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collaboration.19
諦めた者と、諦めない者。
間違えたとしても強く生きていきたいと、そう思う。
ルイスside
ルイス「クソッ、全然血が止まらない……!」
この量の出血だと、与謝野さんの治療が間に合わなくなる可能性がある。
一度、外に出すべきか。
そうしたらテニエルの状態は今のまま停止する。
否、ダメだ。
僕の身体の主導権を握っているのは、#アリス#。
テニエルを外に出したとして、|異能空間《ワンダーランド》に戻す術がない。
桜月「──ねぇ、どうして?」
ルイス「──!?」
マッドハッター「いつもなら話すことも出来なくなるのに……!」
疲労が消えていない。
だから桜月ちゃんが話せている。
心の声が漏れている状態なのか、その言葉が僕達へ向けられている様子はない。
もし、話せることに気づかれたら。
その時は彼女の異能力達と──。
桜月「何で、どうして庇うの? そんな奴の味方するなんておかしいよ。中也はそいつのせいで傷付いて、なのに、」
こうしている間にも、テニエルの体温はどんどん低くなっていく。
死がすぐそこまで迫っているのか、テニエルの瞳に光が宿っていない。
このままじゃ、本当に死んでしまう。
三月ウサギが与謝野さんを呼びに行ってるけど、距離がありすぎる。
一人になりたいからと、皆から遠く離れた此所にいるよう云った僕のミスだ。
そもそも彼のことをちゃんと桜月ちゃんに説明していれば、面倒な方法を取らないでシヴァを殺していれば、マッドハッターと三月ウサギが洗脳されないようにすれば、#アリス#の体も心も傷付かない方法を選んでいれば、あれだって、この時だってああしていれば、そうしたら──。
ルイス「もしかして僕はまた……」
--- 間違えた? ---
ルイス「……ぼ、くは」
テニエルの傷口を押さえる手が震える。
後悔は今すべきじゃない。
なのに闇に引きずり込まれるような、そんな感覚に襲われる。
ダメだ、このままじゃ、
そう判っていても、堕ちていく。
桜月「ねぇ、皆」
マッドハッター「ルイス!」
桜月「ボスを殺して。邪魔する人も、中也を傷付ける奴を守る人も──!」
獣の唸り声が聞こえた。
顔を上げると、もう目の前に奇獣達がいる。
桜月「……さよなら」
???「させねぇよ」
桜月「──!?」
奇獣が、平行に飛んだ。
目の前で揺れる外套。
僕と背丈は変わらない筈なのに、その二つの背中はとても大きく感じた。
中也「……すいません、遅くなりました」
中也「大丈夫ですか、ルイスさん」
桜月「……どうして中也達もそんなやつ庇うの? 判らないよ、ねぇ、なんで?」
中也「……彼奴のことは俺に任せろ」
中也「あぁ。ヘマすんじゃねぇぞ」
そんな会話をしたかと思えば、桜月ちゃんの世界の中也君は彼女の元へ。
マッドハッターが桜月ちゃんに異能を使うことを止めて、此方へ来た。
そして、テニエルへと異能力を発動する。
中也君達は僕がやられそうなのを見て、異能力を使って先に来てくれたのだと云う。
だから、与謝野さんと三月ウサギはもうすぐ来る。
でも、時間が遅くなってるなら心配はいらない。
ルイス「僕は誰も救えない」
中也「……ルイスさん」
ルイス「テニエルを守らなくちゃいけないのに、身体が動かなかった。桜月ちゃんに説明することも、テニエルを殺さないように立ち塞がることも出来なかった」
間違えるのが怖い。
誰かが傷付くところなんて見たくない。
やっぱり僕は、弱い。
中也「──!」
ドンッ、と鈍い音がして僕は顔を上げる。
地面に横たわる中也君。
マッドハッター「まさか死んで……?」
中也「勝手に殺すな」
中也「……その感じだとちゃんと話せてねぇのか」
中也「彼奴の異能力が厄介すぎる。全く近づけさせてくれねぇんだよ」
中也「手伝うぜ」
中也「……ルイスさんの側にいなくて良いのか」
中也「手前一人で話が通じねぇのに放っておけるかよ。それに、ルイスさんは大丈夫だ」
中也「信用してるんだな」
