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リバーシ
「初めまして。瞳崎 藍子です!」
黒板の前に立った少女が、軽やかな声で自己紹介をする。
今日、私のクラス5年5組は新しい仲間を迎えた。
悪魔が再び徒党を組もうとしてる可能性が出てきてから三日。
私は学校に来ていた。
もし学校にいる途中に悪魔が検知されたとしても、デュパンに周りの皆の記憶をいじってもらえばいいだけ。
記憶をいじるのはちょっと怖いけど、まぁ仕方ない。
「藍子ちゃん折り紙うまいね!」
「折る速度すげぇ…」
私は彼女の手元を見て、小さく声を出す。
どうやら、私も新メンバーの訪れにワクワクしているらしい。
「…ねぇねぇ、今何してるの?」
「シーッ!気づかれるから!」
またあの妖精は。私はため息をつき、自分の椅子に座る。
「なんか用?」
「いや、やけに元気そうだったから気になっただけ」
「気になっただけで話しかけないで!君は魔法少女以外から見えないのよ!」
「はーいはい」
そう言うと、デュパンは私のロッカーに入っていった。
学校ではあそこがデュパンの定位置だ。
休み時間。私は藍子さん、そして友人の浅沢と雑談していた。
「ねぇねぇ!あのトイレ一緒に行かない?」
「まさか…旧校舎4階の?」
「そうそれ!」
「藍子ちゃん知ってる?そこのトイレにさ、出るんだって!幽霊」
幽霊、か。
この学校にはちょっとした伝説がある。それが、旧校舎4階のトイレには幽霊が出るというものだ。
実際トイレットペーパーが誰もいない夜の内に散乱していたり、トイレの水が赤色に染まっていたりしたらしい。
…一応幽霊みたいな悪魔と戦ったことあるんだが、ひょっとしたらそういう類かもしれない。
「やめた方がいいんじゃない?ほら」
『藍子さんだって困ってる』。そう言おうとした瞬間、私は戸惑う。
「え!幽霊!?」
目の前の藍子さんは目を輝かせて浅沢の話を聞いていたからだ。
「え、えぇ…?」
「よ~し!じゃあ決まりね!」
…あーあ。とんでもないことになった。
◇◇◇
「わざわざ放課後に行く必要ないんじゃないの?」
「何言ってるの!放課後に行かないとゆっくり探索できないじゃん!」
ゆっくりする気なのかよ。私は天を仰いだ。
一応悪魔からこの街を守るっていう仕事があるんですがわたくし。
「だーいじょぶ?」
「だいじょばない…」
このトイレから抜け出すためには猫の…いや、妖精の手も借りたい気分だった。
「ん~…ぱっと見普通?」
「確かにね~!」
藍子さん…なんでそんな元気なの…。
私はずっと困惑しっぱなしだった。
「でもさ!しばらくいないと幽霊さん出てこないかもよ!」
――――余計なことを!
「確かにね。でも、どうやって幽霊が出てくるまで待つの?」
浅沢の質問に、藍子さんは軽やかに答えた。
「オセロ!しよ!」
「すごい取られてるね。櫻」
「うるさい」
待ってくれ、想像以上に強いぞ藍子さん。
「これで私の勝ちね!」
彼女は勝ち誇った顔で言った。
ただ…その直後、彼女は手に持っていたオセロの石を手放してしまった。
「え!?」
私たちの目の前で、盤上の石は全て消え去った。
――――やっぱり悪魔か!
「デュパン!記憶の後始末よろしく!」
「え、ちょ、まじ!?」
私はその場で叫ぶ。
「マジックメタモル!ブラック!」
「え、ちょ、櫻の服が変わった!?」
息を荒げる浅沢を尻目に、私は周辺を警戒する。
小さく息を吸い、感覚を最大限高める。
――――そこか!
「喰らいやがれっ!」
私は裏拳を放つ。しかし、その攻撃はいともたやすく弾かれた。
「嘘っ!?」
私は跳躍し、一度悪魔と距離を取ろうとする。
しかし…ここは屋内であることを忘れていた。
「痛っ!」
頭を派手にぶつける。
「光?!」
その隙を逃がさないとばかりに、悪魔の攻撃が私を襲う。
「てめぇっ!」
バリア魔法をすんでのところで発動する。
しかし、このまま体力を浪費するわけにいかない。
「逃げるよ!」
私は二人と手をつなぎ、窓から脱出しようとする。
だが、それを赦すほど悪魔もお人よしではない。
「キャー!」
悲鳴が部屋中にこだまする。
また光線攻撃か!
私は体を捻り、攻撃を躱す。
だが――――私は私以外の人間の存在を忘れていた。
「藍子さん!」
彼女の体に光線が直撃しかける。
その時だった。
「え?」
光線が、彼女の体にあたって消えた。
「っ…ダーケスト・プラネット・ジエンド!」
その隙を狙い、私は悪魔を攻撃する。
「ぐるわぁぁぁ!」
どうやら、その攻撃は当たったらしい。
悪魔は小さな断末魔を上げ、煙となって消えた。。
◇◇◇
「結局幽霊なんていなかったわね」
「まぁいいじゃん!オセロ楽しかったし!」
私たちは家に帰る。
ちょっと浅沢には申し訳ないけど、さっきの記憶は消させてもらった。
ただ…やっぱり違和感がする。
なんで藍子さんには光線は光線を無効化したんだ?
そして――――なんで今回は『例のカード』が見つからなかったんだ?
とにかく、家に帰ったら紙にまとめてみよう。
そうすれば何かわかるかもしれない。
◇◇◇
「デュパン!記憶の後始末よろしく!」
さすがにいきなりそう言われた時は焦ったが、まぁ今回も悪魔を無事に倒せたみたいでよかった。
…実は、櫻は見逃していたけど、僕は見つけたんだ。『例のカード』。
ただ、それを櫻に言おうとする前に――――『藍子』という名前の人に回収された。
しかも、カードは彼女が触れても消えなかった。
わけがわからない。
ひょっとしたらあのカードは魔法少女が触れることで消えるのかもしれない。
ただ、たとえそうだとしても、僕には彼女が普通の人間だと思えなかった。
――――カードを見つけた瞬間のその表情は、櫻の前とは打って変わって、まったくの無感情だったからだ。
人事ファイル No.8
瞳崎 藍子
好きなもの: いちご
嫌いなもの: 勉強
正体不明。