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逃
彼女は逃げた
苦しみから
そして私から
私は追いかけた
『もう、いいよ。だから戻ってきてよ。お願い』
何度も入力ミスをして
その度打ち消して
長い時間かけて打ったその文章を
彼女に送った
数日後にやっと既読がついて、返信が来て
『こんなわたしでごめんね』
だって
そんなふうに言わないで
自分自身を否定しないで
私の方が悲しくなる
私はそんなあなたが
心から好きなのに
『しにたいな』
死んじゃだめ。
『わたしがしんだら悲しんでくれる?』
当たり前じゃん
あなたが死んだら
私も後を追うよ
天国できっと会えるよ
ああ、地獄かもね
自ら命を絶ったのだから
地獄かもしれないね
『地獄でも、ふたりなら怖くないね』
そうだね
『しんでいい?』
いいよ
私も死ぬから
怖くないよ
『君が死ぬのは、いや』
『生きて』
『わたしのことなんて忘れて、楽しく生きて』
そんなことできない
『すきだよ』
私も
『ばいばい』
いやだ
ばいばいなんて言わないで
やめて
やめて
やめて
いくら送っても
既読はつかなくて
窓の外から
悲鳴が聞こえて
「もどって、きたの?」
窓の外には
赤に染まってる動かなくなった君がいた
私もすぐ、いくからね
最後にそう送って
私は家のドアを開ける