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勝ちたい君を見ていたい僕 1
この物語は、何が何でも一番になりたい"受け"と、何が何でも負けるわけにはいかない"攻め"の、ラブコメディである....
「今年も同じクラスだな、朔」
「ああ、そうだな向真」
「今年こそ!」「今年だって!」
『俺が一番だ!!』
「見て!聖宝学園の王子|《プリンス》朔会長よ!」
「隣には、学園の騎士|《ナイト》向真副会長もいるわ!」
⋯ああ、女子の黄色い歓声がうるさい。熱をあげるのは朔だけでいいだろう。
俺、水瀬向真|《みなせ こうま》の幼馴染で、ライバルでもある結城朔|《ゆうき さく》は、誰にでも優しいのが売りだ。だが、その優しさが仇となり、こんなに多くのファンがついてしまった。おかげで俺にも飛び火である。当の本人は、
「アイドルでもなんでもない、ただの一般人の俺を好きになってくれたんだし、感謝しないとね」
などとほざいているが、こちらとしては迷惑甚だしい。
「早く行くぞ、朔」
「あ、うん」
いつまでも女子たちにかまっているわけにはいかないので、笑顔で手を振っている朔を引きずり、教室へと連れて行く。
「なんであんなに塩対応なんだよ、向真」
なんでって、
「俺が女子に興味ないの、知ってるだろ!?」
逆に、女子の何がいいんだよ、キラキラしたオーラ放って近づいてくる姿なんて恐怖の対象でしかないだろうに。
簡単に言うならば、向真は女子恐怖症だった。
「可愛いのになぁ、みんな」
「正直、キモくて見てられない」
「〜そこまで言わなくてもいいだろっ!」
こんな喧嘩は日常茶飯事だ。話し疲れたため向真は歩みを進めた。朔の、もしかして、女の子達のこと可愛いって言ったから妬いてるの?向真かわい〜♡という言葉は無視した。
【なんでこうなるの】
「今日は、新学期になったばかりだが、身体測定を行おうと思う」
ホームルームが始まり、開口一番に先生が言った。
(身体測定ってことは...。朔に勝てるチャンス!?)
「向真!五十メートル走で勝負だ!」
「望むところだぜ、朔!」
今年こそは絶対に勝ってやる!と、向真は意気込んでいたのだが...
『キャー!!!!』「学校の王子と騎士が直接対決ですってよ!」「これは大スクープですわ!」
こ、これだから女子どもは。二人の真剣勝負なんだから邪魔すんなよ!って言いたい。なのに....
「みんな!俺と向真の真剣勝負、ちゃんと見ててっ!」
キランッ!じゃねーよ。なにウインクまで決めてんだ!
「朔!なにちゃっかりファンサしてんだよ!」
「え、だめだった?」
「だめとか良いとかいう問題じゃないだろ!」
なーに自らファンを増やしてんだ。あんなもん、誰が増やしたいと思うんだよ。
「ほら、向真もファンサして」
なっ、何考えてんだあのアホ!…最悪なパスが来た。
期待に満ちた、女子たちの視線が刺さる。後で覚えてるよ...とを恨めしく思いながらも、向真は仕方なく、
「俺はファンサなんて一生しないから。あと、この勝負、絶対に俺が勝つから」
と、一言だけ告げた。これだけ塩対応なら、ファンサにはならないだろうと思っていたが、
「ああ、塩対応が尊い...」「向真様、ツンデレが過ぎますよ♥」などと、一線を超えた熱心なファンたちが、地面にひれ伏していた。最後に至っては、向真様、これ強気攻めですね....。ツンがたまらないです♥とほざくやつもいて、寒気がした。
「なんでこうなるんだよっ!」
【今年こそ】
---説明しようっ!幼馴染である結城朔と水瀬向真は、幼い頃から勝負事を行ってきた。テストの点数や、足の速さなどはもちろん、時には、どっちがたくさんトンボを捕まえられるかなど、くだらないことも競ってきた。そんな二人がっ!
「五十メートル走で競わないわけがないですよね?」
「誰に向かって言ってんの」
BL見守り委員長と、副委員長が話している。いつもなら噛みつくところだが、今はそんな暇はない。
(今日こそはあいつに勝ってやる。もう、去年までの俺じゃないぜ、朔)
(今日もあいつに勝たないとなぁ。向真のあの悔しそうな顔、たまらないんだよねぇ〜)
思惑は違う二人だったが、共に負けられない戦いだった。
(風の音がよく間こえる。今日は晴れていて、コンディションもいい。)
二人は、共にスタート位置についた。
その場の空気が静かになった。当人たちだけではなく、周りにいるクラスメイト達も、じっと二人を見ている。
「位置について、」
ふと隣を見る。朔も緊張しているようだった。
「よーい...」
向真は、遠くにあるゴールに集中する。
「どんっ」
来たっ!!
向真と朔は、一斉に飛び出す。
『俺が先だ』
「……これってさ、何で測るの?」
碓氷楓|《うすい かえで》は聞いた。
「これか?」
クラスメイトである、速見理玖|《はやみ りく》は言った。
「なんか、最新型の機械導入したらしいぞ。去年はストップウォッチだったけど、あの二人が揉めたから、新しく買ったらしい」
「…揉めた?」
「あぁ...ストップウォッチだと正確に測れないから、決着がつかないって」
「そういうことね」
最新型の機械が導入されたのも、あの二人が理由なら納得がいく。
(どっちが勝つかな。まあ多分...)
『キャー!!』
決着がついたようだ。
(あと、すこしっ...)
朔も、ほぼ同じ位置にいる。向真が前にでて、朔が抜かす。それの繰り返し。だが、あと十メートルくらいだ。
(このままなら、いけるっ!)
と思った矢先、朔が、向真との差を増やす。
(あいつ、まだ余力残してやがった)
「ずるいだろっ!」
「何が、俺の作戦勝ちだね」
(クッソ)
『キャー!!』
ゴールテープをきった。
『結果はっ!?』
(こんなときでも声が揃うのかよ)
「結城、6秒03、水瀬向真、6秒04」
『キャー!!』
「今年も朔くんの勝ちよ!」「6秒っ!?はやっ!」「てか、0,01秒差って、どうやったらできるんだよ、ほぼ変わんねえじゃん」
(…でも、負けは負けだ)
「今年も俺の勝ちだったな!向真」
悔しい。また負けた。身長も一センチ差であいつの方が高いし、いつも少しの差で負ける。努力してるのに、あいつも同じくらい努力している。だから一生追いつくことがない。
「次は負けないっ!」
【顔】
「次は負けないっ!」
(…あのときの顔、かわいかったなぁ~)
朔は、教室に戻り、思い出していた。
(あの顔が見たいから、いつも競ってるなんて、口が裂けても言えない..)
幼馴染は気づいてるのだろうか。朔が向真に惚れていることを。
「女の子たちも可愛いけどね。でも、チヤホヤされるのが嬉しいのと、ファンサしたときの反応が好きなだけで、本命は...」
「なにニヤニヤしてんだ、朔。見てて気持ち悪い」
「うわっ!ってなんだ、向真か」
「なんだとはなんだよ」
「いや、なんでもない。それにしても...」
(最近、どことなく楽しそうなのはなんでだ?)
俺と向真は、幼稚園からの付き合いだ。普段、向真はあまり表情が変わらないが、俺にはわかる。
(カマかけてみるか?)
「向真」
「なに?」
「最近、嬉しそうにスマホいじってるのはなんでだ?」
「えっ...」
(…さすがに口が堅いな)
目の前にいる幼馴染は、秘密主義だ。もう一押しといこう。
「ほら、生徒会室でもよく、スマホ見てるだろ?」
「いや...えっと」
(まさかとは思うが、向真、お前..)