あぁ、と中也君は僕の方を見た。
中也「貴方は間違っていないし、弱くねぇ。俺がそれを証明してみせます」
中也side
さて、どうしたもんかな。
桜月の異能力は予想より厄介らしい。
別世界とはいえ、俺が苦労するなら多少は考えて動かないとな。
桜月「……。」
彼奴は今、何を考えてるんだろう。
もう一人の俺が傷つけられて怒っているのか、裏切られたと思い苦しんでいるのか。
どちらにしても、目を覚まさせてやらねぇとな。
今、話が通じるのはもう一人の俺しかいない。
それなら、道を作るのは俺の仕事だ。
中也「重力操作」
身体への負荷を減らすと同時に、三月ウサギから預かったナイフも構える。
そして向かってくる奇獣をぶん殴っておいた。
鏡花や|首領《ボス》のような異能生命体を創り出す異能なら、完全に破壊してもいつかは復活する。
でも復活しない場合も考えて、手加減をしなくちゃいけねぇ。
桜月「……残念」
中也「幻覚か──!」
ぶっ飛ばした筈の奇獣が消えた。
そして目の前に桜月が小刀を構えている。
流石、鏡花と姉妹なだけあるな。
この距離まで気配も、音も、殺気も、何も気づかなかった。
距離を取るか、否か。
真正面から相手して勝てる相手じゃない。
でも手数で此方が負けていることもあって、不意打ちは効かない。
中也「……正面から戦ってやるよ」
多分、もう一人の俺を傷付けるつもりはない。
だから奇獣に相手をさせて、本人が俺を殺しに来てる。
桜月「じゃあね、中也」
背後から、声が聞こえた。
目の前の桜月も幻だと気がつき、後ろを振り向く。
でも、もう遅かった。
重力で守ることも間に合わない。
桜月「──!」
中也「……っ、捕まえた」
俺は不器用に笑う。
痛ぇが、これぐらい我慢しねぇと。
桜月「いやっ、離してよっ!」
それは出来ない。
ちゃんと話を聞いて貰わねぇといけないから。
でも、流石に限界か。
桜月が暴れるから傷口が開いてきた。
結構な傷で笑えるわ。
後は頼んでもいいですかね──。
ルイスside
与謝野さんが到着して、テニエルの治療が始まった。
マッドハッターが時間を遅くしてなかったら、もう死んでいただろう。
桜月「いやっ、離してよっ!」
ふと、そんな声が聞こえた。
あれはどっちの中也君だろうか。
桜月ちゃんの腕を掴んで、無理矢理にでも話を聞いて貰おうとしている。
ルイス「……!」
蒼い瞳は、真っ直ぐ此方を見ていた。
僕に、何をしろと云うんだ。
その時、僕の背中が誰かに押される。
座っていた僕は、前に倒れた。
マッドハッター「後悔で足を止めるぐらいなら、がむしゃらでもいいから前へ進んだ方がいい。そう云ったのは君だよ、ルイス」
三月ウサギ「貴方は私を、みんなを救ってくれた。間違ってなんかない。弱くなんてないよ」
ルイス「二人とも……」
いつか、桜月ちゃんと話したことを思い出した。
僕の異能は彼女の異能を止められる。
だからテニエルは彼女の世界に僕を呼んだ。
ルイス「……少し、手伝ってほしい」
マッドハッター「もちろんだよ」
三月ウサギ「えへへっ、任せてよぉ!」
ルイス「与謝野さんはテニエルを頼みます」
二人に作戦を話して、僕は桜月ちゃんの元へ向かう。
手にはしっかりと握られている。
桜月「四季『春・蝶蝶』」
中也「っ、毒か……」
中也君は毒とかに弱い。
だからすぐ効いて、桜月ちゃんの腕を離してしまった。
奇獣を近くに呼ぼうとする桜月ちゃんへ、僕は《《それ》》を投げる。
桜月「この、腕時計は──」
少しでも気が逸らせたら、此方のものだ。
主人の強い感情が揺らいだ場合、奇獣たちの動きに影響が出る。
ほんの0.1秒しか隙が出来ないとしても、マッドハッターと三月ウサギなら充分だ。
全部範囲内に集めて、動きを止められる。
ルイス「……少し、話をしよう」
僕は中也君に肩を貸しながら、優しく笑いかけた。
二人に説明を聞いた彼方の中也君も僕の隣へ来てくれる。
桜月「話すことなんてありません。裏切り者を庇う人達の話なんて聞きたくない」
ルイス「その気持ちはよく分かるけど、聞いてほしいんだ」
