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【短編小説】地獄を歩く少女
私は今、地獄を歩いている。過ちを犯して死んだから。
私の目には、轟々と燃え盛る炎と闇が映っている。
結局、世界は私たちに見向きもしなかったなぁ。
そんなことを考えていると、頭の中に生前の映像が流れてくる。
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「………またか…」
今日も私の机は罵詈雑言で溢れている。
「キモい」「生きる価値なし!」「インキャちゃんオハヨウ♡」「また来たの?」
そんな言葉の数々を、私は無言で掃除する。
少し離れたところで、一軍がクスクスとこっちを見ている。
するとそのグループの中でも一際目立つ女子がこちらに近づいてきた。
「おはよインキャちゃん!まだ生きてたんだね!ゴキブリみたい!」
「あ、はい…」
「は?なにその態度?」
「…ごめんなさい。」
__「……今日も校舎裏来てネ♡」__
「………。」
「ねーねー返事はー?」
「…はい。」
向こうから、さっきよりも大きな笑い声が聞こえてくる。
教科書を開こうとしたら、異臭がする液体がかけられていた。
「おいおい、ちゃんと風呂に入ったのか?しっかり洗え!」
「はい、すみません…」
周りの視線が私に向き、小さな笑い声が飛び交う。
昼休み、私はそっと教室を抜け出してトイレに行く。
一人でお弁当を食べていると、上から水が大量に降ってきた。
多分、今朝の雑巾を洗った際のものだろう。
「あ、ごっめーん!間違えちゃった!お掃除ヨロシク!趣味でしょ?」
キャハハ、と金切り声にも近い笑い声が通り去っていく。
私はただ一人静かに床を拭いて、食べられなくなった昼食を捨てる。
学校が終わった。私は重い足を引き摺りながら校舎裏へ向かう。
「おっそ。ナメクジかよ気持ち悪い。」
そのあとはいつも通り、殴られ蹴られ、カッターで指を切られたり。
「あ!そーいえばナメクジって塩かけたら溶けるんだよね?実験実験ー!」
そう言いながら、先ほどの指に塩を塗りたくられる。
「……っ!!」
「なに声だしてんだよ気持ち悪いな!!!」
何回も何回も殴られた。蹴られた。どうでもよかった。
「うわー先公こっち来てるわ。逃げよ?」
「ちっ…お前さ、勿論このこと誰にも言うなよ?」
そういって彼女たちは逃げるように去っていった。
私も先生に見つかるのは面倒なので、隠れながら校門をくぐった。
家に帰ると、フライパンが腹に飛んできた。思わずうずくまる。
母が私の顔を床のフライパンで殴りつけた。
「何ボーッとしてんだよ!とっとと家事をしろ!」
「…はい、お母様。」
私は家に入って、母のご飯を作り、知らない男の服を洗濯し、部屋を片付ける。
隣の部屋からは、母と男の楽しそうな声が響いている。
ああ、またご飯が冷めちゃうな…
「アタシにこんな飯よく出せたね!作り直せこのメス豚!!」
母は私のご飯をゴミ箱に投げ捨てて、私を蹴飛ばした。
私はご飯を作り直し、母が寝た後にゴミ箱の中の埃まみれのご飯を頬張った。
こんな生活でも、私は生きてこれた。
だって、いつだって《《この子》》が見守っていてくれるから。
そう呟いて、私はクマのキーホルダーを抱きしめた。
「このクマはな、お前のことをずーっと見守ってくれるんだぞ!」
「ほんとに!?いつでも?」
「そう!これは父ちゃん第二号だぞ!」
「すごーい!!」
「ああ!父ちゃんはいつだってこれを通してお前を見てるからな!」
これは、父が生前にプレゼントしてくれたものだ。
その頃は母も優しく、3人で幸せに暮らしていた。
ある日、父が突然の病に倒れて死ぬまでは。
その日から、父《《だけ》》を愛していた母は私を憎み、世話を放棄した。
でも私は、これを通して父が見守ってくれていると信じて、頑張ってきたのだ。
「こっち向くなよブス!私の顔が腐るだろうが!!」
また今日も殴られている。
「ほらこれ。昨日お前が捨てた弁当。もったいねーから食えよ!」
そういってゴミまみれの腐ったナニカを口に詰められる。
思わず吐きそうになって、顔を思い切り蹴られた。
「……あ、そーいえばー、《《これ》》お前のだよね?」
そういって彼女は、私のキーホルダーを揺らしてみせた。
「…!!返して!!お願い返してよ!!!」
「うっわキモwこんなゴミに執着してやんのww」
そう言うと同時に、彼女は地面にそれを落とした。
「ゴミは処分しないとねー!あー私ったらやさしー!ww」
彼女は、足を思い切りキーホルダーに向けて振り下ろした。
--- バキッッッ!! ---
音を立てて、父の形見は粉々になった。
「……………………!!!!!」
「うわこいつマジでキモい…ゴミ壊されてガチギレしてるよw」
「そろそろ校門閉まるよ!もう帰ろーよー!!」
「はいはーい。じゃ、また明日!あ、別に死んでくれててもいいよ♡」
そういって、アイツらはどこかに逃げていった。
ゆるせなかった。
あんなにいうことにしたがっていたのに。
あんなにつくしたのに。
なんでまだうばわれなきゃいけないんだ。
なんでわたしばかりうばわれるんだ。
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
気がつくと、私の足元には彼女たちの死体が転がっていた。
いつもは濃い化粧で隠していた顔が、恐怖と苦痛で歪んで醜い姿となっていた。
私の手を見ると、先ほどまで地面に転がっていたカッターが握られていた。
「……くへへ」
私はそれを放置したまま、母の元へ向かった。
母は最初は抵抗していたものの、途中で酒の空き缶で足を滑らせ、
そのまま私の手によって死んでいった。
心底気持ちが良かった。私は奪ってやったのだ。
そして最後は、私の番だ。
私は赫く染まったカッターを、私の首に突き刺した。
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「不幸な目にあった者は最後には報われる」
「誰かが必ず助けてくれる」
「悪い人間には制裁が喰らわされる」
そんな楽観的なことが起こるのは、子供の絵本の中だけだ。
先生も、クラスメイトも、父も、結局誰一人助けてはくれなかった。
どれだけ相手が罪を重ねていたとしても、どれだけ自分が不幸であっても、
反撃をすればたちまち私が悪いことになる。
…結局、現実世界もここも、地獄だったのかなぁ…
私はそんなことを考えながら、一人地獄を歩いていくのだ。
--- -|永遠《とわ》に…- ---
こんにちは、「読書が好き🍵」です。
今回は少し重めにしてみました。
深夜テンションで作ってるので下手くそです。
もしアドバイス等があれば、ぜひ教えてください。
では、またどこかで会いましょう。