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#5
図書室の隅、放課後
「九郎くーん! 見て見て、これ!」
はじめが古い図鑑を抱えて、棚の影にいた九郎に駆け寄った。
でも、床に置いてあった脚立に思いっきりつまずいてしまう。
「わわわっ!?」
「っ、危ねぇな……!」
とっさに九郎がはじめの体を支えようとしたけど、二人の勢いがつきすぎて、
そのまま床に倒れ込んでしまった。
ドサッ、と鈍い音。
気づけば、九郎がはじめを押し倒すような形になっていた。
「……いたたた……。あ、ごめん九郎くん、大丈夫?」
「……お前、本当にバカだろ。少しは落ち着けよ」
九郎の声が、いつもより低い。
はじめが顔を上げると、すぐ目の前に九郎の整った顔があった。
床に手をついて自分を閉じ込める、いわゆる「床ドン」状態。
「え……あ、あの……九郎くん?」
はじめの心臓が、耳元で鳴っているみたいにうるさい。
九郎は避けるどころか、じりじりと顔を近づけてくる。その瞳には、
いつものクールさの中に、少しだけ意地悪な光が混じっていた。
「……逃げられないな、これ」
「えっ、あ、えっと……」
「お前、さっきから顔真っ赤。……自覚あんの? 今、俺に何されても文句言えない状況だってこと」
九郎の指先が、はじめの耳元の髪をすっと撫でる。
はじめはあまりの近さに、息をするのも忘れて固まってしまった。九郎の吐息が頬にかかる。
「九郎くん、あの……っ」
「……黙れ。……お前が可愛すぎるのが悪いんだろ」
九郎はフイッと顔を背けたけど、その耳は真っ赤。
床についた手には、ギュッと力がこもっていた。
「……一生、俺のそばでドジしてろ。他の奴の前で転んだら、タダじゃおかないからな」
独占欲全開の低い声。
はじめは恥ずかしすぎて顔を覆ったけど、指の隙間から見える九郎の横顔が、世界で一番かっこよく見えた。