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心血解放の爪痕③
風野芽衣明
ヘイルの視線に耐えきれず あっっっさりと自白したチェイン。想定通りすぎて ヘイルの顔に怒りマークが大量に浮かび、握り拳はプルプルと震えている。漏れる怒りを感じとったウルグは 事務所・事務所の入っているビル全体に【|静寂《サイレント》】をかけ、ヘイルの怒鳴り声が響かないようにするとミラを召喚 |拓花《ひろか》の耳と目を塞がせる。
ヘイル:「なるほど、だから 香りを操れるようになったってことか。香りと聞いてぱっと思いつくのは花だしな。しかも媚薬まで使っていたとは」
気がつくとチェインの身体は宙に浮き 落ちてきたところをヘイルが蹴り飛ばす。蹴りは脇腹目掛けて放たれ、ガンッ!という音を立てバリアに打ち付けられる。チェインが瞬きした瞬間、目の前に瞬間移動してきた完全獣化態ヘイルがアッパーパンチを食らわせ 宙に打ち上げたのだった。あまりの痛みに身体を丸くして|蹲《うずくま》っていると 胸ぐらをつかみ無理やり立たせ 痛めつけたのだった。
ヘイル:「・・・誰かを自分だけのものにしたいという気持ち、分からなくはない。俺達はメイアを誘拐し 洗脳・キメラへ改造し 非道な実験中に殺してしまった。その後 メイアの遺伝子を使いクローン人間を作り 同じようにキメラを造りだした。正直 メイアのような最高な《《素材》》は数千年に一人いるかいないかという程だったからな、クローン人間を作ってでも欲しかった逸材だった。
完成してからの一時期……俺も 《《メイア》》をおもちゃにしていた。都合が悪いと《《俺だけで判断》》して記憶を消したり 封印したり 正体がクローンだってこともずっと隠し続けていた。何も言わずに行動した結果 《《メイア》》を完全獣化させちまうまでに追い詰め、|精神《こころ》 を壊してしまったことだってあった。|蒼樹《そうき》に殴られ|諌《いさ》められることでようやく! 俺は自分のやったことの大きさ・重大さを理解出来た。まさかクローンであるという事実まですぐ受け入れられるとは思っていなかったが……。
凍矢が怪人となったこと……トドメは|燐《りん》の|心血解放《洗脳》かもしれない。 軽く叱らないと……と思ったが、事の顛末を聞いてしまった以上、もっと最低なヤツをシメなきゃならねぇ。
テメェだよ!!! チェイン!!! アロマオイルに媚薬を混ぜたァ? マッサージで催眠状態にして洗脳したァ? いちごのアロマもベースは同じだから反応してしまったかも?
凍矢をあんな姿に変えたのはテメェなんだよ!!! こんな言い方……口が裂けてもやりたくなかったが、|氷華《ひょうか》や燐の洗脳が挟まって 燐にメロメロになっただけ《《まだ良かった》》。もし そうでなければ 忠誠心はテメェに向く、そうなれば 何をさせるかなんて想像もしたくない!!! 何が【かも】だ、他人事のように言ってんじゃねぇよ!!! どういう思考回路をしてたら そうやって私利私欲に身を任せ 他人を洗脳できんだ!!!
