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英国出身の迷ヰ犬×文豪ストレイドッグス! 3rd.ep_6.
Tenniel side.
「…それで、僕だけ呼び出して何の用かな?」
「その笑顔普通に怖ぇからやめろ」
喫茶うずまきのテーブル席。
向かい合わせて目の前に座るのは、ルイス・キャロル__他でもない、俺が呼び出した。
脳裏にチラリと泉桜月の「ボスまで私を無視してルイスさんを呼び出ししてー!」という叫びが浮かんだ。
かぶりを振って打ち消すと、目の前のルイスも同じ事を考えていたようで、苦笑いを浮かべている。
「…いいか、今から云う事は誰にも云うなよ。誰か…特に泉、に漏らしたら最悪...死人が出る」
突然にそう零すと、流石に驚いたのか目を見開いてから、それから一つ溜息を吐くと、まっすぐこちらを見据えた。
「わかった。聞くよ」
「…あまり深く追及されても今は答えられない。が、お前には云っておかないとダメだと思った」
「それで、僕意外に聞かれて困ること、って?」
「…俺は一番最初のあいつらとの通話の内容で、隠していることがある」
ずっと、悩んでいたこと。
頭の中にモヤモヤを残したまま消えなかったものの正体。
「彼奴等に、”テニエル、泉桜月を殺して、もしくは気絶させて、ルイス・キャロルを生きたまま連れて戻ってきて、”と云われた」
「いや待って、流石にそんなことしないよね?」
「わかってる。でもそれが__”そしたら、「ヨコハマを手に入れる」ための計画の実行を少し遅らせることを考えてあげる”と、そう云われたら...如何する?」
苦い顔をするルイス。
思いきり顔を顰めている。
「君の兄弟、ホントいい性格してるね」
「全くだ」
「その提案に乗らずにヨコハマに何かあったら泉も…お前も、俺も、間違いなく後から自分自身を責める事になる」
「おまけに彼らは、あくまで”考える”だけであって、本当にそうしてくれるとは限らない、か」
目の前で唸り声を上げながら頭を抱える姿を見ながら、用意していた言葉を口にする。
「…今云った事は、全く知らないふりをしてほしい。それで__俺はあいつらの言う通りに指示に従ったふりをして、お前と泉を連れてアイツらの居場所に行く」
「いや、でもそれだったら桜月ちゃんにも云ったほうがいいんじゃないかな」
「…行った後、何のために|そんな状態《死または気絶》であいつを連れて行かせたのかが分からない...それに、フランシスは相手の考えていることが読み取れる」
面白い事にこれは異能ではなく自身の勉学の賜物だと、そう告げるとさらに驚いたようだった。
「…そう云えば精神分野に通じていると云っていたね、」
泉はまだこういう社会に来てから若い。
故に、考えを完全に心の奥に閉ざすことは出来ていない。
「だから桜月ちゃんには云ったらダメ、か」
「それと、ここから戻ったら会話の途中でさり気無く俺に対して糾弾してほしい。喧嘩を装って探偵社の奴らには仲間割れだと誤魔化す...俺がずっと不自然だとかそんな事でいい」
「わかった、」
「それとさっきも云った通り、これから一度裏切るような行為に及ぶ。
…ルイス、お前に証言を頼む」
「…勿論だよ、安心して」
「…ありがとな」
ほっ、とする胸中に反して、出た感謝の言葉はそっけなかった。
...今回の件が終わったら、もっとちゃんとした感謝の言葉を、伝えたい__。
そう思っていた。
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Satsuki side.
「っ社長、それで依頼額はどのくらいに」
「待って桜月ちゃん、僕も払うよ」
そう申し出てくれたルイスさんにきっぱりと断る。
なんだかこれはこれで申し訳ない気もするけれど、
「…今回の件は私達の所為で起こった事ですから。それに...前にクレープを買ってもらったので!」
「え、いや、額が全然違うと思うんだけど」
「此処は泉に払わせとけって、ルイス・キャロル。それに抑々此処、別世界だし」
その言葉に、あ、と声を零すルイスさん。
やっぱり世界が違うってあんまりその、感覚としてはそんなに変わりはしないから、お金を普通に持ってきているように感じるけれど__
実際はお財布が無い事に気付くことから始まる。
「と言う訳で私がお支払いします」
「…否、その事だが」
来賓用ソファで向かい合って話している社長と私達。
探偵社員は興味津々といった様子で社長の後ろからひょっこりと顔をのぞかせている。
「緊急案件が故、後払いで善い__ポートマフィアとは云え、...孫......信頼は置ける」
「…っ…!ありがとうおじいちゃん!おじいちゃん大好きっ」
ぎゅう、とテーブルから体を乗り出して社長に抱き着く私。
「社長ってさー、孫設定の二人に甘いよね」
