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〖某月某日、某村にて〗
青々とした木々の茂るトンネルを通り抜け、車道へ出る。
敢えて白線から踏み外さないように歩いて煙草に火をつけた。
左手に持つ年季の入った高級感のある金色の猫のマークの入ったライターは夏のうだるような暑さに熱を帯び、とても持ってられるものではなかった。
少し歩いた先に黒い長髪に白いシャツを着て灰色っぽいスカートを着用し、白い靴下に黒い靴を合わせた何とも無難な格好した22歳くらいの女性をバス停の近くで見た。
片手をあげ、額の汗を拭って彼女に話しかける。
「中居さん!」
女性に話しかけたのは金色に染まった髪を揺らす青い瞳の男性。これといって外傷も特徴もない普通な人物。
腰にある取材用の手帳の名前欄には、〖|上原慶一《うえはらけいいち》〗とだけある。
一方、女性の手帳には〖|中居百音《なかいももね》〗と記されていた。
バスが到着する音がした。
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造花、生花を問わず様々な花が飾られた花祭壇の中央に20代中頃のように見える黒髪の女性の写真が飾られている。横の立て札には〖|田中栄子《たなかえいこ》〗と記されていた。
葬式場に線香の臭いが漂い、それが外で香典を受けとる女性の元まで届いた。
女性はなびくような黒髪に青い瞳をして、まるで西洋のメイド服のようなものを着用していた。
うっすらとその女性に香典を手渡す茶髪の男性が嫌そうな顔をした。しかし、その視線は黒い喪服を着たややクリーム色の髪に緑の瞳をした顔立ちだけは英国紳士を彷彿とさせる男性に向けられていた。
「...なんだよ」
「いや、別に?...日村らしいなと思って」
「......こんな場所に来てまで嫌味か?だったら、とっとと出てってくれ。場の雰囲気を乱すだけだ...故人の弔いにふさわしくない」
受付で喧嘩を始めた二人に隣の女性が香典に記された〖畠中家〗の黒いボールペンで書かれた文字を見て口を開いた。
「秋人様」
急に名前を呼ばれた男性が自分の目の前の男性を少し遮って反応する。
「なんだ?」
「失礼を承知で申し上げますが、香典にボールペンは良くないとされています。それに、故人の弔いの場でこのような話をしては...」
「......ああ、分かった、分かった。田中さんに挨拶だけして出てくよ」
機嫌を損ねたような、呆れたような態度を見せて目の前の男性に少し肩をぶつけ、会場へと進んでいった。肩をぶつけられた男性は少し痛そうに整った顔を歪ませた。
その男性、〖|畠中秋人《はたけなかあきと》〗より後ろでソファに座って少々休憩していたやや白っぽい銀髪に青いイヤリングをした姉弟が少々毒を吐いた。
顔のそばかすが目立つ黒い帽子を被り、黒眼鏡をつけた女性が先に口を開いた。
「...本当に、仲が悪いわよね...修と秋人って...」
一方で、髪の片方を三つ編みにしている以外特徴のない男性が応えた。
「...そうかな...。修さんと、畠中さんって...わりと...」
「わりと?」
「......ううん、何でもないよ。姉さん、落ち着いたなら...そろそろ行こうよ」
男性が女性に手を差し伸べて、ゆっくりと拐うように手を掴んだ。
女性は〖|神宮寺朔《しんぐうじさく》〗、男性は〖|神宮寺大和《しんぐうじやまと》〗。
そして、受付で忙しそうにするのは〖|日村修《ひむらおさむ》〗、〖|優月彩音《ゆうづきあやね》〗である。
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会場の中で畠中の席に座るのは、俯いて黒髪に緑の瞳の女性と深い海のような青い瞳に水色の髪をした男性、これまた黒髪に黒い瞳をしたやや負けん気の強そうな男性だった。
全員が秋人の姿を目視した瞬間、一瞬だけ視線がずれた。
これも順通りに〖|山村由香里《やまむらゆかり》〗、〖|真宮真央《まみやまお》〗、〖|広竹悠斗《ひろたけゆうと》〗だった。
ただ、悠斗だけはしっかりと秋人を見ていたが_後ろにいた紺に近い青髪の男性の手によってゆっくりと視線を逸らされた。
「なにするんですか?」
「いや...少し、ね」
黒っぽい数珠をじゃらじゃらと鳴らして、軽く笑いながら答える。
「ま、良いじゃない。ほら...秋人だってすぐに出てくだろうし...君らは行かなくて良いの?」
そう言って、数珠を持った手でやんわりと手を合わせ帰宅するところの秋人を指した。
その手が引っ込むと同時に由香里、真央、悠斗の三人が追うように出ていった。
紺に近い青髪の男性の名前は〖|梶谷湊《かじたにみなと》〗。
その後ろに楽しそうにギザついた歯を見せて笑う赤髪を団子状にした橙色の切れ目よりの瞳の男性と黒髪に緑の瞳のはつらつとした男性、下が青くグラデーションのある金髪に青の瞳、こちらもまたギザついた歯だが所々に包帯や眼帯がある女性。
