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習作2
病院に行かなければならなくなったと翳がぼやいていた。
低体重、低血圧。そのくせ酒と薬で肝臓と胃はまあまあ荒れている。不健康のお手本のような身体を持つ翳は、お風呂に入りながら、肋の浮いた上裸を撫でさすっていた。
「俺、どこも体調悪くないのに…」
そう呟く翳は珍しくしょんぼりしていて、この前フードコートでカップルとぶつかって水をかけられた挙句、そこにいるのが邪魔なのだというような目で見られてもいつものぼんやり顔を貫いていた翳がしょんぼりしていて、おれは思わず聞いた。
「病院きらいなの?」
「好きな奴はいないだろ」
「そうだけど」
「…母さんが…すぐ病院連れてく人だったんだよ。小学生のとき、俺の体重が増えなさすぎ、急に増えすぎ、身長が伸びない、突然伸びた、指が変に曲がってる気がする、かすり傷つくったら細菌が入ってないか調べてほしい…って、心配症なんだ」
意外だった。なんというか翳を見ている限り、翳の親は放任なんだろうなという勝手な想像をしていた。逆だったらしい。
「それでそこの病院の人も、俺たちが行ったら、うわまた来たよみたいな顔して…あー、やっぱり行きたくないな。行かないことにしようかな」
「だめだよ」
翳には長生きしてほしいもん。そう言ったら、翳はびっくりした顔をして、それからきゅっと口をとがらせた。
「いやだね。長生きしてもいいことなんかないし。30くらいで死にたいな。馬鹿みたいに生きて、さっさと終わらすんだ」
「いやだってば」
おれは髪も洗いかけのまま、強引に湯船に浸かり込んだ。翳がうわ、と声を上げる。
翳の身体はあつくて、瞳は濡れていた。
浴槽から立ち昇る湯気がレースのようにおれたちを取り巻いて、その奥の白い明かりが夢のようにきらきらとかがやいた。