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公開中

梅雨から…へ

くすんだ緑の畳の上、小さなちゃぶ台に茶がみっつ。 縁側の向こうは、眩しいほど輝いている。 そして、60年ぶりに会ったダチのジュンと、今そこにいる。 オレより背は高くなって、あの時の木の枝みたいだった腕は、太くたくましくなっていた。 オレの小さな背中がじんわりと冷たくなっていく。 「ナツ、なんでお前は…」 ジュンが問いかけてきた。 「オレ、死んだんだよ。」 迷いもなく答えた。 するとまた驚いた顔をして、ジュンは息を止めた。 目も口も全部かっぴらいて、今にも笑えるものだった。 「うーん…信じてもらえるかな…」 今になって不安になって、オレは声を漏らした。 だけどジュンは、 「なーに言ってんだ。俺がお前を疑う訳がねぇじゃねぇか。」 少し強い口調で返してきた。 「ははっ、今も馬鹿なのは変わんねぇなー。」 今も昔も真っ直ぐでいたジュンに、オレは安堵した。 ジュンはお茶に手を伸ばして、口に運んだ。 淹れたてのお茶は熱かったのか、少ししてズルズルと音をたててすすり始めた。 「だからさ、安心して話せ。」 お茶を持ったままジュンは言った。 「おう。長くなるぜ。」 オレはジュンの方をまっすぐ見て言った。 よく見ると、顔のかしこには、シワやら、アザがたくさんあった。 オレは下を向いた。 ジュンみたいにしわくちゃじゃない小さな手を見つめて、ため息をついた。 力強く手を握った。
「おばさーん。ソーダ一本くださーい。」 今日も今日とて暑い日々。 店の外に見える海は、空を映し出して、入道雲はもくもくできていた。 「はい。50円です。」 いつもよく来てくれる、ハルという子から50円を受け取って、レジに入れた。 「おばさん、いつもひとりで大変だね。」 ソーダ瓶を一本手に取った少年が尋ねてきた。 「いいえ。全く大変じゃないよ。むしろ、いろんな子に会えて楽しいね。」 そういうと、ハルはにかっと笑った。 「そういやさー、俺、前にナツって子の話したじゃん?」 ハルは私に尋ねる。 「あー、あの子だろ?麦わらに、坊主に…」 「そう!それ!まさに夏の子供って感じの!」 ハルは突然元気に話し出した。 「ふふっ、あっ、そうそう、そのナツって子で思い出したけど、昔『ナツキ』って子が…」 「おばさーん、その話もう聞いたー。」 ソーダ瓶の蓋を開け、ハルが言う。 「あらら、最近ボケてきたかしら?でも、聞いてって。」 思い出は、思い出したら止まれない。 ハルは、へいへいと言って、私の話に耳を傾けた。