凍矢はッッッ!!! テメェの《《家族》》じゃねぇのかよ!!! いや、テメェにとって大事なのは《《燐という肉体だけ》》、元々燐の全てを乗っ取るのが目的・燐の|精神《こころ》だって壊す気だったもんな。なら凍矢が…… 拓花が…… 燐の|精神《こころ》だってどうなろうと知ったことではない、だからこんな非道なことができるんだよなぁ!!!!!(超超激怒で 力いっぱい殴る)」
ウルグ:「ヘイル……(脇目も振らず こんなに怒るなんて……)」
燐:「ごめんなさい、ごめんなさいっっっ!!!」
ヘイルの怒鳴り声に 燐も両手で顔を覆い本格的に泣きだしてしまった。
ヘイル:「あっ え、えっと……。燐を怒った訳じゃないんだ!! 俺が怒っているのはチェインだけ!! そ、それに! も、もう怒ってないからさ(燐の泣き声に超狼狽え チェインを投げ捨てると オロオロしている)」
凍矢:「ご主人様を泣かせやがって……。今すぐ殺してやるよ(青筋を立て 怒りながら腕の花をむしり取ると ツインダガーに変化、ヘイル達のバリアを破壊+後ろをとり ヘイルの首元にあてがっている)」
ヘイル:「う、嘘だろ? あれだけ魔力をつぎ込んだバリアを壊せんのかよ……」
燐:「ひぐっ、ひぐっ、ぐすっ」
凍矢:「りんさまぁ……。 りんさまが泣くことないよ、こうして りんさまに洗脳してもらえて生まれ変わることが出来て とっっっても幸せだからさ♡♡♡ りんさまぁ 泣かないで……。ほらっ りんさまが大好きな|金木犀《きんもくせい》の香りで泣き止んでよぉ……(手のひらから金木犀の花を溢れんばかりに出現させる)。
(ツーーっと涙が流れる)えっ…… なんで俺も泣いているんだ? この熱い雫は? 俺は・・・ おれは何で・・・?? (ズキッ)ぐっ!!! な 何だ、この【記憶】は!! 笑顔を浮かべている燐様と 隣で笑っているのは【俺】……なのか? 頭や腕に花が咲いていない……? 同じ顔をしている 《《あいつ》》は一体誰なんだよ!!? なぜ《《あいつ》》といる燐様は あんなに自然な笑顔をしているんだ!!! おれは 俺は一体 【誰】なんだ? 思い出せないッ!!! 俺は 俺はァァァ!!!」
燐の泣き声にツインダガーを速攻納め そばに駆け寄り 燐をぎゅっと抱きしめると頭を撫でながら 優しくなだめている。【燐の悲しみと恐怖の感情より生まれた】凍矢は 大きすぎる悲しみの感情がシンクロしたことで 目からキラキラした雫が流れ落ち、突然フラッシュバックした【謎の記憶】に混乱している。
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ヘイル:「と、とにかく!! やることとしては凍矢の残滓を消し去って本来の凍矢に戻す、そしてウルグ 拓花にも|颯《そう》による洗脳・氷華の|氷転身《ターン・アイス》による残滓が見えたし 燐も この際だから治療する。時間こそかかるが《《俺が全員助ける》》。都合上 先にウルグを治療させてもらってもいいか?」
燐:「う、うん」
一旦涙を拭うも とても暗い顔で俯いている燐に対し、ヘイルも出来るだけ目線を低くし あまり身体に触れないようにして話しかけている。
凍矢は片膝を立てるようにして壁際に座り込み 今も【謎の記憶】と 【悲しみの感情】に苦しんでいた。
ヘイル:「凍矢が|完全回復する《元に戻る》まで辛い思いをさせてしまいすまない。出来るだけ早く助ける」
凍矢:「ご主人様は どうして命令してくれないんだ? この【記憶】は一体なんなんだ! 燐様が 笑顔を向けている《《あいつ》》は 何者なんだ!? 思い出せない…… しもべとして生まれ変わることができて幸せなはずなのに 凄く胸が苦しい……。 そして目から流れ落ちる涙…… どうして どうして俺は泣いている?」
ヘイル:「おい!! 凍矢ァ!! 聞いてんのか!!?」
凍矢:「(ヘイルを睨みつける)黙れバケモノが。テメェの治療なんか受ける気はない。俺は 燐様の忠実なるしもべとして生まれ変わったんだ、怪しい治療なんか誰が受けるかよ!! そこまでしてさせたいのであれば…… 今ここで|殺《や》り合うか? それともテメェから|快楽漬けに《堕と》してやろうか?」
ヘイル:「 (ボソッと小声で)くっ!!! 早く助けないと……燐も凍矢も|崩壊す《こわれ》るのは時間の問題か」
|悠那《ゆな》:「(小声で)……そうね」
ヘイル:「(睨みつけながら)仲間ヅラしてんじゃねえよ、チェイン。その口を閉じてろ」
燐:「私の、私のせいで…… ひぐっ」
先程のヘイルの激昂を思い出し、トドメというワードがグサッと突き刺さり また泣き出してしまう。燐の前に跪くと話しかけている。
凍矢:「燐様、 俺は永遠に 燐様のとりこだ。なにも怖がらなくていいよ、燐様が怖いものは 全てぶっ壊す。さぁ燐様、現実なんか忘れて永遠に続く幸せな夢を楽しんでくれ」