順に〖|茨崎棗《いばらさきなつめ》〗、〖|紀井天気《きのいてんき》〗、〖|夜久月《やくつき》〗という。
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畠中、梶谷の向かって右の席には〖神宮寺家〗、〖八代家〗の面々が揃っていた。
神宮寺家の当主が畠中家とすれ違いに席に座り前を見た。神宮寺家の従者の席はあったものの、誰もいなかった。何かの火花が散ったような音がした。
八代家の面々は全て揃っているようで、長い黒髪を後ろ手に一結びにした水色の瞳のしっかりしていそうな男性、〖|八代亨《やしろとおる》〗と黒髪が瞳を覆い隠す男性、〖|八代十綾《やしろとあ》〗が座る後ろに三人が座っていた。
赤いメッシュの入った黒髪に黄色の瞳の痩せた男性、双方スーツを着た金髪で青の垂れ目の男性二人。
一人は長い金髪を一結びにし、一人は短い髪をしていた。
黒髪の男性は〖|大川隼人《おおかわはやと》〗、金髪に青い瞳の男性の内、前者は〖アンヴィル・タリー〗、後者は〖スーヴェン・タリー〗と名の兄弟である。
一見、平凡で平和そうな雰囲気だが、当主とその弟の席だけが異様に離れており、何とも気まずそうな雰囲気だった。
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式中の一番前に横一列になって座るのは〖日村家〗だが、日村修やその妹の姿はなく、神宮寺家と反対に従者のみが席についていた。ただ、二つの席に人の姿はなかった。
淡い桃色の髪に青い瞳をして、瞳の下に黒子のある女性、赤い長髪をポニーテールにしてアーモンドのような形をした緑の瞳の男性とも女性とも似つかない人物、銀や白、灰色に近い髪を後ろに一つで結び水色の瞳をした男性。
女性は〖|佐久間春《さくまはる》〗。中性的な人物は〖|亡忌 真広《なきまひろ》〗。男性は〖|戌亥 蓮《いぬいれん》〗である。
やがて、修と彩音が着席し後から随分とお歳を召した僧侶が入り、ゆっくりだが、よく響く声で念仏を唱え始めた。
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少し苔むした赤い鳥居をくぐる上品な雰囲気のややクリーム色の髪に緑の瞳の女性。
一歩を歩く度に周りの霧が濃くなるが、構わず進んでいく。
やがて、その女性が神社の本殿に辿り着いた時、一瞬にしてその深い霧は消え失せた。
「......こんにちは」
誰も答えない。
「...こんにちは、日村です」
誰も答えなかった。
「いるんでしょう?大和さんから、お話は聞いていますよね?」
その言葉が境内に響いた時、奥から複数人が近寄る気配があった。女性がその場で振り替えると、音もなくいなかったはずの四人の姿があった。
右から、眉が隠れるほどの前髪にトップを短く襟足を長くしたような髪型に猫目寄りの黄色い瞳の中性染みた人物、〖|葉狐 玖乃《はぎつねくの》〗。白髪に右へ結んだ髪型に身体中が異様に光る男性、〖|冷泉慧香《れいぜいけいか》〗。長髪の髪に縛った跡のある紺や黒、青に近い髪色に真っ黒な瞳をした男性、〖愛知雪名〗。淡い桃色の髪に青緑の瞳をした女性、〖|伊鯉明菜《いこいあきな》〗。
「やっぱり、いるじゃないですか」
その四人に動じもせず笑った女性を〖|日村遥《ひむらはるか》〗と言う。
うだるような夏の暑さはその日中、ずっと続いていた。
棺の中に入った田中栄子の遺体は形は崩れてはいないものの、グジュグジュと異音を立てて泡立ち、火葬されるまで永遠とその音が止むことはなかった。
**あとがき**
ご参加いただいた方々、誠に有り難うございます。
最後の一文につきましては、そこまでですのでPG12となりました。
遺体欠損があればもう少し高めに設定していたと思います。
また、現実において、遺体が熱でドロドロになるのは腐乱死体でもないかぎりあり得ないんじゃないかなと思います。ちゃんと棺に入ってるなら、冷えていそうですし...。
今回で人物の紹介は済んだと思いますが、性別が違う!やちょっと違うところがある!がありましたら、お申しつけ下さい。
流行に疎いもので、よく分からない髪型は少々調べて分かりやすく起こしました。
また、執筆中に気づいたのですが、〖愛知雪名〗のふりがなが不明だったことに気づきました。
アイチユキナ、で合っている、もしくは間違っているのでしたら、作者様にご確認いただけると幸いです。
ファンレターでも設定表に記載されてもかまいませんので、お教えいただけると有難いかぎりです。
本編に置きましては全く進展がない状態ですので、今後を期待して下さると幸いです。
余談ですが、神宮寺家の従者が日村家の葬式にいない理由については嫌がらせでも何でもないです。
設定上の都合です。
また、〖上原慶一〗の絡み台詞追加などは不要です。大抵、当主とその兄弟辺りとの会話があると思われます。仮に例外があったとしても、全て〖上原さん〗統一です。
ここまでお読みいただき、有り難うございました。
次もまた、あとがきがあると良いですね。