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Collaboration.11
ルイスside
「……よくわかんないけど、ルイスはこの人達のこと嫌いそうだから遊んでいいよねぇ♪」
「ちょっ、待っ、だから、引っ張っ」
エマに引っ張られるアーサー。
二人の関係が相変わらずでなにより。
そして、それを見てポカンとするテニエル兄弟姉妹が面白い。
「ルイスさん説明Pleaseください!!」
でも、まぁ、うん、そうなるよね。
「ごめん僕もちょっとよくわかんない」
「ルイスさぁぁぁん!!!」
どうやら桜月ちゃんは、僕の名前を叫ぶぐらいには混乱しているらしい。
何かもう、戦況が変わりすぎて考えることに疲れてきた。
--- side change ---
相変わらず、探偵社は自由にやってるわね。
マイペースなのに連携が取れているのは、普段からちゃんとコミュニケーションが取れている証拠。
そんな事を考えていたら、彼女が《《私》》に気がついたらしい。
「…あの……」
「どうしたのかしら?」
「お久しぶりです…?」
「一言目がそれなのね」
私はてっきり、と言葉を続けようとしたけれど一度やめた。
視線を轟音の方へ向ければ、桜月ちゃんも同じように見ている。
彼女は少し怖がっていた。
「チッ……武器なんてズルじゃねぇか! こちとら治癒能力で体術中心の戦闘方法なんだよ!! んなこと知らねぇだろうが、俺の骨が折れるまで付き合えやオラァ!」
キラキラと羽ばたく妖精の力を借りて、怪我をしても即座に治す。
そんな当たって砕けろ精神の“脳筋”であるコナン・ドイル。
「ハァ……紅獣はコナンのサポートに入ってこい。私はひとまず単身で乗り込み、相手を見定める。場合によってはルイスが手を下すまでもないからな」
紅い布が宙を舞い、刃になり、獣へと姿を変えていく様子から本来は中距離が正しい戦術。
その筈なのに自ら戦場へ突っ込んでいく同じく“脳筋”のシャルル・ペロー。
「うわっ、異能使ってくるなんて卑怯だろ……ちゃんと使いこなしてるし──よし、蹴りでフルボッコにするか。僕の前で異能を使ったのが君の敗因だね」
時を操るという、最強かと思われがちな異能だが本人曰く使い勝手が悪い。
そんな理由で武器も使ったりするけれど、ほとんどを蹴り飛ばして対応する本日3回目の“脳筋”、アーサー・ラッカム。
「傷がまた増えたら今度こそ与謝野さんの治療受けさせるからね! ──っと、話してるのに攻撃やめてよねぇ…ホント、手加減しないよ?」
彼女が持っている武器の数は数え切れず、本人も正直把握していない。
ただ純粋に、狂ったように武器が手から離れることなく戦い続ける“唯一脳筋じゃない”エマ・マッキーン。
「……。」
まぁ、気持ちはわかるわよ。
以上の光景を見て、私はため息混じりに問い掛ける。
「…てっきりあっちを先に聞くと思ったわ」
「…なんか……ルイスさんもアリスさんも既に意味わからないくらい強いので……英国軍の方はみなさんそういうものなのかなって………」
「そんな化け物みたいな」
実際そう呼ばれていたし、私も客観的に見て思ったわ。
まぁ、そんなことより話すことがあるわね。
「…でも、彼が気がついてくれて良かった」
ジョン・テニエルのことだと、桜月ちゃんなら気がついてくれるわよね。
「…本当、その通りです」
「けれど…この先どうするつもりなのかしら」
「この先?」
「…何があろうと血のつながった兄弟姉妹というものは他にない存在だもの」
「…たしかに、そうですね…」
私も両親なんてものいないし、ルイスは双子以上に深い関係。
そんな相手を裏切る、か。
間違っていたことだとしても私はルイスについていくのかしら。
「……いや、行くわね」
はぁ、と思わずため息を零す。
私には拒否権がない。
何よりルイスの望みを叶える手伝いが、此方へ巻き込んでしまったことへの贖罪になる。
でも彼は、裏切るという選択をした。
こっちの彼も、別世界から中也君を連れてくるという行動をとった。
ジョン・テニエルという人物は、きっと、どの世界線でも強いのだろう。
ルイスもちょっとは見習ってほしいわ。
ふと、私は桜月ちゃんの方を見る。
何か独り言を云っていたけれど、気にしないでおきましょう。
それがきっと、お互いの為。
「私から、ひとつ聞いていいかしら?」
「もちろんです_私にわかることなら、」
「貴女は__これから彼はどうすべきと思う?」
少し食い気味に聞いてしまったわね。
桜月ちゃんとゆっくり話せる時間なんて、あまりないもの。
まぁ、今も戦闘に混ざったほうがいいんだろうけれど。
「…彼、っていうのは_ボスのことですよね」