「す、好きな人ができたとかっ?」
「…えっ?」
「えっ?」
(まじか、え、図星?)
自分で聞いておいて、朔は動揺していた。
(向真に好きな人がいるとか、聞いてない。いつの間にそんな奴を。俺は知ってるのか?)
「そ、そんなのいるわけないだろっ!」
「だ、だよな!?」
(でも...)
向真の表情は、普段と変わってないように見えて、首筋がほんのり赤く染まっていた。
(エロ...。じゃなくて、)
好きな人発覚!?事件は迷宮入りとなった。
(これ、どっちだ?)
朔は、じゃあ行かなきゃ!と言って席に座った幼馴染を見つめていた。
【向真の好きな人!?】
好きな人発覚!?事件が起きてから、朔はずっと上の空だった。
(向真にも変な態度取っちゃったし...)
反省しなければ...と思いながら、朔は家路についた。すると、
(向真!?と、誰だあの女)
向真は女子恐怖症だ。喜んで手を振る朔とは違い、自身のファンにも冷たい。だとすると、
(向真の好きな人かっ!うむ、許せん。向真は俺のものだ。いつの間に近づきやがった)
朔は、向真の隣を歩く謎の女に、念を送り続けた。
(なんだ、この気配は)
向真は、背筋にゾクッとくる感覚を覚えた。後ろを振り向くと、こちらを見つめる朔の姿を見つけた。
(なんでいるんだよ、朔)
「どうしたの?向真くん」
「いや、なんでもない」
やっと二人きりで、笹井さんと帰れるんだ。幼馴染に邪魔されるわけにはいかない。
「あのさ、笹井さん」
「なに?」
(今日こそは言うって決めてたんだ)
「今度一緒に、どこか行かない?笹井さんが行きたいところでいいよ」
「本当に!?行ってみたいと思ってたところがあるんだよね。行こ!」
「えっ、いいの!?その、二人きりでだよ?」
「うん!」
(ま、まじか....。こんなあっさり)
「じゃあ、今度の日曜日に!」
【恋のライバル 笹井さん】
「聞いてよ楓、理玖」
『なに?朔』
「それがさ~」
朔は昨日会ったことをあらかた話した。
「そっか~、それはツイてなかったね」
寄り添ってくれる、優しい楓。
「そうか。遂にあの向真が恋か。どこに惚れたんだろうな」
客観的に見て、話を振ってくれる理玖。
(持つべきものは、友達だなぁ)
「何笑ってるのさ、朔」
「別に~」
「なんか気味悪いな」
「辛辣だなっ!」
学園の王子として崇められている朔にとって、こんな軽口を叩ける相手は、数少なかったりする。
「で、誰なんだよその人」
理玖が直球で聞いてきた。
「わかんないんだよね、それが。背は少し高いくらいで、160センチと少しだった」
「普通だね」
「髪はミディアムくらいで、ちゃんと手入れしてるのがわかった」
「女子力は高そうだな」
「それと、某人気バレーボール漫画のキーホルダーつけてた」
「じゃあ、あの人じゃない?」
理玖が指さした方を向くと、比較的おとなしめの女子がいた。
「笹井さん」
(確かに...)
身長は160センチくらいで、髪もミディアムで下ろしてる。何より笹井さんはバレーボール部だった。
「多分、あの人だと思う」
「笹井さんかあ。悪い人ではないね」
相原伊吹|《あいはら いぶき》と西森悠弥|《にしもり ゆうや》に呼ばれて、行ってしまった理玖に代わり、楓が答える。でも、
「俺の向真に接触してる時点で、悪いやつだろっ!」
「それは...。うん、ええっと...」
楓が言葉を濁す。
「じゃあ、理玖が知らない女の子と二人で歩いてたらどうすんだよっ!」
「絶対に許さない。理玖が僕以外の奴と...。地獄の果てまで突き落としてやる」
楓が間髪入れずに答えた。
「…だろ?」
今の会話でわかったと思うが、楓と理玖は付き合っている。
最初は、楓が理玖に猛アタックして、それに理玖が折れたような感じだったが、今は、完全に尻に敷かれている。
でも、なんだかんだ言って、楓の重い愛にも答えているし、楓の甘い誘惑にも釣られている。楓のテクにも絆されているし、お似合いのカップルだ。
「僕と理玖のことは置いといて、朔、どうするの?」
(どうするって言っても...)
「色々探ってみるしかないだろ」
【探ってみようよ 笹井さん】
朔は、向真の好きな人である笹井若菜|《ささい わかな》を、一日観察していた。バレないように、慎重に。
バレたら、朔のリアコファンや、向真、そして何より、若菜本人にどう思われるかわからない。
「神経使うな、これ」
若菜のことを目で追ううちに、若菜がどういう人なのか、少しづつ分かってきた。
まず、若菜は見かけによらず、面食いのようだった。イケメンが通ると、必ず視線を向けていた。例えば、天乃絃|《あまの いと》や久留世豹馬|《くるせ ひょうま》などだ。
(いや、だったら俺からの視線に気づけよ)
自分に向けられる視線には鈍感なのかもしれない。
(こんな軽い女に、向真を任せられるか)
朔は、もとからなかった若菜の好感度が、さらにダウンした。
(向真は、この女のどこを好きになったんだよ)
朔は、惚れる要素のない平凡な女だとランク付けした。
(いや、顔は良いけどね。でも、俺なら学園のアイドル、一紗ちゃんとか、一年の華、美兎ちゃんとか選ぶな。もちろん、本命は向真だけど)
それにいつ、向真と若菜が接触したのかが判明していない。向真と若菜に、クラスメイトということ以外の関わりはあるだろうか。
(そういえば、笹井さんは図書委員会の副委員長だったな)
副委員長であれば、委員会の代表として、生徒会に話に来ている可能性がある。それに、向真は本が好きで、図書室に行くことが多い。その時に会話をして、仲良くなったかもしれない。
(クソッ、盲点だった)
「今すぐ図書室に向かおう」
「失礼します」
扉を開けて図書室に入ると、窓側の席に向真と若菜がいた。
「ここの問題、どうやって解くの?」
「ここの問題?ここは....」
隣の席に座り、仲良く勉強をしている。
(もうちょっと周りを気にしろよっ!ほら、恨めしげにお前のファンが見てるぞ)
朔は、二人のもとへと歩いていった。
「…楽しそうだな」
「朔、なんでここにいるんだよ!?」「・・・結城くん?」
二人が同時に答えた。
「たまたま向真が笹井さんと勉強してるところを見つけてね」
「本当にたまたまか?」
「疑うのか?向真」
まあ、たまたまじゃないけどね。
「いや....なんでもない」
「そうか。それより、笹井さん、面と向かって話すのは初めてだよね」
朔は、若菜に話を振った。
「あ、そうだね、結城くん。よろしくね」
(俺はよろしくしたくないけどな)
「よろしくね。ところで、向真と何してたの?」「ああ、勉強教えてもらってたんだ」
(本当にそれだけか?向真の横顔に見とれてたんじゃないのか)
「そっか、邪魔してごめんね。向真の教え方、分かりやすい?」
「うん。正直先生よりも上手」
(当たり前だろ。あの向真様だぞ!向真様に教えてもらえるなんて感謝しろ!)
