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8 小毬 姫々
家に引きこもって10年のうちが、明日、家を出てみる。
その動機は。
小毬「みんなと焼肉、行ってみたい……!」
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うちは中学校で嫌がらせをされてた。背が低いから。
中学校卒業時点で……確か、134cm。女性平均の23cmも下。
これでも、学力とか運動神経とかユーモアとかカリスマ性とか、そういうものがあればよかったかもしれない。けどうちは頭も悪くて、どんくさくって、面白味がなくて、その他人を引き付けられるものを何ひとつ持ってなかった。
何でもいいから、前世から1つくらいそういうものを持ってきたい。
そんな時にうちの心の支えになってくれたのが、ペットだった。
うちが引きこもり始めて心配した母が、猫を1匹迎えた。名前は「始皇帝」。歴史好きな母のネーミングセンスによる命名だ。
うちの当時の友達は始皇帝だけだった。
飼い始めて4年くらいの時に、始皇帝が赤ちゃんを4匹産んで、そのうち3匹を猫好きな親戚に譲った。残った子の名前は無事「卑弥呼」になってしまった。
次第に、鳩の「縄文土器」、インコの「埴輪」も仲間入りした。縄文土器はさすがに酷いだろと、お迎えして1か月くらいで「どきぴー」に改名した。
いつのまにか、うちは“意思疎通”どころじゃなく、動物の言葉が分かるようになっていた。
しかも、うちの子たちだけじゃない。ちょっとした窓の隙間から聞こえる鳥のさえずりとか、野良犬や野良猫の喧嘩とか。
一昨年、始皇帝が、具合が悪いんだって言った。母に動物病院に連れていってもらったら、病気になっていた。
闘病の末死んだのは、去年のことだった。9歳だった。
すごく泣いて、しばらく部屋からも出られなかった。
そろそろ自立したくて、高校に行ってなくてもできるリモートワークを探したらここを見つけた。
みんな優しくて、うちはここにいるべきだったんだな、って思える場所だった。
うちに残った友達のひみこ、どきぴー、はにわも一緒に情報収集してくれた。
1人じゃなかった。本当はうちが外の世界を見てなかっただけだ。
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そう、分かったからこそ、焼肉に行きたい。
去年あったんだ。みんながうちのことを気遣って、秘密で焼肉行ったことが(情報:どきぴー)。
その焼肉が、明日またあるらしい(情報:ひみこ)。
けど1人は怖い‼
小毬「途中までだったら、ひみことどきぴーは来れるよね……?はにわは鞄に忍ばせればワンチャン……」
ペットたちが|飼い主《うち》を冷ややかな目で見てる気がする。
小毬「……みんなで行こう……?」