「ええ…あくまで貴女の考えでいいから」
「__それは」
思っていたより探偵社の仕事は早く、異能を持たない一般兵をはじめとした増援の相手をしている。
にしても、人が多いわねぇ。
これ、隊長達がいても厳しいかしら。
エマがいれば武器は尽きないし、体力次第ね。
「私は」
考えているのか、桜月ちゃんは一言だけ呟く。
そんな間にも敵の呻き声に混じり、探偵社の声が聞こえる。
与謝野さんが異能を使っている様子もなければ、コナンさんが焦っている様子もない。
どうやら重傷を負っている人はいないようね。
「…ボスはきっと、完全に彼らから解放されることなんて、一生ないと思うんです」
「…ええ、そうね」
「それを引きずって、ぐだぐだとしてしまうくらいなら__ポートマフィアとして、これからも生き続けるべきだと、そう思います」
予想通りの答えに、《《私達》》は安心していた。
彼女は全てを救おうとする、心優しい人だから。
「…ふふ、桜月ちゃんならそう云うと思ったわ」
「半分くらいはもはや私の願いですけど…」
私達も全てを救おうとしてきた。
でも、それは無理だった。
どうやったって、私達の手が届く範囲は限られている。
戦争で沢山のモノを得て、大切なモノを失った。
『僕というヒトも、桜月ちゃんのようになれるかな』
ルイスの言葉が私にだけ届いて、桜月ちゃんが苦笑しているのを見て。
どうしたものか、と考えていると与謝野さんが一人の男性を引きずって此方側へ来た。
本当に仕事が早いわね、探偵社は。
「コイツがポートマフィアに精神錯乱の異能をかけた張本人さ、煮るも焼くも好きにしな」
「ありがとうございます、与謝野せんせ__えっ!?」
「あら、彼って…」
半泣きで情けない男を私は見覚えがある。
と云っても、ワンダーランドから鏡越しだけれど。
「…確か、こちらの世界のポートマフィアビルに入ろうとした時、中也くんが書類をばら撒いていたわよね」
「…その人です」
少し考えてから、桜月ちゃんは諜報員であろう黒服と視線を合わせる。
「黒服さーん」
そう呼ぶしかないわよね、今は。
私も見覚えがないし、ルイスにもなさそうね。
「…本名は?」
「いっ、云えない、云えないんだっ、うぅ…」
泣きすぎじゃないかしら。
まだ数十年しか生きてきてない癖に情けない。
でも、うん、与謝野さんが連れてきたということは、そういうことよね。
「…まぁ、自業自得ね」
「ですよね」
「けれど、何故あのポートマフィアが異能をかけられてしまったのか、もこれで謎が解けたわ」
「た、確かに…」
情報錯乱の異能を持っていることは良い。
|森鴎外《あの人》なら、逆に何かしらの罰で終わらせてこき使いそうだし。
「…取り敢えずポートマフィアにかけた異能を解除して」
「で、できない…」
「えっ?」
あら。
「…なるほど、異能を解除するのにもジョージは条件をかけたのね」
「なっ!?な、なんでわかったんだっ」
こういう勘って当たりやすいのよね。
「貴方が分かり易いのよ、それでよくマフィアに潜入できたわね」
「そっ、それは…幹部の異能で…」
「めっちゃ重要なこと話して大丈夫!?」
思わず突っ込んでしまった桜月ちゃん。
私はもう、言葉にもできずため息を吐いた。
「とにかく、彼らには加勢も必要ないだろうから…私達は残党や周囲の一般兵たちを潰しましょう」
「分かりました!」
いい返事ね、本当。
そして相変わらずのことではあるけれど、簡単な説明で状況を把握した英国軍の動きが恐ろしい。
目配せだけでタイミングを合わせ、テニエルの兄弟姉妹を追い込んでってる。
……たぶん。
取り敢えず諜報員は、奇獣に見張って置いてもらうらしい。
まぁ、桜月ちゃんの異能は信用してるし、実力も分かっている。
「…大丈夫だとは思うけれど、気をつけてね」
「ありがとうございます、アリスさんも…!」
微笑みを交わしてゆっくりとすれ違う。
次の瞬間には武器を片手に一歩踏み出していた。
「……人数が多いのだけれど」
『そりゃあ多いだろうね。鏡で防ぎながらなら特に問題ない数だと思うけれど』
「流石に死角にずっと出しておくわけにいかないから貴方に任せているけど──っと、危ない」
戦闘しながらの会話は舌を噛みそうになる。
それは正直どうでもいい。
けれど、集中力がどうしても欠けてしまう。
「……少し飛ばしていくわよ、ルイス」
--- side change ---
自分で言うのはアレだが、僕達の戦闘は格が違うと思う。
そもそも、普通の人には“死角”というものが存在する。
もっと詳しく話すのならば、視野に入っていなければ攻撃できないし、防御もできない。
「アリス、背後の敵を対処して。頭上は鏡で防げる」
『了解』
