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「ようこそ魔法学園へ」(3)
ガヤガヤと騒がしい1年教室付近。
「ええっと…1‐Q…1‐R…1‐S…1‐……って、通り過ぎましたわ!」
ガラガラとスーツケースを引っ張りながら1‐Rの教室を探して回る|椿《つばき》。
華麗に通り過ぎた教室へ戻り、開け放たれたままの扉から教室に入る。
ざっと騒がしい教室内を見回し、入学初日で彷徨っていた自分の恩人を探す。
「(レティはいませんわね…まぁ、当たり前ですか…)」
自分の机に腰掛けて、先生が来るまで時間を潰そうと荷物の中から本を取り出す。
日本語の剣術指南書だ。|椿《つばき》は剣術一家の出であり、実家で剣術が出来ないならと父親に持たされたのだ。
「…アンタ、日本人か?」
通りすがりの男子に聞かれ、|椿《つばき》は指南書を閉じる。
「そうですわ、日本の由緒正しき|勘解由小路《かでのこうじ》家の一人娘、|椿《つばき》ですわ。貴方は?」
「あー……オレはルージュ、ルージュ・レビオン・ヴィトナーレだ」
「お名前が長いですわ…」
「|椿《ツバキ》の|勘解由小路《カデノコウジ》?もよっぽどだろ」
「ふふ、それもそうですわね」
「ところでそれ、何読んでんだ?日本語はカクカクしててよくわからん」
「これは剣術指南書ですわ、実家が剣術道場ですの」
「ど、ドウジョウ…?」
「そうですわね…誰かに日本文化に関わっている何かを教える場所、と言えばいいでしょうか」
「気になるな」
「日本へいらしたら是非、和歌山の|勘解由小路《かでのこうじ》剣術道場へお寄りくださいな」
そこまで話したところで、私達の鳴らす靴音とは全く違う音の持ち主が、教卓を叩いた。
「全員静かに〜、自分の席について〜」
「じゃ、また後で」
ひらりとルージュは手を振って、自分の席に歩いていった。
「静かになるまで30秒かかりまし…いや早いな…?」
腕時計を見ていた男性教師が自問自答した後、「まぁいいか!」と気を取り直す。
「ハイッ、全員自己紹介!名前を名乗って、一言二言!一番右の人から奥に!」
「先生無茶振り〜」
「パワハラ〜」
「文句言わない!」
--- ( 中略 ) ---
「はい次!そこの〜…日本人の人!」
「はい!|私《わたくし》は|勘解由小路《かでのこうじ》 |椿《つばき》、大陸風に言うとツバキ・カデノコウジですわ!日本人で、第一言語も日本語ですけど大陸共通語もある程度話せますわ!でもスラングはわかりません!これから一年、よろしくお願いしますわ!」
ぱちぱちと小さめの拍手が鳴り、時短のためすぐ鳴り止む。
「元気な自己紹介だね!次!」
--- ( 中略 ) ---
「ヨシ、これで全員分終わったな!」
意気揚々と言ってから丁度、チャイムの音が鳴り響く。
「一時間目は終わり!次は二時間目、お前らが書かなきゃいけないプリントを全部配るからな!」
がやがやと騒ぐ中でもよく通り聞こえる声で、男性教師…ルヴェル・バードは言った。