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好きな人とよく似た依頼人
完結編より前の時間軸になるかと……
とりま謎小説!
「大丈夫?」
或る休日のこと。
敦と鏡花が~~デート~~お出かけをしていた二人がクレープを買おうとすると、一人の少女が目に入った。
賑やかな公園の隅、日陰のベンチでボーっとしている彼女はどこか不思議な空気をまとっている。
鏡花に声をかけられ、少女はゆっくりと視線を合わせる。
「私?」
「うん。こんなところで一人だし、何か困ってそうに見えて」
「確かに困ってるかもしれない。私、気がついたら此処にいて…何も思い出せなくて……」
「記憶喪失かな?」
「……そう、かもしれない」
「良かったら私達に記憶を取り戻す手伝いをさせてほしい」
「僕達、まだ新人だけど探偵をやってるんです」
えっと名刺は、と敦は一つの紙を渡す。
鏡花の分も受け取り、少女は紙と二人を何度か見比べた。
「敦さんに、鏡花さん……」
「貴女の名前は?」
「えっと……あ、これかもしれない」
差し出されたハンカチを、鏡花は受け取る。
「Liddell……?」
「多分、リドルって読む」
「それじゃあ呼び方はリドルさんで良いですか?」
「は、はい……!」
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「ひ〜ま〜」
「そんなに暇なら仕事をしろ」
「ヤダなぁ、国木田くん。私は今、息をすることで忙しいのだよ」
深呼吸をする太宰に、何の言葉も出ない国木田。
呼吸するようにいちゃつく谷崎兄妹。
駄菓子を食べる乱歩。
「……あれ、鏡花ちゃんに敦くんだ」
太宰は窓から見えた人影に呟く。
知らない影を前に目を細め、女性と気がつくなり唐突に身なりを整え始める。
「お疲れ様です。すみません、記憶喪失の人がいて──」
「ここまでご苦労だったね、敦くん。鏡花ちゃんも。あとは私が引き継ぐから二人はゆっくり休んでくれたまえ!」
「分かった」
「いつもここまでやる気を出してくれたら助かるんだが……」
また国木田の溜息が漏れる。
差し入れを配る敦に、喜ぶ谷崎兄妹。
その奥、乱歩は何か考え事をしているようだった。
「私は太宰治です。お名前は?」
「リドルです。さっき鏡花さんがハンカチの刺繍を読んでくれて──」
「ではリドルさん! 心中にご興味は──?」
「すみません変人がご迷惑をお掛けしました」
「ちょっ、国木田くん引っ張らないで首しまっちゃ〜う」
「良かったな、死ねるぞ」
「国木田くんが冷たいッ」
奥へ連行される太宰を、リドルは眺める。
静かになったところで、鏡花が話しかけた。
「何か些細なことでも良いんだけど、覚えていることはない?」
「……ごめんなさい。名前も分からなかったし、私……」
「焦らないでいい。乱歩さんもいるし、記憶もきっと思い出せるから」
「ありがとう、鏡花さん」
「“さん”付けじゃなくていい。みんな“ちゃん”って呼ぶ」
それじゃあ、とリドルは微笑む。
二人が仲良くなっている間、乱歩は相変わらず考え事をしていた。
そして、思い出したのか勢いよく立ち上がる。
「……マズい」
「どうかしたんですか?」
「敦、暫く社に来ないように急いで電話を──」
乱歩の言葉を遮るように、探偵社の扉が開かれる。
「あれ、もしかして依頼人ですか?」
「っ、ルイス! 何も聞かずに帰れ!」
「いや、唐突にどうしたの?」
賢治と外回りに出ていたルイス。
乱歩の焦りが探偵社中に伝わってはいたが、行動が遅かった。
「ルイスさん、こちら記憶喪失の──」
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そう云った鏡花ちゃんの奥にいたのは、一人の少女だった。
白い髪に赤寄りの紫色の瞳。
背格好は、最後に見た時より小さい。
それこそ初めて会った頃のほうが近いだろう。
ただ、着ている服は当時と違って現代らしい私服で可愛らしい。
「……なんで」
乱歩が遠ざけようとした理由が分かった。
幾つもの、美しく残酷な過去が浮かんでは消えていく。
「なんで此処にいるんだ、ロリーナ……」
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誰もが“|ロリーナ《その名前》”に首を傾げた。
記憶喪失の少女を、ルイスは知っている。
しかも、名前は“リドル”ではない。
「この人のこと、知ってるの?」
「え、いや、僕は……」
冷や汗を浮かべるルイスの手を、乱歩は引いていく。
「とりあえず情報収集から頑張ってみなよ。君たちも一応“武装探偵社”の一員なんだから、探偵らしくね」
会議室に移動し、乱歩はとりあえず椅子に座らせた。
微かに震えるルイスの姿に、気づくのが遅れた自分を責める。
「珈琲でも淹れる? インスタントでよければ」
「……お願い」
「一旦、心を落ち着かせた方がいい。上手くいくかは分からないけど」
「悪いね、気を使わせて」
「僕に責任はあるから」
「いや、すぐに帰らなかった僕が悪いよ」
沈黙の中、電動ポットでお湯の沸かせた音をはじめとした珈琲を淹れる音だけが響く。
「……あの見た目、どこかで聞いたことがある気がしたんだ」
「瓜二つすぎる。転生したといわれても違和感がない」
「そんなに似てるんだね」
「髪色から瞳まで──全く同じく、あの時のままロリーナが其処にいるように見えた」
珈琲が、少し減る。
秒針だけが部屋に聞こえた。
「彼女、記憶喪失らしいよ」
「そうみたいだね」
「可能性としては大きく三つ。物凄いそっくりさんに、異能でやってきた本人、それから“誰かの意思”で姿を寄せられた刺客」
「……どれにしても、最悪なことに変わりはない。僕にとってはどれも地獄だ」