このように、僕はアリスと違ってワンダーランドから鏡を操れない。
ただ、誰かが付けているアクセサリーや水滴に映された影などは、僕でも扱える鏡に映る。
つまり、それを見て僕はアリスに敵の存在を伝えることで傷を全く負わない。
格が違うと云うのは、そういうことだ。
---
「此処は…」
「ぽ、ポートマフィアの、、」
「成程、君は_?」
--- 「わ、私は泉桜月。貴方は、、?」 ---
--- 「ルイス。ルイス・キャロル。_26歳だ」 ---
---
ふと、思い出したのは初めて会った時のこと。
あの時は初対面なこともあり、マフィアにいるべきじゃないか弱い少女だと思っていた。
ただ、実際はどうだった。
今は誰よりも必死に、全力で抗っている。
これが子供の成長を見守る親の気持ちだろうか。
前よりも、ずーっと強くなってる。
『ルイス! ちょっとぐらい貴方も戦いなさいよ!』
「……まだ戦闘は苦手なんだけど」
『じゃあ強制で』
「は?」
気がつけば、さっきまでアリスがいた場所。
咄嗟の判断で二本の剣を左右の手で持ち、二つの攻撃を防ぐ。
「……変わったばかりなのに巫山戯るなよ、一般兵が」
『ルイス〜キャラ崩壊が酷いわよ〜』
「僕だって怒ることあるんだからね、アリス」
今の感覚、何処か懐かしい。
戦場にいた時のを、身体が覚えているんだ。
それが良いことなのか、悪いことなのか。
僕には判らない。
けれど、今の僕が出来ることを。
『この組織を探偵社やマフィア、特務課がマークしてなかった理由が判ったのだけれど聞きたい?』
「多少は興味あるかな。この|呻き声《最悪なBGM》にも飽きた」
『そんなことだろうと思ったのよ』
はぁ、とアリスは僕に気づいていなかった敵の攻撃を鏡で防ぐ。
『彼らの目的は?』
「……イライザを生き返らせること」
『彼らの異能の特性上、フランシス……って、フィッツジェラルドの方ね? 彼のような人に知られてしまったら必ず追いかけられるわね。まぁ、簡単に云うなら全部邪魔だったのよ。“目的以外の全て”が、ね』
何となく話が読めてきた。
つまり彼らは──。
「初めから、何もかもに於いて隠密で動いていた。マークする以前に、彼らの存在自体を気付く事が出来なかったのか」
『まるで亡霊のようじゃない? それとも幽霊かしら』
「……交代するよ、アリス」
『ちょっ!? 急に変わるのやめなさいよ!?』
君が云うか、とツッコミを入れそうになってやめた。
亡霊。幽霊。
何かに囚われ続けているとも、解釈できる。
「……僕は、ロリーナに──、」
--- side change ---
「ちょっ!? 急に変わるのやめなさいよ!?」
ルイスからの返事はない。
とりあえず補助無しで動いていると、ソレは目に入った。
どうするべきか。
判断は、今すぐに下さなければならない。
壁になるのは無理だ、間に合わない。
同じ理由で、桜月ちゃんを突き飛ばすことも難しい。
「逃げてッ!!!」
たった一言。
すぐに自分自身も動けるように準備しながら絞り出せたのは、たった三文字だけ。
この言葉が桜月ちゃんに届くとは限らない。
「グッ……」
桜月ちゃんしか見ておらず、正面にいた敵の攻撃を真っ直ぐ受ける。
防御姿勢が間に合わなければ、受け身も取れなかった。
完全にやらかした。
砂埃で桜月ちゃんの様子は判らない。
それより私の傷の方がヤバいか。
こめかみから顔のラインを伝うのは確実に汗じゃない。
きっと治療を受けたほうがいい奴だ。
「待っていて、すぐ助けに行くから……!」
ふらつく身体。
でも、私より彼女が優先だ。
私が見たソレというのは異能力で加速している中也君だった。
まだ情報錯乱の異能は解除されていない。
つまり、桜月ちゃんに抱くのは“敵意”。
砂埃が晴れた。
見えたのは桜月ちゃんが宙を舞う姿。
「あはは、勝ったと思った?」
「イライザだけは、っあの子だけは絶対に取り返すのっ、邪魔なんて誰にもさせないのよ!!」
「テニエルが裏切るなんて思ってもいなかったわけじゃないわ、だから…もういい」
「教えてやるよ、ポートマフィアにかけられた異能を解くには__ルイス・キャロルが泉桜月を殺す、それが二者択一の異能のこの選択だよ!」
『……っ、ごめんアリス』
「大丈夫よ。一人で考えたかったのでしょう?」
でも、これは本当に──、
「『──マズいことになった(わね)』」
どうも、物騒な台詞たちを並べていた人です(笑)
いや、あのね、面白いかなって((
脳筋だらけですみませんね、うちの人たち。
後は…うん、そうね。
桜月ちゃんsideでは何か不思議なものが見えているようなので是非そちらもご覧ください。
次回どうなるかでタヒにそう…
お願いだからハッピーエンドになってくれ…
それじゃまた!