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#10
--- ある日の放課後 ---
いつものように養成所の練習室でネタ合わせをしていると、簓が急に手を止めた。
「なぁ、盧笙。俺、どうしてもこれだけは言っとかんとあかんことがあるんや」
「なんや、藪から棒に」
「お前、おもろい漫才師になるって、俺が保証したるわ!」
真剣な眼差しでそう告げる簓に、盧笙は戸惑う。
「何言うてんねん、急に」
「いや、ほんまや!お前のツッコミは、冷静で的確や。俺のボケを最高に引き立ててくれる。お前は、最高の相方や!」
簓の熱い言葉に、盧笙は顔を赤くする。
「…ばか。そんなこと、今更言わんでもええやろ」
「ええんや!大事なことなんやから!」
その様子を見ていた琥珀が、ふふっと笑う。
「琥珀、聞いてくれへんか!」
「簓、急にどうしたの?」
「俺は、最強の漫才コンビ『どついたれ本舗』で、天下取るんや!」
簓の宣言に、盧笙も琥珀も目を丸くする。
「…『どついたれ本舗』?」
「ええやろ?俺と盧笙で、お笑い界をどついたるんや!」
熱く語る簓に、盧笙は照れ臭そうに、でも嬉しそうに呟く。
「…勝手に決めんなや」
「決まりや!盧笙、覚悟しとけよ!」
三人の笑い声が、練習室に響く。
養成所のレッスン、高校生活、そして互いの夢。
三人の未来は、まだ始まったばかり。
しかし、その始まりは最高に楽しいものになった
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「…『どついたれ本舗』か」
盧笙がもう一度つぶやくと、簓は得意げに胸を張る。
「ええやろ? 覚えときや、歴史に名を刻むで!」
「はぁ、勝手にしろ」
そうは言いながらも、盧笙の顔は緩んでいる。琥珀は、そんな二人のやりとりにくすくすと笑いながら、差し入れのクッキーを口に運んだ。
「なぁ簓、盧笙とコンビ組むなら、漫才のスタイルはどうするの?」
「んー、それはもちろん、俺の天下一品のボケに、盧笙のキレッキレのツッコミで、最強の漫才を見せつけたる!」
「そうやなくて、どんなテーマで、とか」
琥珀の真面目な問いかけに、盧笙は少し考え込む。
「そうやな…日常のちょっとした出来事を題材に、二人でボケてツッコんで…ってのもええし、時事ネタをぶった切るのもおもろいし…」
「色々な可能性がありそうやな」
と盧笙が呟く
「せやろ? 俺らの漫才は、無限大や!」
簓の言葉に、盧笙は静かにうなずく。
「…無限大、か」
「なんや、盧笙不安なんか?」
「不安ちゃう…ただ、ついていけるか心配なだけや」
盧笙の呟きに、簓は驚いたように目を見開く。
「アホか! 俺が、お前を置いていくわけないやろ!」
「簓…」
「俺はお前と、二人で最強になるんや。一人でも欠けたら、最強にはなれへん」
「…うん」
盧笙は、簓の言葉に胸が熱くなるのを感じた。
「ほら、盧笙。元気出せって。これ食って、漫才のネタ考えよ!」
簓が差し出したのは、琥珀が作ってくれたクッキーだった。盧笙は、遠慮がちにクッキーを受け取る。
「ありがとう」
「どういたしまして…ねえ、盧笙もっと自信を持っていいんだよ。私、盧笙のツッコミ、すごく好きだよ」
琥珀の優しい言葉に、盧笙は顔を赤くする。
「…っ、そんなん…」
「ほんまやでクールででも面白くて、簓くんの暴走を止めるストッパーになってて、最強のコンビだと思う」
琥珀の言葉に、盧笙は少しだけ微笑んだ。
「…おおきに、琥珀」
「えへへ」
三人の間に、温かい空気が流れる。
養成所のレッスン、高校生活、そして互いの夢。
三人の未来は、まだ始まったばかり。
その始まりは最高に楽しいものになるだろう。