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平行線
短編集多いね。
今思えば、誰かもわからないヤツに俺は助けられていたのかもしれない。
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当時の俺は、|所謂《いわゆる》社畜だった。
朝早い、午前五時に出勤し、家に帰ってくるのは早い時には深夜零時、遅い時には午前二時だった。
部屋の片付けなんてしている気力も湧かないまま、いつ買ったのかもわからないコンビニ弁当が散乱していた。
「……」
布団に入り、寝ようと思っていてもなかなか寝付けない。
そんな生活を約2年ぐらい続けていた。
お盆の日
珍しく仕事が休みだった。
ゴミで足の踏み場が少ないままでは駄目だと思い、重い腰を上げ部屋の片付けをした。
久しぶりにゴミが散らかっていない、床が見える部屋を見ると一気に広く感じる。
小さい部屋にも関わらず汗をかくぐらい動くのは久しぶりだったので、すぐに寝てしまった。
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異変が起こったのは一週間ほどたった、午前二時の出来事だった。
その日もいつも通り午前二時を回った頃に家に帰った。
鍵を開け、重い足取りで玄関をまたぐ。
リビングに入った瞬間、部屋がほんの少し暖かくなっていることに気が付いた。
誰もいないはずの空気がゆらりと動いたような感じがした。
「……疲れてるのかな」
ボソッと呟いた。
まるで自分に言い聞かせるように
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だが、来る日も来る日も靴がきれいにそろえられていたり、干しっぱなしだった洗濯物がきれいにたたまれていたり。
まぁ、ありがたいというのが本音だが、そこにはちょっぴり恐怖の感情もあった。
朝ご飯を食べようとした、午前三時半のことだ。
リビングへ向かうと、湯気の出ている味噌汁とおにぎりが机に置いてあった
「え、俺...こんなの用意したっけ...?」
よくわからないまま机に向かうと可愛らしい付箋が貼ってあった。
『お疲れ様です。ゆっくり食べてください』
丸っこいフォントで書かれていたその付箋。
貼られてあったおにぎりと味噌汁には害も無さそうで死ぬ覚悟で食べた。
「……美味しい、」
冷たい物しか食べていなかったから、温かい味噌汁は身体に染み渡る。
お礼を言いたいが、どうやって言えばいいかわからなかったため付箋に殴り書きをした『ありがとう』とだけ書いて家から飛び出した。
頭の片隅には朝食べた温かい味噌汁とおにぎり。
泥棒にしては親切すぎるし、ストーカーにしては実害がなさすぎる。
幽霊だったとしたら、ずいぶんと家庭的な幽霊だし俺はお祓いをお願いしてるだろう。
朝に書いた付箋……捨てられるだろうか、それとも返事をくれるだろうか。
いつもは憂鬱でしかなかった家までの帰り道が、その日だけほんの少しもどかしく感じられた。
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日付の変わる午前一時、いつも以上にリビングへ向かう足取りが早くなる。
部屋の中はあの日と変わらない暖かさ、そしてふわっといい匂いが漂った。
机の上には美味しそうに焼きあがっているハンバーグと白いつやつやしたご飯。
朝に貼った自分の付箋の下に新しい付箋が貼られていることに気が付く。
『どういたしました!のこさず食べてくれてうれしかったです!(@^-^@)』
文字の横には顔文字が書かれてあって口元が緩む。
恐怖心はハンバーグの湯気と一緒に出て行ってしまった。
鞄を床に置いて、箸を手に取る。
「いただきます」
温かいホカホカとしたご飯を口元に運ぶ。
ポケットに入っているスマホを取り出し黒い画面を見る。
多分、生きている中で今の顔は一番穏やかな顔をしているだろう。
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食べ終わった後、皿洗いをする。
キュッキュッとスポンジと洗剤のついた食器の擦れる音が聞こえる。
正体を暴きたい、という気持ちが無いわけではない。
でもそれで暴いてしまってまた元の生活に戻ることになってしまったら。
そう思うと、これ以上踏み込むのが怖くなってしまう。
何時の間にか皿洗いが終わっていたため、手をタオルで拭き新しい付箋をちぎって今度は丁寧な字で書く。
『ご飯、すごくおいしかったです。ありがとうございます。』
交わることのない二つの線。
だからこそ、このままでいいと思っている。
最初と最後が変になっちゃった。
ま、いいか。
好評でしたら続き書きます
シリーズとして。