桜月「分かるわけないでしょ! 私の気持ちなんて!」
ルイス「……そうだね。簡単に分かるなんて云ってごめん。でもちゃんと理解してほしいんだ。ボス……テニエルは君と本気で戦っていたかい?」
桜月「──!」
テニエルは、桜月ちゃんに勝てないと云っていた。
でも傷一つ負わせていないのはおかしい。
桜月ちゃんが不死鳥で治した可能性もあるけど、今の精神状態では攻撃しかしない筈。
中也「桜月、俺の話を聞いてくれ」
桜月「……。」
中也「俺がこの世界に来た時、確かに穴を通った。でも、その異能力はボスじゃなかったんだよ。穴を出たらボスとよく似た、違う奴がいたんだ。そして其奴はとっくに死んでいる」
桜月「死んで……?」
中也「あぁ。穴の先には帽子屋の二人と、魔人と、シヴァ。あともう一人いたな。でも其奴はこの世界のボスと一緒に殺されてんだ」
やっぱり、ね。
足取りが掴めないと思ったら、シヴァが消していたか。
てか、その場に魔人君いたなら報告してくれよ。
中也「だから、俺達の世界のボスが呼んだわけじゃない。俺や太宰だって二人いるんだ。この世界のボスがいてもおかしくないだろ?」
桜月「それじゃあ、私は……」
中也「……悪ぃ。ちゃんと説明してなかった俺に落ち度がある」
ルイス「いや、僕が確定していない状況でも伝えなかったのが悪かった。とにかく、僕達と一緒に戦ったテニエルは味方だ」
桜月ちゃんの深海みたいに暗い瞳に、光が戻った。
そしてボロボロと涙が床を濡らしていく。
桜月「わ、たし、ボスの話も聞かッ、ないで、後悔しないで、って、最後まで私の、ッことを考えてくれて、たのにっ、」
中也「……桜月」
桜月「ボスも、ルイスさんも、中也のことも、傷つけて──!」
次の瞬間。
優しく、中也君が桜月ちゃんを抱き締めていた。
僕から彼の表情は見えない。
中也「まだ誰も死んでねぇ。大丈夫だ、ちゃんと謝れば許してくれる」
桜月「そんな、わけ……」
中也「何だ? 彼氏の言うことは信用できねぇか?」
桜月ちゃんは中也君の胸で泣いた。
これで、一件落着かな。
暫くそっとしておいてあげよう。
ルイス「……ありがとね」
中也「え……?」
ルイス「君は、最後まで僕を信用してくれた」
昔から変わらないな。
でも、だから救われたんだろう。
ルイス「そういえば中也君、大丈夫?」
中也「……正直なところ、腹の傷がすげぇ痛いです」
ルイス「与謝野さんに治療してもらおうか。瀕死状態にさせられるけど、まぁこのままよりは良いでしょ?」
中也「またあの治療か……」
少し憂鬱になる中也君を見て、僕は笑った。
今回は、凄い助けてもらっちゃったな。
与謝野「ルイスさん! 大変だ!」
大声を上げる与謝野さん。
その先の言葉を聞いて、僕は足を止めずには入れなかった。
ルイス「テニエルが……」
桜月「何度治療しても瀕死のまま……?」
桜月ちゃんの異能にはそんな効果がない筈。
治療しても瀕死状態なんて、普通はあり得ない。
まさか、人外の類いが関わってきてるのか。
とりあえず中也君を任せて、テニエルのところへ急いだ。
第十九話。
W中也わかりにくい((
あの小説みたいに🕰️と🌸付けたら良かったかな。
で、問題はボスですよね。
寝たまま一話終わっちゃったよ。
しかも与謝野さんの異能が効かないだって?
誰だよ、これ考えたの←お前だよ
あのさ、中也さ、無理しすぎだって、
何でうちの中也も桜月ちゃんの為に頑張ってるんだよ!
良いんだけどね!
やっぱり好きになる人は一緒だって!?
私の方が桜月ちゃんのこと好きですし!?
……テンションがヤバいね。
おい、ルイス・キャロル。
なに桜月ちゃんからのプレゼント投げてるんだよ!
ふつーに物を大事にしろ!
親に習わなかったのか!?
……あ、いや、うん、ごめん。
そういえばルイスくんって((ネタバレやめようねby.lewis
それじゃ、また次回お会いしましょう!
間違えたとしても、強く生きていきたい。
それは、海嘯が日々思っていること。
それは、ルイス・キャロルが思ったこと。
誰もが『想い』を持っている。
『想い』の先を、どうか見守ってください。