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ざ、しょーと #4
『君とワルツを踊りたい』
前書きを除き、本文を1000文字以内で完結させる縛りシリーズです。
※少しBL要素あり
そう夢見たのはいつだったか。
柔らかくもキリッとした鋭い目、濡れガラス色の艶のある髪。
初めて心の底から好きだと言えそうな人だった。
だけど戸惑った。
あの人は男だから。
僕は女ではないから。
なぜ僕はあの人を好きになったのだろう。
動機が止まらない。
「|蒼《ソウ》くん。これ。」
あっ、あの人だ。
いつ見てもやはり、かっこいい。
「あっ、ありがとう…」
僕はそう言い、あの人からプリントを受け取った。
ドア越しのあの人は、プリントを渡した後でも、じっとこちらを見つめてきた。
いつもならすぐに帰っていくのに、今日はどうしたんだろう。
僕はあの人の目線が耐えられなくなって、そっと目を逸らしてしまった。
「ねぇ、蒼くん。今度さ、体育でフォークダンスの練習があるんだ。」
「…そうなんだ。」
あの人と初めて会話をしたかも知れない。
僕は内容そっちのけでとても嬉しくなった。
「それで…男子が1人足りなくて、きてくれないかって、先生がね。」
そうか…やっぱり、そうだよなぁ。
ただの引きこもりが、好意なんか持っちゃいけないよなぁ。
「…無理にじゃないよ!嫌じゃなければ…俺だって、サポートするからさ。」
「…ごめん。やっぱ僕、怖いよ。」
思い出すのは、あの日の言葉、目線、日々の声。
些細なことだったかも知れない。自分の首をただ絞めただけだと分かっていても、あの人が励ましてくれても…進むことのできない自分に、ひどく腹が立つ。
いっそ気持ちを吐けば、僕は楽になれるのだろうか。
「…そっか。蒼くん。ごめんね。」
あの人は振り向き、ドアの向こうへ一歩出ていってしまった。
なぜだかとても寂しくて、気づけば声が勝手にあの人を引き留めていた。
「僕さ!…やっぱり明日…いってみるよ。」
いってみたものの、体の震えがとても止まらない。
激しく震えて、奥歯がガタガタと鳴っている。
「…本当!?…よかったぁ!」
あの人はいきなりぎゅっと飛びついてきて、思わず僕は少し声を上げてしまった。
心臓が酷くなっている。思えばあそこも…
鎮まれと心で唱えても、体はいうことを聞いてくれない。
「本当、嬉しいなぁ。…もうこんな時間だ。蒼くん。また明日、学校でね!」
あの人はさっと帰っていってしまった。
…あの時の感覚が、ずっと忘れられない。
そう言えば、なんて名前だっけ。