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風の刃と世界の行方 第1話
「あーあ、マジか………」
私、|風見響《かざみひびき》は神社の石段に座り込んでため息をついた。年に一度、海と山に挟まれたこの町で行われる夏祭りで私は失恋した。小学校から仲良くしていて、中学も高校も同じ。休みの日は遊んだり、この祭りにも毎年一緒に来ていた。なのに、なのに………
「彼女いるとか聞いてねえッッッ!なんか今年誘われてないな〜って思って自分から誘ってみたら?『ごめん、今年は彼女いるから』。じゃねえよ!」
アイツだけリア充になりやがってさ!ショートヘア剣道部女子は恋愛対象外ですってか?ふざけんな?なんて思いながら、焼きそばを黙々と食べる。ちなみに横に置いたレジ袋にはたこ焼きとかその他色々屋台で買い込んだ食べ物が入っている。ヤケクソで、とはいえ人生で初めて屋台で2000円も使ったよ……
「男女の友情って成立するんダネ!!まあ私はあいつのこと友達じゃなくて男として見てたケドネ!!」
え?こんなに独りで喋ってて大丈夫かって?安心したまえ。屋台が出ているのは私がいる本殿への石段じゃなくて入口の鳥居の方だし、祭りの日にここに来る人はいないからセーフ!
「こんなことならさっさと告っときゃ良かったわ……」
「でもさあ、告ったってOKされる保証なくない?」
「それはそうだけど…………ん?」
私のクソデカな独り言に何故か返事があり、怪しいと思って隣を見ると、浴衣を来たイケメンが座っていた。いや、誰?
「あ、お気になさらず。続けて」
「それは無理がある」
よく見たらモッフモフの耳としっぽ生えてるし、オッドアイだし、銀髪ロングだし、2次元から来たんかこの人。
「自己紹介した方がいい?俺、|千景《ちかげ》。18歳。人間みたいな見た目してるけど人間じゃないんだ。よろしく!」
「私まだ何も言ってない」
「お名前は?」
この状況でマジで自己紹介させる気か?まあ言わないと会話進まないしな。
「…………風見響」
「年齢は?」
「16歳。高2」
「誕生日いつ?」
「それは一旦後」
「なんで?」
一応淡々と接してるつもりだけど、イケメンすぎて顔直視できない。そんなキラキラした笑顔でこっち見んな。眩しい。
「私のことより、アンタのことを教えてよ。人間じゃないってどういうことなのか、なんでここにいるのかひとまずそれを知りたい」
「俺、人間界とは別の世界から来たんだよね。ここの神社ってめっちゃパワーみたいなのが強くて、俺のいる世界とも繋がってんの。それをゲートみたいに使って来た。人間じゃないっていうのはそのままの意味。見てわかると思うけど狐だよ。見た目は人間に近いけど。ここまではOK?」
全然、OKじゃない。まあ気になることは後でまた聞こう。
「俺あっちの世界の王族なんだけど、今嫁探しをしてるのと手伝って欲しいことがあって、もし良かったら君こっちの世界に来てくれない?」
「ごめんちょっと何言ってるかわかんない」
話にならん。てか意味わからん。帰ろうかな。
「ちょ、待って!席を立たないで!そんな軽蔑しきった目で俺を見ないで!」
「軽蔑してる訳じゃないよ。ドン引きしてるだけ」
「それはそれで傷つく!」
私は大きくため息をつき、仕方なく千景の隣に腰を下ろした。
「行きたい気持ちが無いって訳じゃないの。でも私学校とかあるし、いなくなったら周りが心配するでしょ?」
「その点は大丈夫。君がこの世界からいなくなったら君は"いないもの"として時が進むんだ。いなくても大丈夫なようになってるよ」
「私人間だし。危ないじゃん」
「俺こんな感じだけど強いから、守れる。それな君剣道部なんでしょ?戦えるじゃん」
「おいちょっと待てなんで知ってるんだ」
夏なのに背筋凍るんだけど。やっぱ帰ろう。
「だって、嫁に狙ってたんだからそのぐらい知っておかなきゃ」
「キッショ」
「もうちょっとオブラートに包んでよ」
まあ狐だし、知っててもおかしくないか。いやおかしいな。正気に戻れ自分。
「こっちの世界、割とマジでピンチなんだよ。本来なら俺たちで解決すべきことなのに、こうやって人間界で助けを求めるぐらい」
「…………」
「君は強いし、頭も良い。嫁になるとかは一旦置いといて、助けてくれないか」
そんなこと言われたら、断れないじゃん。
「………………わかった。いいよ」
「本当!?ありがt」
「3食武器付きで、ちゃんと稽古できる場所が欲しい。ついでに私一応失恋した身だから慰めて」
「そのぐらいお安い御用だよ!さ、行こう!」
立ち上がった千景に手を差し出され、その手を掴み私も立ち上がる。千景に引っ張られるまま石段を駆け上がり、不思議な光を放つ本堂に飛び込んだ。
「え、レジ袋持ったまま!?」
「置いてったらもったいないじゃん」