「ならよかった。頑張った甲斐がある」
向真が若菜に言った。
(向真、なにもこいつのために頑張る必要はないぞ)
「向真、今日は一緒に帰ろう」
「え、なんで」
(向真的には、若菜と一緒に帰りたいんだろうな)
自分で言っといて悲しくなったが、事実だろうから仕方ない。
「生徒会のことで話があるんだ」
こう言えば、向真は渋々、俺と帰ってくれるだろう。我ながらせこいと思う。だが恋愛において、妥協は禁物だ。
「生徒会のことで?わかった」
「ってことだから、向真はもらっていくね。笹井さん」
…妥協は禁物。それは、若菜の前でもだ。
【恋バナ】
向真とは図書室を後にして、廊下を歩いていた。
「朔、話ってなんだ?」
(せっかく笹井さんと二人きりだったのに、邪魔された)
「ああ、それ嘘」
「!」
(は?)
心がざわつく。こういうときは、大体良くないことが起こる前兆だ。
「嘘ってどういうことだよ、朔」
「相変わらず鈍感だね」
「はぐらかすなっ」
今の朔に何を言っても、聞かないかもしれない。
「それより向真、笹井さんとはどんな関係だ」
「っ質問に答えろ」
「向真が答えたらな」
なんなんだよ、朔。
「お、俺が好きなだけだけど...」
ああ、恥ずい。なんで幼馴染と恋バナをしなきゃいけないんだ。
「ふ~ん、やっぱりそうか」
「ああ、そうだよっ!」
なんで嘘をついたのか、早く教えろよ。
「じゃあ、覚悟しといてね」
「は?」
その後は、何を言っても答えてくれなかったし、会話がなかった。何がしたかったんだよ、朔。
【姉との会話】
「最近、朔が変なんだよね」
向真は、姉である鈴音|《すず》に向けて言った。半分はひとりごとであったが、姉は聞く気を持ってくれた。
「朔くんが?」
「うん」
「心当たりはあるの?」
正直心当たりしかなかったが、幼馴染に続いて、実の姉と恋バナをするのも気が引ける。
だが、姉の方が人生経験は多い。恥を承知で、姉に相談する。
「最近俺、好きな人ができたんだよね」
「え、あの向真が!?とうとう春が来たのねっ!」
「うるさいなっ!静かに聞いててよ、姉ちゃん」「はいはい、それで?」
にやにやしている鈴音が苛立たしかったが、話始めたのは自分だ。少しばかり我慢しよう。
「で、好きな人がいるってバレたから、好きな人が笹井さんっていうことも認めたら、」
「へー、好きな人、笹井さんって言うんだね」
「…俺と笹井さんを引き離そうとしたり、一緒に帰っても機嫌悪いし、さっき『覚悟しといてね』って言われた」
そう、本当に意味がわからない。
「ってなわけで困ってるんだよ、姉ちゃん」
「…」
姉はなにも言葉を発しない。静かに時が流れている。沈黙を打ち破ったのは、姉の、それって...という言葉だった。だがその直後、またすぐに黙ってしまった。
「お、俺、コーヒー入れてくるね」
という言葉を残し、部屋を後にする。人生の先輩である姉も、わからないことがあるようだった。
【姉の推測】
(多分朔くんは....)
向真のことが好きなのだろう。でなければ、向真と笹井さんを引き離そうとする理由がない。幼馴染としての嫉妬という線も考えられるが、朔は基本的に、優しい人種である。普通なら、向真の恋を応援するだろう。ましてや、覚悟しといて、などと...。
(いや朔くん、いつから向真のこと好きなの!?)
二人が小さい頃から一緒にいたのに、全然気が付かなかった。
(朔くん、ポーカーフェイスだなあ)
鈴音は感心してしまう。姉としては、弟の恋を応援したいが、幼馴染としては、朔の恋も応援したい。それに、朔と向真が付き合ったら、家族になれる。
(朔くんが義弟...。うん、結構あり)
…少し話が飛躍してしまったが、将来的に十分に有り得る話だ。
(どっちにも頑張ってほしいな)
最終的には、そういうことで落ち着いた。
ふと我に返ると、向真は部屋からいなくなっていた。コーヒーを入れにいったようだ。
「向真は、気づいてないんだろうな」
どこまでも鈍感な弟に呆れをみせながらも、キラキラした青春を送っているであろう姿に、微笑ましく思う。
「今しか味わえない時間を、大切にしてね」
鈴音は一人で呟いた。
【朔との距離感】
(ああ、なんとも気まずい)
朔に会いたくないがため、いつもよりも早めに家を出た。なのに、すでに家の前で待っているのはどういうことかな?朔くん。
「おはよう、向真」
(そんな、満面の笑みで見られても...)
「おはよう、向真にぃ」
後ろから、朔の妹である莉乃|《りの》も現れた。
「おはよう、朔、莉乃」
莉乃がいてくれてよかったと、向真は思った。朔は不満気であるが。
「なんでいるんだよ、莉乃」
「え、だめなの?っていうか、邪魔なの朔にぃだけど」
莉乃は、相変わらず朔の扱いが冷たい。
「兄に対して冷たくない?え、扱いひどくない?」
「朔にぃに対してはいいんだよ」
二人と登校するのは楽しい。でも、学校についたら地獄が待っているだろう。
「じゃーね、朔にぃ、向真にぃ」
「じゃあな、莉乃」
そう。一年生と二年生は教室が違うため、必然的に二人になってしまう。
「・・・」
「なんで何も話さないんだよ、向真」
(逆に話せると思うか?)
昨日の今日だぞ!?まあ、そこまで言うなら....
「…昨日の、『覚悟しといて』ってどういう意味だ?」
「それ聞いちゃうか~」
(教えてくれない朔が悪いだろ)
「早く教えろよ」
「聞いて後悔しない?」
「するわけ無いだろ」
「わかったよ、『覚悟しといて』の意味は、”俺だけ見てな?”って意味」
(…なんで、お前を見てなきゃいけないんだ?)
「なんで、朔を見てなきゃいけないんだ?」
「ってなるでしょ?」
だから言いたくなかったのに…と朔がぼやく。
「っ朔が嘘ついて、理由も教えてくれなかったからだろ!?」
「そうだね、ごめん」
やけに素直に謝ってきたな。
「ま、そんなわけだから。俺から目、離さないでくれる?」
「っ!」
あまりに真っ直ぐ見つめてきたものだから、動けなかった。朔は去り際に、向真の頭に手をおいた。
「何触ってんだよ!朔」
「別に~」
「反応がうざいっ!」
「え、何。なんか莉乃に似てきてない?」
「似てないし。朔キモい」
「いや、めっちゃ似てんじゃん」
はぐらかしてしまったが、手をおいた心理はなんだろう。これだから、朔にはいつも勝てない。
【朔の心理】
最近、悩み事が多い。まずは、向真のことが好きであろう、若菜のこと。二つ目は、その若菜のことがあってか、向真への態度がきつくなってしまうことだった。(実際は、全くきつくはないが)
(だって、しょうがないじゃん、向真が浮気するのが悪いっ!向真は、俺だけ見てればいいのに...)
向真は浮気などしていないが、そこは置いておいて。
(今度、お仕置きしてやる)
…断じて、エロい妄想などはしていない。…いや...少しはしました。
朔が頭の中で、アハハ、ウへへ、していると、被害者である向真が話しかけた。
「朔、生徒会室行くぞ」
「!?」
(いや、このタイミングで話しかけないでもらえます?)
今、良いところだったのにと朔は残念に思う。
「なんか、失礼なこと考えてない?」
「何が?」
朔は知らないフリをしたが、内心は..
