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短編 『JPCZ』
20ZZ年_日本_福井。人々は、地震、津波に次ぐ新たな脅威に怯えていた…
ピロン!ピロン!ピロン!…
昼休みの教室でスマホが一斉に鳴り響く。
『JPCZの発生が予想されます』
画面には、こう写っていた。
「うわ!まじかよ…スティバいけねぇじゃん!!」
そう喚くのは|響宴《きょうえん》 |詩《うた》。福井県立|雪の咲《ゆき ざき》高等学校の一年生だ。ちなみに男である。
「スティバって…どこまで行くつもりだったんだよ」
そして、そう突っ込むのは|氷室《ひむろ》 |融《とおる》。同じく高校一年生。男だ。
ガラッ…
「え〜…只今、JPCZ発生予報が出された。午後の授業はリモートになるのですぐに帰宅すること。以上だ」
扉を開けて入ってきたメガネはこのクラスの担任、|人伝《ひとづて》 |情《こころ》(男)だ。
教室からはあちこちから「まじ!?」という喜びの声や「だるい」という落胆の声など、十人十色な声が聞こえてくる。
「ああ、そうだ。響宴、帰る前に職員室に寄ってくれ」
そう言って人伝は出ていった。
「お前、なんかしたのか?」
「俺、なんかしたのかなぁ?」
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コンッ、コンッ
「失礼しまぁ〜す」
「2回ノックはトイレだろ。てか、なんで俺もここにいるんだよ」
「良いじゃん。一人はコワイヨ〜」
「は?」
ガラガラ…
「お前ら、職員室の前で何してるんだ…?」
「あ、メガネ…じゃなかった、人伝センセー!センセーが呼んだんでしょ?」
人伝はチラッと氷室の方を見る。
「まぁ、いいか…こっちに来い」
そう言うと、人伝は二人を相談室1へ案内する。
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「お前ら、もちろんJPCZは知ってるよな?」
「あ〜アレでしょ?アレ、あの〜授業がリモートになるやつ!」
人伝が氷室に目をやる。
「はぁ…日本海寒帯気団収束帯。通称JPCZ、とは、朝鮮半島の北部に位置する長白山脈によって二分された風が日本海の上空で再び合流し、風と風がぶつかることで、雲の発達しやすいラインが形成される。このラインのことを指す…指します」
「あぁ、その通りだ。さすがだな。先生に敬語を使えるなんて!」
氷室から冷たい視線が向けられる。
「あ〜…それはさておいて、JPCZは大雪を引き起こす。そしてそれは、道路や鉄道など、私たちの生活に多大なる影響を与える」
響宴が、ん?と首をかしげる。
「そんな雪降ったことないけど?いつも1m積もるか積もらないかぐらいだよね…?」
人伝の眼鏡がキラリと光る…
「ああ、それは良かった。私達の仕事に意味があるということだからな」
「え?センセー?急にどしたんすか…」
「私達、JPCP、|JPCP《ジャパンシープロテクター》は、己の生まれ持ったチカラを駆使し、JPCZによる被害を最小限に抑えているんだ。だが近年、プロテクターの高齢化によりJPCPの活動維持が脅かされている」
氷室が思い出すように天井の端を見上げる。
「あー、確かに。石川の方は年々雪が強くなっているって聞くな…」
バッと響宴が氷室の方を振り向く。
「飲み込み早ない?」
「あぁ、俺もJPCPだからな」
人伝が大きく咳払いをする。
「ゔぅん!!…続けていいか?」
「良いわけないだろ!!」
「私としては、まずこっちの話を聞いてくれると嬉しいんだが…」
「俺としては、氷室から説明がもらえると嬉しいんだが!?」
二人が揃って氷室の方を向く。
「…はぁ、俺から説明するか。俺の家は代々JPCPをやっている。まず、JPCPの素質について説明する…JPCPのプロテクターになるにはJPCZに対抗できるチカラが要る」
「力?」
「あぁ、筋力じゃないぞ。氷室家は|融解《ゆうかい》のチカラを持っている。その名の通り、融かすんだ。氷を水に。雪を…雨に。プロテクターの間ではこう呼ばれている。『最後の砦』と」
人伝が話の後を継ぐ。
「チカラは何も受け継がれるだけじゃない。なんの関係もない人が持つ事だってある。珍しい例だけどな。そして、私たちは日本中からチカラを持つ者を勧誘してるんだ。ここまで言えば分かるだろう?」
「えっと…つまり…?」
人伝は近くの水筒に手を伸ばす。
「JPCPに入らないか?」
そう言って、お茶を口に含む。
響宴「え」っと小さく声を漏らす。
「もしかして、この話マジだった…?」