燐の目の前に腕を伸ばすと1番近い花からブシュッ!っと睡眠作用のある香りが吹き出し 燐は意識を失ってしまう、眠った燐を抱きかかえると4人を睨みつけ 寝室へ入っていった。
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ヘイル:「凍矢の能力は|消《イレイズ》……なのに、なんであんなに多彩な能力を持ってんだよ!!!」
悠那:「|消《イレイズ》に |鎖《チェイン》、|氷結《アイシクル》、それに|芳香《フレグランス》や|植物操作《プラント》かしらね。さっき貴方が言ってたでしょ? 短期間での多重洗脳による残滓が怪人に変えたって。
トランサーとしても純粋に強化されてるし 心血解放と言っても差し支えないわね」
ヘイル:「(無言で殴り飛ばす)口を開くな つったろうが。元はといえばテメェの洗脳のせいだろうが!!! 仲間ヅラしてんじゃねぇよ!!!」
拓花:「りんと とうやが〜〜~!! うわぁぁぁぁん!」
悠那:「拓花……」
ヘイル:「声を荒げちまってすまない……」
ウルグ:「ヘイル。あの凍矢、今までに見たどの敵よりもやばい。凍矢も言ってたけど 素直に治療を受けるとは思えない、向こうが考えを変えるか ヘイルが無理矢理にでも治療するしかないのかな……」
ヘイル:「燐…… 凍矢……」
この場にいても埒が明かないと判断し、4人は拠点へ移動したのだった。
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凍矢:「燐様は 俺が永遠に護るからね。燐様が怖いものは 全部 俺がぶっ壊すから。何も心配しないで。
燐様は 誰にも渡さない、俺達は永遠に一緒だから……ね。り・ん・さ・ま♡♡♡」
暗い室内 ベッドに入って眠り続ける燐の身体を愛おしいと言わんばかりに撫でている、金色の瞳を怪しく輝かせ 蕩けた視線を向けて……。
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--- ヘイルside ---
拓花と悠那を部屋に案内し終わると、ヘイルは自分達が使っている部屋の隅で体操座りになり ズーーーーーーンっと沈んでいた。今までに見た事のないテンションの低さであり 落ち込んでいるのは火を見るより明らかだった。
ヘイル:「ハァ〜~〜~〜~〜~(超絶重い溜息)」
ウルグ:「へ、ヘイル? もう15分くらいその姿勢だけど大丈夫?」
ヘイル:「《《メイア》》ぁ……。うわぁぁぁぁぁ!! 俺 かんっっっぜんに燐に嫌われちまったァァァァァァ!!!」
ウルグ:「(またメイア呼びに戻ってるよ……)へ、ヘイル!!? 急にどうしたの!?」
突然大泣きしたかと思うと 急に立ち上がり頭を抱え叫び出す、そのまま流れるようにorzの姿勢になる。泣くことが少ないヘイルが大泣きするものだからウルグもギョっとしている。
ヘイル:「凍矢の事で心が弱っている燐に聞こえるくらいの声で怒鳴り散らしまった。燐の目の前でやっちゃいけなかった・配慮しなきゃいけなかったのに、完全に飛んじまってた……。怒りに支配され 完全獣化までしちまってた……。 これからどういう顔をして燐に接したらいいんだ……。 ぜっっっったいに怖がられる、ぜっっっったいに怯えられる!!」
ウルグ:「まぁ今は凍矢の事で辛い状態だけど 燐ならちゃんと分かってくれるって!
……本当にヘイルは人間だよね」
ヘイル:「へっ?」
ウルグ:「燐がどういう状態か分かってる上で 悪いことをしてしまったって 怒りの感情が原因だって反省できてるわけでしょ? 私が見てもヘイルは人間だよ」
ヘイル:「メイア…… メイヤァ~~~~~~~!!!」
目からダバーーーっと滝のように泣くとウルグに抱きつこうとする。しかし 不完全獣化により強化したキメラの手でムギュっと顔を押さえつけ 顔をぷいっと背け それ以上進まないようにしてる。
ヘイル:「|メ《むぇ》、|メイア《むぇいあ》?」
ウルグ:「・・・・・・ごめん、今のヘイル ちょっとキモイ。 あ゛ーーーもう!!! ごめんってば!!! またそうやって落ち込まないでよ!!! 情緒不安定すぎるでしょ、この最強人工知能!!」
ヘイル:「はい…… 俺は 情緒不安定すぎる最強人工知能です……」
ハァ〜〜~と溜息をつくと脇に腕を入れ 無理やり立ち上がらせ トンっと手刀を入れ気絶させると 魔法で布団を半分剥がし【|腕力強化《フレイム・アームズ》】でベッドの上にポイッと放り投げ 布団を被せる。
ウルグ:「完全融合して数日後、まともに話した時に28歳だって言ってたよな…… 。あんなに情緒不安定になるのって初めて見たかも。初めて完全獣化した日とか燐の血に当てられちゃった日より酷くなってたような……、それだけショックが大きかったってことだよね」
書き置きをしていくと、ウルグは1人 事務所へ向かう、それも【赤の扉】ではなく空から……。