(はい、滅茶苦茶してました)
…向真がエロいのが悪い。
朔は、向真に罪をなすりつけた。
「しかもそのうえ、人に責任押し付けなかった?」
「いいえ、そのようなことはございません」
(…こいつはエスパーか?)
朔はたまに、向真が、超能力でも使えるのではないかと疑うことがある。まあ、あの鈍感な様子を見るに、そんなわけはないだろうが。
(…幼馴染だからかな)
そういうことにしておいた。
二人で教室を出ると、若菜に話しかけられた。
「あっ!向真くんと結城くん」
「こんにちは、笹井さん」
朔は、営業スマイルを投げかける。生徒会長として、表面だけはちゃんとしておかねば。
「実は、話したいことがあるの」
「…俺に?」
(まさかの二股!?ま、顔がいいから仕方ないか)
いや、仕方なくはない。でも、若菜の本性を暴く、絶好の機会だ。
「わかった。図書室でいい?」
「うん!ありがとう」
「で、話っていうのは...」
「実は...」
(何を話すんだ!?もしかして、俺への宣戦布告か?受けて立とうではないか)
論点がずれてしまったが、若菜が何を話すのかわからないのは本当だ。正直、かなり緊張していた。
「・・・」
「私、結城くんが好きですっ!」
「・・・」
(…は?え、向真じゃなくて?)
「え?」
さらに若菜は、驚きの真実を告げる。
「あ、詳しく言うと、向真くんもですけど」
「え?」
(ん?どういうこと?笹井さんは俺のことが好きで、向真のことも好き。ん?これ本当に二股?)
「えっと...どういうこと?笹井さん」
「あっ、急にこんな事言われても、困りますよね」
(うん、本当に困ってる。俺の脳がキャパオーバー)
「私、結城くんと向真くんのカプ推しなんですよ」
(かぷおし?カプオシ?KAPUOSHI?)
「えっ!カプ推し!?」
「はい...」
つまり、こういうことだった。
若菜は去年から、俺達二人を推しとして崇めていたらしい。始めは、遠くから眺めていられたら十分だったそうなのだが、ある時、向真に話しかけられて、俺とのエピソードを聞いたそうな。その時に、公式からの供給最高!となったらしい。
今の話を聞けば分かると思うが、若菜は腐女子だった。そして、朔✕向真カプ推しだった。
「じゃあ、向真と付き合いたいとか、そういうんじゃないんだな!?」
「はい。そんな、私が向真様と付き合うとかおこがましいです...」
それに...
「向真様のお相手が、朔様以外の人とか考えられませんっ!」
(よく言った!そうだよな、俺しかいないよな)
「よかった....」
「あの...」
「?」
まだ、聞きたいことがあるのだろうか。
「朔様は、向真様のことが好きなんですか?その...恋愛的に」
「...当たり前じゃない?」
「!」
…若菜がぶっ倒れた。オタクの力恐るべし。
「私、今ここで死ねます」
「…いや、死なないで?」
「…朔様がそうおっしゃるなら」
かろうじて一命は取り留めた。
「あとさ...」
「はい」
「その朔"様"ってやめてくれない?」
「朔様は朔"様"です」
(いや...そうじゃなくて)
「じゃあ、みんなの前では普通にして?」
「わかりました。朔様の願いならば」
(なんか...メイドみたいだな)
「もちろん、向真のこともだぞ」
「承知しています」
最後に...
「…もし、向真が告白してきたら、どうする?」「…丁重にお断りして、朔様の魅力を語ります」「そうか、よろしく」
(これで一旦安心かな)
朔は、生徒会室に戻ることにした。
【勝負の日】
とうとうこの日がやって来た。…笹井さんとのデートの日がっ!
(俺、おかしくないよな....プランもちゃんと組んできたし、大丈夫なはず)
脳内シュミレーションをしていると、向こうから走ってくる人影が見えた。
「ごめんっ!遅くなっちゃった?」
「!」
(可愛すぎる...漫画でよくあるシーン...)
「行こっ?」
「うん」
(今日、死ねるわー)
向真は、自分でも気づかないうちに浮かれていたのだろう。いつもなら気づく視線に、気がつかなかった。
(よし、バレてない)
某生徒会長が、あとをつけていた。
「ふふっ!それでね....」
「うん」
向真と若菜は、駅前のレストランで食事をしていた。午前中は映画を見て来て、今はお昼休憩中だった。
(こんなに向真って鈍感だったか?)
まあ、浮かれているのだろう。悲しい事実だ。
「ブブッ」
スマホが反応した。
画面を見ると、若菜からだった。
『この後は、ショッピングモールに行きます』「…りょ、う、か、い、っと」
「ブブッ」
今度はなんだろうか。
『向真様、緊張してるみたいです』
「…当たり前だろ」
好きな人とのデートだぞ?多分、告白とかも考えてるだろうし、緊張しないわけがないだ
る。
『笹井さん、恋愛経験少ないでしょ?』
『なんでわかるんですか!?』
…バレバレだ。
返信しようと思ったが、向真と若菜が席を立ったようなので、会計の準備をする。果たして、真はスマートに会計ができるのだろうか。(できなくても、若菜が相手なので大丈夫だとは思うが)
…おっ...意外と上手くやってるぞ。そうか、さては鈴音さんに教わったな?今度、鈴音さんに聞いてみよう。
二人は先に店を出ると、ショッピングモールの方へ歩いていった。
(置いていかれないようにしないと)
朔は、急ぎめに会計を済ませる。店を出て、二人を追いかける。
(おっ、いいところに)
ちょうど、二人が店に入るところだった。
(このまま距離を保って、ストーキングを続けよう)
そこからは、特に何事もなかった。洋服を見たり、スタバを飲みに行ったり。見てるこっちが暇になるくらい、平和だった。"それまで"は。
「楽しかったね、向真くん」
「うん」
夕焼けに照らされる、ショッピングモールの屋外を二人は歩いていた。正しくは、どんどん奥に歩いてしまう若菜を、向真が追いかけていた。
「あのさっ...」
「なあに?」
「ずっと言いたかったんだけど、」
「うん、どうしたの?」
ああ、もう言ってしまおう。
「俺、笹井さんが好き」
…好きだ。
若菜が歩みを止めた。夕焼けに照らされて、どんな顔をしているのかわからない。
「…なんとなく、わかってた」
「・・・」
若菜は振り返り、言いづらそうに顔を歪める。
「…私は、友情かな」
「…友情壊すみたいでごめん」
「…こっちこそ、気持ちに応えられなくてごめん」
苦しまないでほしい。できるだけ、明るく振る舞いたい。
「笹井さんのせいじゃないよ」
「いや...」
「いっそ、きっぱりフッて?」
「・・・」
若菜が息を呑んだのがわかった。流石に、きっぱりフれ、と言われるとは思っていなかったのだろう。
「…向真くんと付き合うことはできません」
「うん...」
「でも...友達として、よろしくお願いします」
「うん」
海のさざなみが間こえる。俺たちを現実に引き戻す。
「…帰ろっか?」
「…そうだね」
「この場所、きれいだな」
「…多分、一生忘れないと思う」
「俺も」
夕焼けが沈んでいった。
【デレ】
(昨日は驚きだったな...)
なんとなく、向真と会話するのが気まずくて、先に登校してしまった。まあ、早く来たところですることはないのだが。
「ガラッ」
「!」
扉が開いた。そこに立っていたのは向真だった。
「おはよう、向真」
「…おはよ」
(…いつも通り?)
朔は、そう思った自分を、すぐに否定した。
(いや、何考えてんだ俺。向真は、なんかあっても態度にださない奴だろ)
ここで俺にできることは...