と乱歩さん。
「仕方ないんじゃないかねェ。あの子が大切な存在なのは妾達も同じさ」
と与謝野先生。
「でも桜月ちゃんと社長ってあんまり似ていないような...」
と敦くん。確かにそれはそう思う。
「ふっふっふ、敦くん分かってないねぇ、社長のちょーっとほころんだ顔と桜月ちゃんの微笑み方、姉の鏡花ちゃんと同じなんだよ」
と太宰さん。決め顔で言う台詞ではない。絶対。
「えっ、そうなんですか!?」
「敦まさか気付いてなかったのか⁉」
驚いて眼鏡がズレ落ちた国木田さん。
探偵社、やっぱり平和だなぁ…
それでも、刻一刻と、迫っている時間。
あの人達が次に取る行動は大体予想がつく。
「乱歩さん、与謝野先生、社長…それと事務員さん達は、探偵社で作戦の指示役、その補助、そして乱歩さんや事務員さんの護衛を...、」
「そうだね、奴らのことだから何をするか分からない。指示役の人達も勿論、探偵社をも護らないといけないから…谷崎君あたりもここの守りに徹した方がいいと思うな……事務員の人達の為にも」
「うん、僕もそれでいいと思う」
あいすくりんを食べながら頷く乱歩さん。
思い出すのは組合とのこと。
事務員を人質にとろうとする彼ら二人の…伸びる葡萄の木と、得体の知れない人外の触手。
あの時は…谷崎さんと国木田さんのお陰で助かった。
それでも__同じ轍は踏まない。
ひぐっちゃんが言っていたように、私もそれを実行する。
「慥かにそうですね…、じゃあ外部で行動するのは太宰さん、敦くん、賢治くん、国木田さん、そして私たち依頼者三人、で...。」
「でも…僕達、だけで...今回、桜月ちゃん達の味方のポートマフィアはいないんですか、?」
敦くんの疑問も尤も。
幾ら乱歩さんに説明を受けたとはいえ、俄に信じがたいと思う。
「…私は味方だったはずのポートマフィアに追われて逃げ出して来たし、中也も首領も......私は皆がおかしいのは敵方の精神錯乱、操作系の異能だと思ってるから、多分もう味方はいないと思う」
「じゃあ余計僕達が頑張らなくちゃ」
そう意気込むルイスさん。
私の世界のヨコハマの為だけに、こんなに危険なことに協力してくれるんだ、。
分かっていた事だけど、やっぱり胸にはじわりと暖かいものが広がる。
「この唐変木が同伴して大丈夫なのか?」
「えぇ、酷いなぁ国木田君、私も武装探偵社員の身、やる時はやぐへッ」
「黙れ!!ふらふらとほっつきまわり、ご婦人を難破してまわり、川があれば入水し、俺の手帳の計画を乱し、それの何処が理想的な武装探偵社員たる姿なのだ!!」
一息で言い切った国木田さん。
すごい。
「国木田君...!私、理想的な武装探偵社員とか云ってないけど」
「ぬわぁああああああああああああ!!!!」
「まぁまぁ、太宰君も頭脳派だし、まぁ僕達と探偵社員のこの四人で大丈夫だと思うけど」
首を捻り捻りルイスさんは云う。
にわかに心配そうに目を細めていた。
「…待て、__俺は今回の件...泉とルイスが関わるのは反対だ、」
ボスに唐突にそう云われて一瞬何を云われたのか分からなかった。
え、ルイスさんの名前いつの間に呼び捨てに、っていうか突然当事者が何を云い出すのか。
私たち以外でどうやって動くというんだろう。
「ボス、流石に其れは私達が無責任になっちゃうし」
「一応理由を聞いてもいい?」
尋ねたのはルイスさん。
その顔も私と同じく理解ができないという疑問の表情、そして、若干の…怒り、?
「…未だ云えない」
少し俯き気味にそう云ったボスは、気まずそうで、何処か後ろめたそうな顔をしていた。
「…ねぇテニエル、この間とは立場が逆転したね___」
--- 「君は何を隠している?」 ---
微笑みがすべて消えた。
真剣で、冷酷にすら見える表情で、ボスの瞳を貫く。
「不自然だと思ってたんだ、君の体調や突然の睡眠...不自然にも程があるけれど、何か後ろめたい事があるならもっと綺麗に隠すと思った」
「…ルイスさん、」
名前を呼んでも、ルイスさんの瞳はボスから動かない。
当のボスと云えば、しきりに何かを考えている。
何かをずっと気にして、頭に据えている様だった。
...不自然。
たしかに、ルイスさんの言う通り、ボスはずっと、不自然だった。
「…少し、出る」
「僕も少し頭を冷やしてくるよ」
二人が相次いで外に出て行った。
「っす、すみません!失礼します」
「桜月ちゃん、待つンだ__!」
「あの二人はすぐ戻ってくると思うけれどねェ」
「この状況で出歩くのは危険ですわ…!」
困惑し、私を引き留めようとする探偵社の人達に一度ぺこりと頭を下げてから、二人の後を追って建物の外へと走った。
それは突然のことだった。
二人を見失って、近くの通りを見て回ろうと思って、路地裏を覗き込む。
その瞬間、すとん、と軽く、そして重い衝撃が首に走って___視界がブラックアウトした。