思わず人伝はお茶を吐き出しそうになる。だが、なんとか堪えたようだ。
「ッ…ゲホッ、ゲホ、ゲホ…」
「うえっ!?大丈夫っすか!」
はぁ〜と深いため息が響宴の隣から聞こえてくる。背筋が凍る。
「お前、今までの話ちゃんと聞いてたのか?」
「ハイッ!」
「要するに、お前も素質があるからJPCPに入れってことだ。そんで、これは|マジ《ほ・ん・と・う》の話。お前ならチカラとかそういう話気にいると思ったんだけどな」
ハッと響宴が何かに気づく。
「それって…俺にもなろう系みたいなことができるってこと…!!?」
「あー、ソウジャネ?」
「え〜失礼、失礼…」
人伝は落ち着きを取り戻したようだ。
「響宴、お前の家はプロテクター御三家の一家、|多響《たきょう》家の分家の分家の分家だ」
「え…なんかイマイチ」
人伝は食い気味に続ける。
「多響家は|音波《おんぱ》のチカラを持っている。だから、恐らく響宴もそういう、『音』に関したチカラを持っているんだろう」
「え!?どんなチカラ!?」
「…」
人伝が言葉に詰まる。
「っそ、れは…分からない」
「え〜マジかよ!じゃあどうすんの?」
ゴクリ、と生唾を飲み込む音が聞こえる。
「実戦しかない」
そこで、静かに事の行末を見守っていた氷室が口を開く。
「先生、それって…俺にコイツと組めって言ってますか?」
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カチャ…ゴソゴソ、ぺタンッ!
二人きりの下駄箱に大きく音が響く。
「うわ。|寒《さぶ》そ〜!雪降ってんじゃん。あ、てかさ、これってリモート授業欠席?他のセンセもあのこと知ってんのかなぁ?」
キィィ…
まだ響宴が靴を履いている途中だというのに氷室はそそくさと外へ出ていく。フゥっと冬の冷たい空気が小さな雪のつぶと共に吹き込んでくる。
「あ!ちょ、待てよ」
サク…サク…
まだ降り積もったばかりの新雪に二人分の足跡が付く。
「なぁ…怒ってる?」
「あ?なんで?」
「あ…いや、その…嫌そだったから。俺と、組む?の」
「そのことか。俺は、チカラから分かる通り後方支援タイプなんだよ。だから普通に前線が嫌なだけだ」
「ほんと?」
響宴が横で歩きながら氷室の顔を覗き込む。氷室が言葉に詰まる。
「…そ」
氷室が音を発しようとした途端、一際大きく嫌な感じのする風が過ぎ去って行く。日本海の方向に氷室が目を向ける。
「急ごう。どうやら人手が足りないっていうのは本当らしい」
「俺、何も教わってないけど…?」
響宴が情けない声を出す。
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ザザァー…ザザァー
二人は東尋坊に来ていた。
「え?何?これからサスペンスドラマでも始まる?」
「おい、ふざけてると突き落とすぞ」
「いや、ガチで落ちられるからやめて…?柵ないから!」
氷室が崖の先まで降りて行く。その目線の先には、何人かの人影があった。
「こんにちは。氷室です」
「あぁ…融ちゃん!わざわざ来てくれたのかい?」
そう返事をしたのは80は超えているであろう老婆だった。杖を支えにして立っている。
「おぉ〜!融!学校ズル休みしてきたのか?」
こちらは6、0代…?いまいち年齢がよく分からない筋肉質な男性だ。
「融くん。そっちの子は?新しい子とちゃう?」
関西弁だ。具体的にどこかというと京都、だろうか?この中で一番若く、おそらく20代後半ぐらい。中性的な顔立ちをしているが男性だろう。
「こっちは人伝に斡旋されてJPCPに加入予定の…何笑ってんだ?」
「ふっ…いや…融ちゃん…ふ、ふふっ…と、融…ふふふっ…あははっ!」
「おい」
「いや…ごめっ、ふっ…愛されてんなぁって…あははっ…涙出てきた…!」
外野の三人は微笑ましく眺めている。
「いいお友達だねぇ…」
氷室は耳まで真っ赤だ。
「あぁ〜クソっ」
関西弁のお兄さんが切り出す。
「まぁ、一旦それぐらいにしぃ…僕は|二条《にじょう》 |宮《みや》。君、名前聞いてええかな?」
「あ!えと、響宴 詩っす。『うた』は『|詩《し》』って書きます!」
「おぉ、名乗ってなかったな。俺は|荒波《あらなみ》 |海人《うみんちゅ》。海さんって呼んでくれ」
荒波はパンッと大胸筋を叩く。
「わしゃぁ|錦《にしき》 |喜代子《きよこ》です。皆んなからはキヨちゃんって呼ばれとるかねぇ…もうこんな歳になってしまったけど。ふふふ…恥ずかしいわねぇ…」
響宴は目線を合わせながら確認する。
「えと、二条さんに海さん。で、キヨちゃんっすね!」
「お前、適応能力高いな…」
「あれぇ?さっきまで真っ赤だった融ちゃんじゃ…」
ゴンッ!!!
