ。
「『中級雷魔法 斬断の雷雨』」
雷の刃が朱里ちゃんを襲う。
朱里ちゃんは少しも動かない。反応できていないらしい。
「みさきおねえちゃん、どこを狙ったの?」
私は自分の目を疑った。
刃が当たる直前で横にそれてしまう。
「これは美音の結界じゃないもんね・・・?」
「うん。それは朱里の力。僕は関係ないよ。」
なら、どうして・・・・。
朱里ちゃんに攻撃をしても、それがそれてしまう。
__「もしかして、それも霊の仕業?」__
そう口に出すと、朱里ちゃんはぴくりと反応した。
・・・わかりやすいな。
「霊で守ってるか、逸らしてるかって感じかな?」
「そうだよ!この守りは適当な攻撃じゃ壊せないんだから!」
適当だと壊せないんだ?
思わず口角をあげる。だってこれまでの攻撃が適当だと言われているようなもの。
なら、全力をだしてもいいってことだよね。
「朱里ちゃん。」
「どうしたの、みさきおねえちゃん?」
こんなに小さい子に全力を出すなんて気が引けるけど。
「後悔しても遅いよ。『究極零魔法 |宇宙の始まり《ビッグバン》』」
私の魔力を集結させる。
私の右手の上には猛烈な力を放つ光が浮いている。
それの圧は凄まじく、普通の攻撃を無に返す。
「『上級妖術 舞妖』・・・あれ?鳥さんが出てこない。」
本当は出た瞬間に無に返っている。それに気づかせないほどの力。
「絶対に僕達も巻き込まれますよ。」
「これに朱里さんは耐えられますか・・・・!?」
「家ごと吹き飛ぶんじゃないか!?」
「八神結界じゃ耐えられないかもしれないです・・・・!」
「我は美咲と朱里を結界で囲う。そなたらは朱里を全力で守れ。」
・・・・完成した。
見る人を圧倒できるような凄まじい力。
「これが私の実力だ。すべて無に還れ。」
そして、見たことがないような爆発がおきた。
私の魔力を最大限使った爆発。光や音が|小規模爆発《スモール エクスプロージョン》の比じゃない。
不思議なことに、砂埃や木が倒れる音はしない。
聞こえたのは、パリンという軽快な音だけ。
眩しさにも慣れて、視界が少しずつ戻ってくる。
最初に目に入ったのは力なく座り込む4人。
「こんなに幽霊さんが疲れてるの初めて・・・・!」
「朱里が怪我しなくてよかった・・・・・。」
「・・・我の結界でも割れるなんてどんな火力なんだ?」
「・・・・疲れましたね。」
私、また無理させちゃったみたい。
「ごめん! 大丈夫!?」
「美咲の最大火力・・・、イカれてるよ。」
「お嬢様、力が入らないせいで立てないです。」
「大丈夫じゃなさそうだね。」
でもみんな笑っている。
「なかなかスリリングだったぞ。」
「みさきおねえちゃんすごいね!」
「何にせよ美咲、これで朱里の強さもわかったでしょ?」
「どちらかというとお嬢様の馬鹿力が露呈した気もしますが。」
シャルムがそういうとみんなが笑う。
―――よかった。
「相手にはこの島の存在がバレている。それは間違いない。」
戦い終わったあと、美音はそう切り出した。
「この島は結界で覆われている。外部からの侵入はありえない。」
「美音さんのおっしゃる通りで、転移などでの侵入の可能性が考えられます。」
「だから、美咲が1週間後に決めたときにありがたいなって思った。」
「我らの居場所が割れている今、短期決着が望ましいというわけだ。」
「なるほど。」
私は素直に納得した。私以外の全員がそこまで考えていたことにも驚いた。
・・・もう面倒になったから早く決着をつけたかっただけなんだけど。
「朱里ちゃんって幽霊を使役して戦ってるんだよね?」
「そう。朱里は幽霊とか妖怪を使役してる。」
美音が答えた。
「朱里ちゃんって幽霊さんがいうこと聞いてくれないときある?」
「うん。強い幽霊さんは勝手に動いちゃうの。」
そう言われて、私は心に決める。
「よし、朱里ちゃん用の武器を作ろう。」
朱里ちゃんが「おねえちゃんも自分の武器あるんだね」といったときから考えていた。
彼女も専用武器がほしいんじゃないかって。
「それなら、いい武器屋さん知ってるよ。」
「美音、そこって今やってる?」
「うん。早速行ってみようか。」