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【第玖話】犬と猿の刃傷沙汰
〜火影 side〜
火影「…………」
さっきまで目の前にいた敵は、霧に紛れて姿を消した。
あたりを見渡せど、見えるのは木々の薄い影だけ。
私は手に握られた儀式刀の白焔と、神楽鈴の幽月魄を握る。
そしてゆっくりと目を閉じ、聞こえる音全てに意識を集中させる。
__ザワザワ……__
__サァァ……__
聞こえるのは木の擦れる音、植物がなびく音、そして……
*__ガサッ__*
草の上を歩く音。
**焔颶「おらよっ!!」**
火影「!!」
***ガキィン!!***
咄嗟に白焔を振ると、そこには巨大な虎の爪が姿を見せていた。
完全には受けきれなかったのか、私の頬が切れる音がした。
*ドサッ!*
あまりの力の強さにバランスを崩し、私は地面に倒れる。
私の上に仰向けにのし掛かった人物…焔颶は、私の顔を見てニヤリと笑う。
焔颶「おうおう、さっきまでの威勢はどこ行ってもうたんや!?」
火影「…っ!!」
**ドカッ!!**
私は右足で焔颶を空中へ蹴り飛ばす。
焔颶は体を捻り地面へと着地する。
しかし、焔颶が目を向けた先に、私はもういなかった。
焔颶「あ?消えた…?どこ行っ
__シャン!__
*火影「`陰陽神刀舞`。」*
焔颶「!!」
こちらを振り返る焔颶に、影のような黒狐が突進する。
*** ズバッ!!***
黒狐の一匹が焔颶の腕に掠り、焔颶の手から血が噴き出る。
そして他の黒狐も後に続いて飛び掛かる。
……しかし焔颶は全く焦る様子を見せない。
焔颶「へぇ、相手の体力と魔力を奪い取る黒狐…おもろい技やんか。」
「………でも、わいにはこんな小細工効かんで?」
焔颶は腕を大きく下げると、思い切り黒狐に振りかぶった。
***ザシュッッ!!!***
その瞬間、地面が巨大な爪に引っ掻かれたように抉れ、黒狐たちは消え去る。
焔颶「……いったぁー…」
__ブンブンッ__
焔颶は手についた切り傷を一瞥し、痛みを振り払うように手を振る。
私も頬から流れ落ちる血を手で拭う。
焔颶「今の技は結構おもろかったで!もっと他の技ないん?」
火影「……………」
焔颶「…あんたほんまに喋らんなぁ。表情も変わらんし、おもんないわー。」
火影「戦いに面白みや快楽を求める意味がわからないからな。」
焔颶「はぁ!?あんたわかってないわー!!」
焔颶は『あちゃー』とでも言いたげに自らの頭を軽く叩く。
そして、その黄金色の毛で覆われた手の隙間からこちらを睨みつける。
その目は金にギラギラと光り、どこか威圧感があった。
*焔颶「あんたみたいな澄まし顔してる奴の歪んだ面…それが一番唆られるんやで?」*
火影「………お前とは到底、分かり合えそうにないな。」
焔颶「それは同感や。わいもあんたと分かり合える気ぃせぇへん。」
そういって嘲笑する焔颶を見て、私はわずかに眉をひそめる。
*ズキッ*
火影「…っっ!?」
焔颶「ああ、あんたさっきから動き回ってたからな。そら足も悪化するわ。」
「そんな状態でほんまにわいに勝てるんか?えぇ?」
__火影「………ちっ…」__
戦闘前から痛めていた捻挫が余計に悪化していることには気づいていた。
しかし、そんなことは気にしていられなかったのだ。
火影「お前に構うほどの暇はない。退け。」
焔颶「その強気な姿勢は認めたるわ。ただ、それもいつまで持つんやろうな?」
火影「……?」
焔颶「あんたさっき、わいの蛇に噛まれたやろ?ほれ、毒で腕が痙攣起こしとる。」
火影「!!?」
悪寒が背筋を走り、私は素早く左腕を見る。
そこには、小さい二つの傷口があり、血が滴っていた。
傷口の周りは紫色に腫れ、左腕全体が小さく痙攣を起こしていた。
火影(………さっきからの眩暈や気怠さはこいつのせいか……)
その時、焔颶が不思議そうにこちらを見る。
焔颶「ん?気づいてなかったん?こいつの牙結構鋭いんやけどな……」
__火影「…………っ……」__
私は左腕を隠すように体を横にずらす。
その様子を見た焔颶は、数秒真顔になった後、不敵な笑みを浮かべた。
***焔颶「あんたまさか左腕の感覚ないんか!?そら気づかんわ!!」***
焔颶は森中に響き渡るほどの大声で笑い始めた。
元々の耳の良さと毒のせいで、ひどい耳鳴りが頭に響く。
__ピクッ__
火影(……………声……)
焔颶の笑い声の奥に、別の声が聞こえた。
私は焔颶にバレないよう、目線だけを声の方に向ける。
火影「!」
………高くそびえる木の上に、見慣れた影があった。
その影は私に向かってニヤリと笑いかける。
私はその意図と作戦を瞬時に読み取り、目配せで返事をする。
それを見た影は木の上へと飛んでいった。
__火影「………はぁ…」__
焔颶「ふぅ〜…疲れた〜……」
その時、ようやく落ち着いた焔颶が私に話しかけてきた。
焔颶「……あ?黙り込んでどうしたん?悔しいん?それとも毒回って喋れやんか?」
火影「…………毒が回って話しづらいのは確かだが、悔しくはないぞ?」
「最後にここに立っているのは、絶対に私だからな。」
焔颶「……へぇ〜、まだそんな余裕あるんか。意外やな。」
***「…わいがその余裕ぶち壊してその面に絶望植えつけたるわ。」***
*ビリビリッ……*
空気が一気に歪み、足がわずかにすくむ。
頭痛と眩暈で視界が揺れ、足の痛みはますます強まる。
しかし、私は既に勝利を確信していた。
焔颶「最期までわいを楽しませてや、野狐さん?」
火影「それはこっちの台詞だ、狸。」
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第玖話 〜完〜