「いったぁ〜!グーで行ったよ!グーで!!チョキじゃないだけましだけれども…」
「で、僕らはどこを担当したら良いんですか?」
「あぁ、君らには東の海峡を担当してもらおう思てる」
氷室の顔が険しくなる。
「いきなり東は…!僕のチカラもわかってますよね?」
「…わかってへんのは融くんとちゃう?君のチカラ、あんだけちゃうよね」
「…」
「ほな、よろしゅう」
二条はニコッと笑みを浮かべると、さっさと大人たちの輪に戻っていった。響宴が氷室にコソッとささやく。
「もしかして、二条さんって怖い人…?」
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「ここが、東の海峡だ」
「なんか、気温下がった?寒いんだけど」
「あぁ…」
たっぷりと水分を含んだ黒々しい雪雲が流れてくる。それはまるで、二人の間に流れる空気のようだった。
「ふぅ…」
誰のものともつかない呼気が漏れる。
「行くか」
氷室がゆっくりと、だがしっかりと足を踏み出す。と、その氷室の腕を響宴が掴む。
「待って待って!!俺なんにも聞いてないよ!?何したらいいの?え、このまま突っ込んでいって?でどうするの?」
響宴があまりにもうるさく捲し立てるものだから氷室は思わず顔をしかめ、身をのけ反らせている。
「うるさっ…」
氷室は明後日の方向を見つめながら応える。
「まあ、なんだ…そうやって喋っとけばいいんじゃねぇの?」
「え。適当すぎない?」
二人がそうやって押し問答をしていると、少しの雪が吹きつけてきた。
「時間がない…チッ、お前にアレに立ち向かう度胸がないんなら俺一人でやるよ」
そういうと、氷室は響宴の手を振り解いて走って行ってしまった。
「…っ!」
響宴には追いかけることが出来なかった。
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『腕が震える。ああは言ったものの、俺にそんなチカラがあるのか?…いや、あるんだろう。でも、俺にできるか?できるわけない。…何を偉そうに、俺の方が響宴よりよっぽど度胸が無いじゃないか。あぁ…クソっ!…クソっ…でも、やるしかない。』
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「かかって来いよ」
そう言う氷室の眼前では、竜のような形をした大きな雲が力強く咆哮を上げていた。
「「グゥガァァァ!!!!」」
それと共に大量の雪が吹雪く。
ピッ…
氷室の頬に雪の粒が掠る。その傷口がだんだんと赤色に染まっていく。真っ白いこの空間で、そこだけが嫌にはっきり見えた。
「ははっ!さすがだな…」
氷室は震える右手を握り締める。
「融解、|水《すい》」
氷室のその言葉に呼応して、みるみるうちに雪が融けていく。足元に積もった雪は水となり流れて行き、ヒュウヒュウと吹き付ける吹雪はザーザーと打ち付ける雨となった。しかし、その雨には所々|霰《あられ》が混じっている。
「…っ…つえぇな」
そうしているうちにも、また一つまた一つと氷室の体が裂けてゆく。
「くっそっっ…!」
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『やるか…?でも、でもっ…』
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「はぁはぁ…っはぁ…」
氷室が浅い呼吸をする。
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『もう…』
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「氷室っ!」
名前を呼ばれて反射的に振り向いたその先にいたのは、人伝だった。
「せん、せ…」
よく見ると人伝はナニカを抱えていた。…人だ。
「え?」
響宴だ。
タタッ…
人伝が氷室に駆け寄り、その背中にそっと手を当てる。
「|抱擁《ほうよう》…親心」