「そういや、昨日笹井さんと何してたんだ?」
「えっ....」
「ん?」
朔は偶然を装う。
「なんで...もしかして、見てた?」
「何を?」
「…俺が告白したところ」
「ああ、フラレたところ?」
「つ!最っ悪、最低」
「偶然見ちゃったんだから、しょうがないだろ」「別いいし。もう朔と口間かないから」
「えー。しゃあない、マックのポテト奢るから許して!」
「…俺が、食べ物に釣られると思ってんの?」「…シェイクも付ける!」
「え、シェイク!?」
「ああ」
「…食べる」
向真は小さいときから、シェイクや、アイスといった嗜好品が好きだった。
「…こういうときは、思う存分好きなことやんな」
「・・・」
向真が無言になる。
(なんか、やっちゃったかな、俺)
「…ありがと」
「…どういたしまして」
「・・・」
(可愛すぎるだろっ!シュンってなってるっ!デレが過ぎるっ!)
朔は大歓喜だった。こんなにデレる向真はいつぶりだろうか。年ーペースでしかみることのできない向真のデレは、くるものがある。
「なんか、ニヤけてない?」
(ギクッ!)
「いや、」
朔は、弁明しようと思ったが...
「ま、シェイク奢ってくれるなら許す」
「…うん」
もうここまで来ると、ひな鳥を見ている親鳥の気持ちになる。
(これで、俺だけのもの…♥)
「好き」
「なんか言った?朔」
「べっつに一」
「…これ以上なんかしたら殺す」
「…肝に命じておきます!
【放課後デート】
「悪い。今日、向真とちょっと用事があるから、先帰るわ」
「「「了解です」」」
生徒会のメンバーには申し訳ないが、向真とのデートは生徒会の仕事よりも大事なので、先に上がらせてもらう。だが、向真はそれを不満に思っているようで...
「先に上がっていいの?迷惑なんじゃ...」
「いつもは最後までいるんだし、たまにはいいだろ」
「でもさ...」
朔も、少し不満に思う。
(向真って、すごい真面目なんだよなー、融通が利かないと言うか)
「今日は、お前とのデートのほうが大事なの!だからいいの!」
「そっ、そうかもしれないけど..」
「なに?俺とデートしなくていいの?」
「…デートじゃないし」
(っそこかよっ!)
「あーあー、シェイク奢ってやんないぞー」
「…食べるけど」
(食べるんかいっ!)
「じゃ、行くぞ」
「わかった」
朔は、今の会話で調子に乗って、向真に手を差し出した。
「別に繋がないけど」
「冷たいなっ!」
「たかが幼馴染と手繋ぐやついる!?」
「いや繋がないけどさっ!」
でしょ?と言いたげに、向真が朔を見つめる。
「俺とお前は、幼馴染を超越した仲なんだからいいだろっ!?」
「は?なに超越した仲って」
「それは....大親友...的な?」
「別に、大親友でも手繋がないだろ」
向真のカウンターが朔に炸裂する。
「無理やり繋がせてやるっ!」
「は?キモいし」
「うるせぇ!」
「ねぇ!ちょっとやめてくれないっ!?」
二人は、訳のわからない喧嘩を始めた。それを、教室の窓から覗く腐女子達。
「あれは....やばいですね」
「ここ最近で、一番の供給では!?」
「許されるなら、写真を撮って拝みたい....」
「「「…それな」」」
そして、体育館の隅から、二人を見ている一人の姿....
(あ、朔様と向真様だ)
相変わらず顔がいい。それにしても、二人は付き合えたのだろうか。向真が朔をどう思っているのかわからないが、朔は向真を溺愛している。
(告白したら、意外とすぐに付き合いそう...)
向真が自分を好いてくれていたのには驚きだったが、若菜としては、朔とのほうがお似合いだと感じる。
(二人が付き合ってくれたら良いな....)
そう思ってはいるが、二人が、誰と付き合って、誰と幸せになろうと、若菜が口を出す領域ではない。
(私は、推したちの恋愛を、そばで応援していよう)
若菜はそう、心に決めたのであった。
朔と向真は、二人でマクドナルドに来ていた。
「シェイク、いちご味でいいよな?」
「もちろん」
向真は、シェイクやアイス、そしていちご味が好物だった。
(好きな人の好物とか、覚えてないと罪だよねぇ♥)
と朔は思っている。
「朔はなんか食べないの?」
と、なにやら向真が聞いてきた。
「俺は別にいっかなー、莉乃の顔が、背後でちらつく」
「はは...」
莉乃は、ああ見えてブラコンである。いつもの冷たい態度も、行き過ぎた愛ということだ。
自分たちの番が来たので、会計を始める。
「ポテトのMサイズと、シェイク、いちご味で」「どちらも一つでいいですか?」
「はい」と朔が答えるよりも先に、
「ポテト、二つでお願いします」
と向真が応えた。
「え?」
「かしこまりました。880円でございます」
「あ、はい」
朔は880円払う。
「では、お席の方でお待ち下さい」
「はい」
朔と向真は、空いている席を見つけて、そこに座る。
「はい、330円」
向真が、330円を手渡してくる。
「え、なんで?」
「俺だけ食べるのも申し訳ないし。朔の分」「あ、ああ。そういうことね」
「朔、元気づけてくれたんでしょ?俺のこと。そのお礼」
「…ありがとう」
返す言葉がわからず、ありがとうと返してしまう。すると向真が笑い出す。
「ははっ、なにそれ、朔」
あーやば、おかし、と笑い転げる向真を見て、朔は戸惑っている。
「え、なんか変なこと言った?」
「え、だって、俺が勝手にしたことだよ?」
「?」
「それなのに、ありがとうって」
朔は、向真が言いたいことの意味を理解した。
(なるほど...確かに)
「確かに、ありがとう、ではなかったかもな」「でしょ?」
向真が、華やいだように笑う。
「ま、一緒に食べよ、朔」
「ああ」
朔も、それに頷く。
(笑ってる向真って、すっごい可愛いんだからな)
今の向真を生徒たちが見たら、ファンが急増するだろう。
(まあ、普段の向真は俺のもの。笑った向真も俺のものだけどな)
「なんか、キモいこと考えてない?」
「何が?」
朔は知らないフリをしたが、内心...
(うん、はたから見たらキモいこと考えてたと思う)
…向真が可愛いのが悪い。
朔はそのうえ、人に責任を押し付けた。
「そ。ならいいんだけど」
(…あれ?いつもは、更に思考を読んでくる気が..)
「俺がそんなの考えるわけなくない?」
「…それはどうかな」
「いや、なんでちょっと疑ってるんだよ」
(ま、正解だけど)
「…食べ終わったし、帰ろう?」
「あ、そうだな」
二人が店を出ると、外はもう暗くなっていた。
【負けられない】
俺と向真は、小さい頃から様々なことで勝負をしていた。それは今でも変わらない。俺は向真に、負けるわけにはいかないんだ。
「えー、みなさん知っての通り、二週間後には中間テストがあります。初めてのテストなので、気を引き締めるように」
「・・・」
(やっとこのときが来た!向真に勝って、イタズラするチャンス)
朔は、不気味な表情を浮かべていた。
(やってやんよ...)
