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だから、行くなと云ったのに。
鳴陀
拒食になった時の話。
「拒食症ですね」医者は躊躇なくそう言い放った。同行していた母親は、その言葉を聞いた瞬間、青ざめ、明らかに動揺していた。それに比べ、私はそこまで驚くことも動揺することもなかった。ただ、内心「やっぱりそうだったんだ」と感心しているくらいだった。23時。2階の自室にこもり、本を読んでいた。耳をすませば1階にいる両親の声が聞こえるほど静かだった。でも、そんなことをしなくても今日は両親の声が聞こえてきた。父が「ふざけるな」と大声で怒鳴ると、その声に過敏に反応して母は「すみません」と震える声で返す。両親の声はやんだ。その代りに、鈍い音や物が落ちる音が暫く続いた。私の予想があっていれば、父は母を殴っている。更に時間が経過して、物音も消えた。玄関の扉が開き勢いよく閉じる音と共に、母は泣き崩れた。「なんで、毎回私が殴られないといけないの」泣いているせいで、声は先程よりも震えて、鳴き声特有の音が響いている。こうなれば次の展開がすぐに脳裏に浮かんだ。次だと。怒りとぐちゃぐちゃになった感情が混じる足取りで、階段を登り私の自室に近づいてくる。ノックもせずに勢いよく扉を開けては開口一番に「あんたの所為だ」と叫び声に近い怒鳴り声をだして、椅子に座る私に近づいてきた。そして、バシンと勢いよく私の頬を平手で打った。私の頬と母の掌がぶつかり合う音が大きく響いた。その音で我に返ったであろう母が即座に私の頬に手を添え、「ごめんね」と泣きながら謝ってきた。椅子から降りて、母と視線を合わせ、私は母の後頭部に手を回し、ゆっくりと撫でた。そして、子供をあやすように「大丈夫だよ」と呟く。すると、母は積み上げた積み木が、崩れ落ちたかのように大声で泣き「もう、貴方を傷付けないって約束する。何度も約束したのに破ってごめん。」ぐしゃぐしゃになった顔で泣き叫んでそういった。拒食症と診断されてから、半年が経過した。普通量を食べていたときの体重より10㎏も体重が減った。いつものように母は気を利かせて、普段から食事の量を減らした状態で「食べれそう?」と訊いてくれた。でも、ある日を境に母は、変わってしまった。普段減らした状態で食事を用意してくれていた母、それをしないで、食事を用意した。食卓に座り、自分のスペースに置かれた食事をみたが、やはり量がいつもロリ多く盛られている。この頃、胸がざわつき嫌な予感がしていたのだが、それが見事に的中した。「今日は忙しかったの?」とさり気なく自然体を装って尋ねた。母は調理器具を洗う手をピタリと止めて、「もう、食べれないなら残してもいいし、捨てなさい。」と冷たく淡々と呟いた。いつにもまして、感情のない母に一瞬、驚き口をぽかんと開け唖然としてしまった。そして「あ、うん。理解った。」と返して、目の前の食事に手を付けた。時間を懸けて、出された分はしっかりと食べた。食器を洗おうと席をたった瞬間。猛烈な吐き気に襲われ、走ってトイレに向かった。何度もトイレで嗚咽を繰り返し、結局は食べたものを全て出してしまった。
こんにちは、鳴陀です。
今回はかなり短い作品になりました。
リクエストや感想があればいつでも教えてください。