あっという間に氷室の傷が塞がる。
「ありがとうございます…そいつは?」
「ああ、あっちの方でウジウジしていたから連れてきた」
ドサッと勢いよく響宴を下す。
「いたぁ!!ちょ、センセー酷くない?」
なんだか人伝の様子がおかしい。
「人伝先生…いつもよりチカラを使ってますね?本性出てますよ」
「本性じゃねぇよ…!あぁだるっ…チカラの副作用だっていつも言ってるだろ」
「え?副作用…?副作用とかあんの!?こわっ」
一人でわーわーと喚いている響宴の襟を人伝が掴む。
「覚悟決めろよ。氷室に一人で戦わせて、氷室が傷ついてるのを見て楽しいか?俺は、お前がそんな奴だって知りたくねぇよ」
「っ…れは…」
人伝はパッと響宴の襟を離し、氷室に向き直る。
「俺はここには居れない。それは、分かるな?」
「はい」
「応援は見込めない。ただ、自分の身に危険を感じたらすぐさまこの発煙筒を焚け。…自分を犠牲にしろって訳じゃない。ただ…ここを頼む」
そう言って人伝は氷室の手に赤い発煙筒を握らせる。
「はいっ…」
「さぁ、アイツもそろそろ我慢の限界みたいだ。幸運を祈る」
そう言って人伝はかけだして行く。その足音を背に氷室は雲を睨みつける。
「さぁ、もう一回だ」
雲が胸を膨らませて大気を吸い込む。その勢いで小さな氷の粒が舞う。治ったばかりの氷室の頬がまた赤色に染まる。
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『氷室が、傷つく。せっかく治してもらってたのに』
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雲の胸が一際大きくなる。風が強くなる。
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『こいつは後方支援タイプだって言ってた。それなのに俺は…こいつの陰に隠れてる』
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「くっ…!」
氷室の顔が歪む。
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『やめろ…やめろよ。こいつが傷つくのを見たくない。俺のせいで傷つくのを…』
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風が止む。一瞬の静寂。雲が、息を吐く。
「「「やめろよ!!!!」」」
途端、力強い声が響く。それが雲の息とぶつかる。大きな風が巻き起こる。だが、声は氷室を守るように包み込む。氷は氷室の元までは届かない、届かせない。
「っ…」
風が消えると、辺りはキラキラと輝いていた。まるで、何かを祝福するかのように。氷室が呟く。
「ダイヤモンドダスト…」
だが、まだ戦いは終わっていない。雲はまだそこに居る。
「氷室、俺…」
「そうだな…ちょっと、チカラを貸してくれるか?」
「…っああ!」
雲は攻撃してこない。二人の様子を伺っているのだろうか。
「お前は声でこの、今空中に舞っている雪の粉をアイツの方へ飛ばしてくれ。そしたらあとは俺がなんとかする」
「ふっ…カッコつけんじゃねぇよ」
「俺にも見せ場の一つぐらい作らせろ」
「了解」
響宴が自分にだけ聞こえるように呟く。
「見せ場なんて…もう十分あっただろ」
二人は横並びに立つ。
「すぅ…」
「「消え失せろ!バーカ!!」」
ヒュウ…!!
大きく風が立つ。
「状態変化、気」
ボンッッ!!
雲の眼前で大きな音がし、蒸気が立つ。二人は一瞬熱さを感じる。しばらくして、その白い影が少し塩味のする風に攫われると、そこにはもう何も無かった。
ドサッ…
氷室が倒れる。
トンッ
響宴も合わせるようにして尻餅をつく。
『ハハハッ…』
二人の声が青々とした大海原に吸い込まれてゆく…
20ZZ年_日本_福井。人々は、地震、津波に次ぐ新たな脅威に怯えていた…だが、どうやら日本の未来は明るいようだ。