「朔、気張ってるのは分かるが、そんな顔をするな。殺気立ってて怖いぞ」
「え?」
急に先生に名前を出され、気の抜けた返事をしてしまう。
「『え?』じゃないだろ。まあいい、しっかり勉強に励むんだぞ。お前なら大丈夫だと思う
が」
「はい、ありがとうございます」
…右からの視線が痛い。
(…なんでお前だけ、先生にも認めてもらってるんだ)
(いや、知らんよ!?俺は、お前に勝ってやるって意気込んでただけで)
(言い訳は聞かない)
(あっそ)
向真がムキになっている。
(今回は、俺が勝つからな)
(いいや、俺がお前に圧勝して勝ってやるよ)
「・・・」
((絶対に勝つ))
【前哨戦】
「…朔にい、向真にい、今大戦争してるのは分かるけどさぁ、私がいるときくらいは停戦にしてよっ!」
…そんなことを言っても、無理なものは無理だ。
「莉乃なら分かるだろ?これは、絶対に負けられない戦いなんだ」
「そうそう、莉乃なら知ってるはず、俺と朔は昔からそうだって」
「いや、そう言うとは思ってたけど」
てか、戦争中とは思えないほど仲良いんだけど、という言葉はスルーした。
「そういう莉乃こそ、こいつには負けられないっ!て奴はいないのか?」
朔が、強引に話を変えた。
「え、私に話振るの!?」
「で、どうなんだ?」
「えー...」
「・・・」
朔も向真も、愛すべき妹分を温かい眼差しで見つめる。
「いることにはいるけど、おにい達ほど、本気で勝ちたいわけじゃない」
「ふーん」
「で、誰なんだ?」
「…なんか、おにい達ウザイ」
おうおう、反抗期か?反抗期なのかっ!?
「誰なんだよ莉乃ー?」
「もしかして、気になってるクラスの男子とかか?」
わかる、莉乃プライド高そうだもんな、という言葉はスルーされた。
「…別に、そんなんじゃないし」
朔と向真の顔が、思いっきり破願した。
「そうか、好きな男子に勝ちたいんだな」
ニマニマしている朔と向真を見て莉乃は、
「うっさいおにい!」
と、一言だけ吐いた。
そして、莉乃は気づいたことがあった。
("好きな男子に勝ちたい"って、おにい達も一緒じゃん)
【日頃の努力】
(今日は、数学のワークと理科をやろう。帰ったら英語の復習だな)
向真は生徒会室で、テスト勉強をしていた。今回こそは、幼馴染に勝つ。それだけを目標に頑張っている。
「あら、水瀬くんは勉強中でしたか。邪魔をしてしまい、申し訳ありません」
生徒会役員である、夢路沙彩|《ゆめじ さあや》が入室してきた。
「いや、全然大丈夫....」
…本当は、全然大丈夫じゃなかった。いつもは、が代わりに朔が話してくれたりして乗り切っている。が、今日は一人。全然大丈夫じゃなかった。
(正直、早く出ていってほしい)
向真の女子恐怖症は、相変わらずだった。
「水瀬くんは、今回も一位を目指しているのですか」
「…そうだけど」
「私は、水瀬くんが一生懸命努力をしているのを間近で見てきました」
「?」
「もちろん、朔くんも努力していますが、水瀬くんのストイックさは常人離れしています」
「…何が言いたい?」
「水瀬くんが勝てることを、信じてます」
「…ありがとう」
…なんとも不思議な会話だった。
沙彩はとても真面目で、頭もいい、生粋の優等生だ。だが、ちょっと抜けているところがある。たまに、何を言っているのかわからなくなる。
(まあ、応援してくれてるみたいだし、ありがたく受け取っておこう)
一人で完結していると、廊下から歩いてくる音が間こえてきた。
「あれ!?向真と沙彩じゃん」
「あら、結城くんもおいででしたか」
ドアを開け、朔も入ってくる。
「お前ら、二人で何を..まさか...」
間髪を入れず、沙彩が答える。
「朔くんが考えているようなことはありませんよ」
「…よかった」
ああ、お前ってやつは、
「本当にキモいな」
「そりゃ、二人でいたら疑うでしょ!?」
なんでそうなるかなぁ!?と納得のいってない様子の朔。
(…失恋直後なんだから、有り得ないだろ)
察しの悪い幼馴染を、半眼で睨みつける。朔も、悪かったよ、と視線で語る。
一件落着かと思いきや、ここで沙彩が口を挟む。
「結城くんと水瀬くんって、本当に仲が良いですよね」
「「そう?」」
「…今のとかも」
「・・・」
(朔!)
(いや、ごめんて。いつも沙彩と話さないから、俺が答えるべきかと思ったんだよ)
(…いや、なんかこっちもごめん)
「こういう、視線で会話できるのも、幼馴染だからですか?」
「「まあね」」
(朔!)
(いや、今のは向真もだろ!)
より一層、、二人に亀裂が入る。極めつけは...
「なんかもう、カップルみたいですね」
(カ、カップルだと!?)
「そ、そう見えるっ!?」
朔が答える。
(そう見えるっ!?じゃねーよ!)
「カ、カップルなわけないでしょ!」
「なんだよ向真、つれないなー」
「朔とカップルとか、ありえないからっ!」
「は、ちょっと!?」
向真は勢いで、部屋を飛び出した。
(あいつ、ふざけんなよっ)
誰に当たればいいかもわからず、とりあえず朔に当たる。
(朔と付き合うとか、絶対考えたくない)
「水瀬くん、出ていってしまいましたね」
「…お前のせいだろ?」
「そうでしたね」
「そうでしたねって、」
忘れるか?と、朔は思った。
「…水瀬くん、結城くんとカップルって言われて、ひどく焦っていましたね」
「…考えたことなかったから、戸惑ったんじゃない?」
「結城くんは、それでいいのですか?」
「よくはないけど、今はこれで」
沙彩はそれを聞いて、よかったです。と呟いた。
「何がよかったんだ?」
「結城くんが、水瀬くんと付き合いたいと思っていることです」
…より、意味がわからない。
「水瀬くんへの気持ちを自覚しているということですよね?」
「ああ、もちろん」
「…よかった」
…だから、何がよかったんだ。
「私は、お二人の仲を応援しています」
「?」
「結城くんの思いが実ると良いですね」
「…あぁ」
朔は、向真が忘れていった荷物を届けるため、生徒会室から出ていった。
「結城くんは、分かっていないでしょう。いや、水瀬くん本人も」
向真は、朔を少なからず意識してるだろう。でなければ、いつも冷静沈着な向真が、沙彩の冗談を真に受けて、こんなに過剰な反応を取ることもないだろう。
「水瀬くんが、朔くんへの気持ちを自覚してくれればいいのですが」
【努力家】
深夜一時。向真は、中間テストに向けて勉強をしていた。もちろん、ワークは既に終わらせているので、今は自習に移っている。
(流石に、眠くなってきたな)
そろそろ終わりにして寝ようか、と思ったところで、朔との勝負を思い出す。
(…負けるわけにはいかないんだ)
今この時間だって、朔は勉強しているかもしれない。上の人を越すには、その人よりも努力をしないといけない。
(あと、三十分だけ頑張るか)
思い直して、再び机へと向かったとき、向真のスマホが震えた。
(誰からの着信だ?)
深夜に電話してくる人は限られている。
(姉ちゃんか?)
鈴音は今日、サークルの飲み会とやらで帰りが遅い。電話をかけてきたのが鈴音であれば、納得ができる。
向真は、スマホの着信画面を見る。すると、結城朔と表示されていた。
(なんで朔が..)
不思議に思いながらも、通話ボタンを押す。
「もしもし」
『あ、もしもし向真』
「…こんな時間になんの用だ」
『悪い悪い、』
(…何だよ)
『なんか、向真の声が聞きたくなってさ』
「んなわけねぇだろ」
『ははっバレたか』
(何の話だ?)
