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通学路
2026/01/05 通学路
電車に乗り込んだ。席は空いてない。まあ朝の満員電車なんだから当たり前だ。吊り革につかまりぼうっと外の景色を眺める。なかなか動き出さない電車、変わらない景色、ほんの10秒程度で飽きて視線を少し下に落とす。前の人のカバンにキーホルダーが揺れている。知ってるキャラクターだった。何年か前に流行ったやつ。名前は知らない。3文字だったという記憶はある。最近はもう全然みないし。電車が動き出した。体が横に揺れないよう足にグッと力を入れて立つ。これが地味にキツくて、席に座れている人が羨ましくなる。体の前で抱えるようにしている通学リュックが重い。中には教科書やら参考書やら辞書やらが入っている。学校のロッカーに置いておくこともできるけど、家で勉強するわけだから、持ち運ぶしかない。
目的の駅で降りた。学校に向かう。学校に近づくにつれて同じ制服の人が増えてきてなんだか愉快な気分になった。校門をくぐり校舎に足を踏み入れ、下駄箱で靴を履き替える。私の教室は1階にあるので少し廊下を歩けばすぐに教室に着く。自分の席に座ると、前の席の友人と、自然と会話が始まる。
「今日、メガネ忘れて、黒板何も見えないんだけど。」「えーどうすんの。」「ノート見せてくんね。」「えー。まあ考えておく。てか、さっき電車で、なんか結構前に流行ったキーホルダーつけてる人みたんだよね。」「ふーん。ノート頼むよ。」「でさーずっと思い出せなくて、あれ、なんて言うキャラなんだろ。」「その情報だけで私がわかるわけなくね。」「3文字だった気がするんだけどな。」「名前が?」「うん。」「調べれば?」「なんて調べたら出てくるんかわからんもん。」「3文字の名前、何年か前にはやったキャラ、あと、見た目で調べたらいけるでしょ。」「見た目ー、なんか、クマみたいな、ウサギみたいな、それともゾウなんかな。水色ってことしかわからなかったし。」「水色のクマとウサギなんていないから、ゾウでしょ。」「でも1番最初に思ったのはクマなんだよね。」「てか、この教室さむくね?」「暖房ついてるけど、窓開けてるし意味ないよね。」「閉めたいけど閉めちゃだめなんだっけ?」「そう、きついよねー。」取り止めもない会話。
お昼休み。私は購買に向かった。購買は、私がどれだけ早く来れたと思っても、もう生徒で溢れている。どんなスピードで買いに来ている人がいるのか、いつも不思議だ。1番人気の焼きそばパンはとっくに売り切れで、私はメロンパンとカレーパンを買って教室に戻った。先にお弁当を食べ始めている友人の席に、自分の椅子を持って行って座る。カレーパンにかぶりついた。咀嚼し、飲み込んだ後、口を開く。「休み時間にあのキャラのこと、調べたんだけど、出てこなかった。」「キャラ?」「言ったやん、電車で前の人がキーホルダーつけてて、そのキャラが思い出せないみたいなこと。」「あー思い出した思い出した。私は黒板見えないことのが重大だったからさ。」「ノート見せてあげたでしょ。」「まあね。でも授業中に当てられたら答えられないし。」「で、そのキャラがさ、出てこなかったんだよね。」「いまさっき聞いたって。」「あんたもなんか調べてよ。」「いや、私はそのキーホルダー見てないし、共通認識がないじゃん。」「それは確かにその通りなんだけど。」カレーパンを食べ終えた。メロンパンの袋を開ける。甘い匂いが私の鼻をくすぐってきた。
放課後、私は電車に揺られていた。午後4時の電車は朝と比べてあまり人が多くないので、今日みたいに席に座れることもある。通学カバンからスマホを取り出し、検索アプリを開く。水色、クマ、キャラクター、1文字ずつ打ち込んで検索をかけてみる。フリー素材のイラストや、大して水色でないクマのキャラクターが出てきた。一応目を通したけれど、あのキーホルダーのキャラクターはやはりいなかった。やはりあれはクマではなく、ウサギかゾウだったのか。スマホを閉じて息を吐きながら顔を上げた。あのキャラクターが特別好きだったわけでも、思い入れがあるわけでもないし、絶対に名前を知りたいわけでもない。思い出せなくても問題はない。まあいっか、とスマホをカバンの奥に突っ込み、窓の外の景色を眺めた。夕焼けが綺麗だし、景色が動いているから、10秒程度で飽きることはなかった。電車の心地よい揺れが私の眠気を誘ってきた。寝たら起きれなくなるから、寝ないけど。