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#10 謎解き好きな相談人
帰りの会が始まる前に、僕は急いで帰る支度をした。課題が長引いてしまったのがいけなかった。もう少しシンプルに仕上げてもよかったはずだ。
「…?」
あれ、と僕は声を漏らした。ランドセルを入れる棚の奥に、ぐしゃっとなった封筒が入っていた。白くてシンプルな、無地のやつだ。
伸ばしてもすぐに戻ってしまう当たり、朝に入れられたのかもしれない。ぼーっとして気づかなかったのだろう。
僕は封筒を掴み取り、ランドセルと水筒とともに机についた。そしてささっと帰りの支度をして、帰りの会を済ませた。
「心葉、今日わたしが鍵返しに行こうか?」
「僕が行くから、大丈夫だ」
大橋に声をかけられ、そういった。本音は悩み室で、じっくりこの封筒の中身を読みたかったのである。
とは言うものの、現実はそんなに甘くない。封筒の封を開けたところで、「鈴原さん、今日は職員会議があるから、早めに切り上げてくれない?」と優月先生に声をかけられた。
「この封筒の中身を読みたくて」とは到底言えないので、僕はさっと帰った。
騒がしい玄関の中は、汗臭いしょっぱい匂いが充満している。自分の靴を手早く取り、かかとを踏みながら校門を出た。
まだ7月上旬だというのに、もう暑い。電話ボックスの中で涼もうとも思ったが、蒸し風呂状態になっているのは容易に想像できた。
「ただいま、」とクーラーが効いた家に帰る。母はあんまり学校のことについて聞いてこない。
さてと、と僕は封を開いた。そこには、僕でさえ戸惑う一言が記されていた。
『あなたでトランプがしたい』
差出人不明、意図不明。
僕はトランプではない。僕《《と》》とかならわかるが、僕《《で》》なのだ。
「は…?」
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翌日、僕は早めに登校した。
支度を済ませ、あとは大橋と足立を待つだけだ。僕と関わりのあるのは、大橋と足立だけなのである。当然、体育のペアなどで言ったら他にも関わっているが、プライベートでは大橋と足立のみだ。
「おはようございまーすっ」
律儀にあいさつをしてくる好印象な彼女・大橋が来るのを確認すると、僕は真っ先にかけよった。
「封筒、なにか来てないか」
「えっ?」
そう言って僕は、白い封筒をポケットから出した。すると彼女は思い出したように、ランドセルから白い封筒を取り出した。そして中身を僕に渡した。
そこには『ジョーカーが上の頭文字』と書かれている。
ジョーカー、といえばトランプにして悪魔で最強のカードだ。ババ抜きなら悪魔だし、スピードなどなら最強と化す。
「お前、早えよっ」
遅れてきたのは足立である。
「そんなことより、この封筒に見覚えはないか」
「え?ああ、これか?『悩みを解決したクラスで待ってます』の?」
「よし、足立も来てたのか」
これで、確信が得られた。『悩み』という文言が来てる当たり、僕たちのことを示唆してるのは確実。そして、答えもわかった。
支度を済ませ、悩み室に集まった。そして、デスクに3枚の紙を広げた。
「あ、みんな来てたの」
そう言って、優月先生も来た。優月先生には紙はない。
「優月先生。この紙、なんかなぞなぞみたいなんですけど、わかります?わたし、全然わかんなくて」
「これまで解決してきた奴のクラス、しらみつぶしにすりゃいいんじゃねぇの?」
「宙くん、今まで何クラス訪ねたと思う?それに、1クラス30人いるから、とんでもない数になるわ。5クラスでも、150人ほど確認しなくちゃ」
「だから、誰か特定する必要がある、と…」
「僕はわかったけどね」
そう言ってみると、案の定大橋が食いついてきた。よし、解説しようか。
「この紙は、僕のところに来たんだ」
そう言って、『あなたでトランプがしたい』を指差す。
「僕の名前。すずはらここは、はトランプにすることができる。多少の誤差は考えないこととして」
すずはらここは。濁点を考慮せず、すすはらここはとして考える。
「トランプで代表的なものといえば?」
「ババ抜き…あぁ、なるほどね」
「さすが優月先生」
もう気づいたみたいだけど、ここは僕が解説したい。
「僕の名前で、ババ抜きをする。同じ文字を消していくと…」
近くにあったボールペンで、『すすはらここは』と書き、同じ文字を消す(ように、斜線を入れる)。
「す、は、こが消える。残りは『ら』だけ」
「これがジョーカーってこと」
と、優月先生が補足してくれる。
「あ、だから次のわたしのやつが、『ジョーカーが上の頭文字』!」
「そう。いくら150人だからって、『ら』から始まる苗字は多くない。上、と言っているから、苗字の方を示唆している。ま、外国の名前だったらややこしいが、そんな話は聞いたことがない。ら、だったら後半を見ればいいだけだ」
「わかりました、あとで名簿のコピーをとっとくね」
と優月先生も手伝ってくれるようだ。
さて、一体誰なのだろうか。すごく、面白い。