『…今も、向真は勉強してんのかなって』
「・・・」
『お?黙ったってことは図星か』
「…だったら何だよ」
『頑張ってるなーって』
(え、本当になんの用だ?)
「頑張ってるのは朔もだろ?」
小さいときから一緒にいるんだから、向真は知っている。朔は頑張っていないように見えて、超がつく努力家であることを.会長という地位も、本人の努力によって築き上げられたものだ。
『それはそうだけどね~』
「・・・」
『絶対に負けないから』
「…分かってる。でも、俺が勝つから」
向真は、そんな朔を見たから、朔を支えたいと思ったのだ。でも、そんな朔だから、負けたくないとも思うのだ。
『そっか、楽しみにしてる』
「うん」
『…因みに、今なんの教科やってんの?』
「英語」
『英語か!英作文むずいよな~』
「…わかる」
『テンション低っ、まあいいや、俺、このまま寝落ちするつもりだから』
「わかった、朔が寝たら切るね」
『ん、ありがと』
話が変わって忘れていたが、結局はなんで電話をかけてきたのだろうか。朔が寝てしまったので、そのわけは聞くことができなかった。
【憧れ】
「それでは、始めっ!」
テストが始まった。向真はいつも通り、全ての欄を埋めて提出した。ここまではいい。あとは、どれだけ間違いを減らせるかだ。
朔との勝負は、いつも少しの差で決着がつく。つまり、たった一つの間違いでも、致命的だということだ。
朔が相手だと、絶対に気を抜くことができない。…困ったものだ。
「あー、疲れた」
隣で、朔が机に突っ伏している。
「今回のテスト、結構難しかったよな」
「わかる」
お二人のレベルが高すぎるので、問題の難易度も上げたのでは?と沙彩。
確かに、それはあるかもしれませんね、と役員たちが言う。
「そうかなぁー?」
朔が答える。いずれにしろ、問題が難しくなったのは事実だ。
「点数が、今までよりぐっと下がったかもしれないな」
ええー、やだー、と朔がボヤく。今日の朔は、精神年齢が低くなっている。
「ほら会長、しっかりタスクこなしてくださいね」
「はーい」
役員に注意されている。いつもならこんな姿は見ないだろう。
(やっぱり、疲れが溜まってるんだろうな)
生徒会の仕事が多いので、朔は基本多忙だ。それに加えてテストもあったため、この三週間くらいは物凄く忙しかったのだろう。
(頑張ったね、朔)
何か買ってあげようか。向真は、急に朔を甘やかしたくなった。今日の帰りに、何か奢ってあげようか。それとも何か買ってあげようか。
向真が考えを巡らせていると、朔が気づき、こちらを見つめてくる。
「あれ?なんか向真、俺と出かけたいって顔してない?」
「エスパーかよ!」というツッコミは割愛する。
「…この後、空いてたりする?」
「えっ!?向真からお誘い!?」
「・・・」
「開いてるに決まってるじゃないですか~!てか、無理矢理にでも開けてやるわ」
「会長は、相変わらず向真のこと溺愛してますね」
役員が呟く。そして、それを逃さずに朔が返事をする。
「まあね」
「っいいから!そういうのは」
「はいはい」
…本当にこういうのは苦手だ。気の利いた返しができない。朔はああやって軽くあしらっているが、向真にはできない。
(コミュニケーション能力も、努力して身につけたのかな)
…いや、答えは否だ。向真が知る限り、朔は昔からああだった。
(もともとの性格かな)
向真は、なんでも完璧にこなせてしまう朔を見てきたから、こんな劣等感を抱くのだろう。
朔、やっぱりすごいな、と思ったところで思い直す。
(そんなふうに、憧れてるから勝てないんだ。朔はライバル、朔はライバル)
某有名野球選手の名言を思い出したが、気にしない。少なくとも向真は、こう思ったおかげで少し気持ちが楽になった。
(これからは、コミュニケーション能力も磨いていこう)
…ファンに優しくするわけじゃないぞ?
【親友たち】
「あれ?朔と向真だ」
楓は、理との帰り道の道中に、並んで歩いている二人を見つけた。
「本当だ、話しかけるか?楓」
よく見てみると、二人で一緒にマックへ行くようだ。いつも通り、朔が向真にちょっかいかけて、うざがられている。でも今日は....
(向真も楽しそう...?)
楓にはそう見えた。
「なんかいい雰囲気だし、そのままでいいんじゃない?」
「だな」
理玖もそう思っていたようだ。そして、
「今日は、二人きりで楽しもうぜ」
と言われた。
「…夜のお誘い?」
「っ!?違うから!!」
理玖に慌てて否定された。もう、なんでそうなるかな、と呟いている。
「僕としては、そのお誘いに応えたいんだけど..」
楓が追い打ちをかける。
「もう、なんでそんなこと言うかな....もう、後に引けないじゃん」
理玖が、苦悶の表情でそう言った。
「今日、僕の家空いてるから、おいで?」
「…うん」
今夜は、楽しい夜になりそうだ。
「ねえ理玖、嬉しい?」
「そりゃ、ね...」
「じゃあ理玖、悦んでる?」
「…なんか、漢字違う気がするんだけど」
「…気のせいじゃない?」
「え、絶対そうだよね?」
「内緒〜」
「ちょっとまって、楓!」
「やだ~、待たなーい」
…これがバカップルと言うのだろう。←作者の気持ち。
【結果】
今日は、学校中が浮足立っている。それもそうだろう。なぜならテストの順位が発表されるからだ。
今回の向真のテストの点数は、486点。前回より3点アップした。前回の朔の点数は484点のため、前回の朔は越したことになる。全然、可能性はある。
(朔は、何点だったのかな)
「よ!向真」
「!」
「いや、そんな驚くなよ」
「ごめん、それでなんの用?」
「単刀直入に言おう、」
「あ、テストの点数聞きに来たの?」
「なんで先に言っちゃうんだよ」
「…悪い」
「んで、何点だった?」
「・・・」
まだ、結果を知りたくない。そう思うのは向真だけなのだろうか。
「貼り出されるのを見るまで、お楽しみにしたい」
「それもそうだな、後で一緒に見に行こう」
「うん」
「因みに言うと、前回の点数より上がってるぞ」
…雲行きが怪しくなってきた。問題も難しかったと言っていたし、前回より上がっていないことを期待していたが、それはもう望めない。
「そうか、まあ俺も上がってるけどな」
「!」
「へえー、勝敗が楽しみだねえ」
「ああ」
結果発表は、四時間目の後!チャンネルは変えずに、そのままでお願いします!by作者
【…なんで?】
張り出しは、生徒会室の前で行われる。二人は見慣れた廊下を並んで歩き、生徒会室前に向かう。
(…正直、緊張しまくってる)
心臓がバクバクして、周りの音が間こえてこない。
「…真?おい、向真?」
いきなり、朔が目の前に手を出した。
「っ!?びっくりした....」
「大丈夫か?さっきから、声かけても全く反応しなかったぞ」
「ごめん」
…朔の声すら間こえていなかった。緊張が極限状態にあるようだ。
「…大丈夫」
(…何が?)
向真の問いは声に出ていたようで、朔が返事をくれる。
「勝っても負けても、向真の頑張りは無駄にならないから」
「・・・」
「それに、どっちが勝ったとしてもこの関係は一生続くから、大丈夫」
「…それは、大丈夫なのか?」
「何がっ!?意味分かんないこと言わないでくれない!」
「え、意味分かんないのは朔でしょ?」
「はい、俺です。すいません」
考えまとまんないまま話したからだ~、と朔が言う。
向真は気持ちが軽くなり、落ち着きを取り戻すことができた。
「絶対俺が勝ったからね」
と向真が言えば、
「は?俺だし」
とからの反論が返ってくる。これが二人の関係性。変わることはない。
「お、人だかりができてるな」
朔と話しているうちに、生徒会室前についた。
「・・・」
「はい、ちょっと通るよ」
朔が人をかき分けて、前へと進んでいく。向真は、それについていく。
「あ、会長♥」「副会長もいるわ~♥」
(ああ、うるさい。静かにしててくれ)
「こっち来て、向真」
朔が、比較的人のいない場所に連れてきてくれた。もう、すぐそこに結果が書いてある。
(勝敗は...)
掲示を見てみると、一位の欄には結城の文字があった。
(また、二位か)
どん底に突き落とされたようだった。毎度のことながら、いつまでも慣れない。
いつもなら、向真の負けず嫌いが発動して「次は勝つ!」「次も勝ってやる!」という会話になったりするのだが、今日はそんな気分ではなかった。向真が何も言葉を発しないため、朔も何も言えない。
「また、会長の勝利だってさ」「会長、王座死守!」「向真くんも、常人には理解できない
くらいすごいのにね」
などという、周りの声も聞こえてくる。さっきは、周りの音なんて何も間こえなかったのに。
「…行くぞ、向真」
「?」
朔が、向真の手を引いて歩きだす。
「どこ行くの?」
「…どこだっていいだろ、誰もいない所」
「あっ、そ」
誰も、何も話さなくなる。木々が揺れている。それくらいしか分からなくなる。
さっきまで冷たかった手が、朔の体温によって温められていく。…心と一緒に。
テストの順位とか、足の速さとか、どうでもいいことまで競うライバル。勝てることはないライバル。それと同時に、幼馴染でもある。
(こういうところ、本当に好き)
ライバルだけど、こうして優しくしてくれる。幼馴染ってだけなのに、ここまで優しくしてくれる。
(朔の優しさは、無敵だよな)
さっきまで争っていた相手なのに。向真をここまで悲しませたのは朔なのに、向真を励ましてくれるのも朔。
(…さっきから、朔のことしか考えてなくないか?)
始めはテストで落ち込んでいた話だったのに、いつの間にか、話題が朔に切り替わっていた。「…なんで?」
「うん?」
「いや..なんで、朔は俺に優しくしてくれるのかなって」
朔が、不思議そうな顔で言う。
「幼馴染で俺の大切な....友達だし」
「そっか...」
「あ、でもそれだけじゃないよ?」
「?」
「向真のこと好きだから」
(好...き...?)
「…そっか。…これからもよろしく」
「ああ、当たり前だろ?」
朔が満面の笑みを浮かべる。
(そうか、俺は朔のことが好きなのか)
テストのことなんて、もうどうでもよかった。
【告白】
「えっと....これってどういう状況?」
今、向真の前には若菜と沙彩がいた。
「どういう状況?って、決まってるでしょ!?」「これは、水瀬くんの思いを暴いてやろうという会ですよ」
「あ...より、わからなくなったんだけど..」
「簡単だよ!向真くんが、朔くんのことをどう思ってるのか知りたいってこと!」
沙彩も、うんうん、と頷く。
「え...」
改めて自覚すると、恥ずいな。
「多分、好きなんだと思う」
「「よかった~!!」」
「え、なんで?」
「だって、やっと自覚してくれたんだもん」
「外野としては、結城くんと水瀬くん、最初からすごくお似合いでしたよ」
「…そうなのかな、それに、男同士なのに引かないの?」
「私は腐女子だから気にしなくていいよ、むしろ大歓迎」
と若菜。なんか、とんでもないこと問いちゃったような。
「夢路さんは?」
「私はかねてから、結城くんと水瀬くんが両思いになってほしいと願っていました。ですので嬉しいです」
それでさ、と若菜が話を変える。
「それで、いつ告白するの!?」
「え!?告白っ!?」
二人がじっと詰め寄ってくる。
「告白....とかは、まだ考えてない」
「「なんで!?」」
「いや..朔がOKしてくれるかわからないし、友達としての関係を壊したくない...」
「(え、気づいてないの?朔くん、向真くんのこと大好きだと思うんだけど..)」
「だから、朔にはまだ何も言わないでっ!」
「水瀬くんがそうしたいのであれば、私は待ちますよ」
「…早く付き合ってよねっ!」
「…努力します」
【二人きり】
「おはよう!向真にい」
家を出ようとしてドアを開けると、ドアの前に莉乃がいた。
「おはよう、莉乃」
朔の姿も探すが、見当たらない。
「莉乃、朔は?」
「あぁ、朔にぃは、今日日直だから先に行ったよ!」
…そうか、朔は先に行ったのか。あれ?じゃあ、「莉乃は、なんで俺の家に来たの?」
いくら幼馴染とはいえ、向真と莉乃が二人きりになることは珍しい。いつもは、朔も入れて三人でいることが多いのに。
すると莉乃は、
「え〜、向真にいに聞きたいことがあったから~」
と、ニヤニヤしながら言った。
(聞きたいことってなんだ?)
向真は、嫌な予感がしながらも力に尋ねる。
「聞きたいことって何?」
うん、すごい嫌な予感がする。
「向真にぃってさ、朔にぃのこと好きだよね?」(んなことだろうと思った!)
残念ながら、向真の嫌な予感はあたった。
「ん?なんのこと?」
「ふふっ、逃さないよ、向真にぃー」
残念ながら、知らないフリ作戦も失敗したようだ。
「…そうですよ」
「だと思ったー」
「え、なんで気付いたの?」
「そんなの昔から知ってるよー、いつ間こうかずっと迷ってたんだけど、こないだ朔にぃと向真にぃが二人で歩いていくの見て、なんかいい雰囲気だなって思ったから聞くことにした!」
莉乃の勘の良さには脱帽だ。きっと朔譲りだろう。それと、一つ気になることがあった。
「"昔から知ってる”ってどういうこと?」
向真が、朔への好意を自覚したのはつい最近だ。
「え?もしかして、気づいてない感じ?」
「?」
「まじか~、向真にぃ、私が見る限り、ずっと昔から朔にいのこと好きだったよ?」
「!?」
考えたことがなかった。そういえば、朔のことを好きなのは自覚したが、具体的にいつから好きなのかはわかっていなかった。
「そう..だったのか....?」
「やっと自覚したか~、それと、私も手伝うし、早く付き合ってね」
「え、なんで..」
「なんでってそりゃ、実の兄と幼馴染が付き合ったらしいじゃん」
…そういうものなのか?
「将来的には、結婚してもいいんだよ?」
「!?」
莉乃が悪魔の微笑みを向けてくる。
「け、結婚なんて、ま、まだ早いって」
男同士でとか日本じゃ認められてないし、そもそも学生だし......
一人で何かを喋っている向真を、莉乃は黙って見つめる。
(また一人で突っ走ってるよ...からかっただけなのに)
莉乃の冗談を、向真は真に受けてしまったようだった。
(…こうやっておにぃも、向真にぃのことをからかってるんだろうな..)
莉乃は、実際の二人のやり取りが目に浮かんだ。向真を可哀想に思いながら、それでも二人はお似合いだと、改めて感じた。
勢いで書いた作品です!完結はまだまだ先だと思いますのでご安心を。古参になってくれたら嬉しいです!
文章の間違いなどがありましたら、どんどんご指摘ください笑(作者は結構雑です)
小説家として超初心者なので、これから上達していきたいです!朔と向真をよろしくお願いします。