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溶ける記憶と紡ぐ幸せ。 3.大事な
お友達が待っててくれてるみたいなので書きます。
その友達、俺の推しカプの間になりやがったんですよ席替えで
まじでにやにやしながらこっち見てきた時は一瞬縁切ろうかと思いました
ごめんって切りたくないよぉ
「すいません…誰、ですか」
静かな病室に響いたそんな声。
なんだか久しぶりに聞いた翔斗の声に喜びたいのに。
喜ぶよりも前に、発せられた言葉を理解するのに必死だった。
「ぇ…っまってまって?冗談だよね?私だよ?翔斗の、彼女の…」
「かの、じょ…?僕の、?」
僕。聞きなじみのない一人称。
ぇ、本当に…記憶が、
さすがに信じ切れなくて、質問をしまくる。
「わ、私の名前は、?」
「…すい、ません…わかんないです、」
「じゃあ…自分の、名前は」
「僕の名前…は、七海 翔斗…です、」
「__それは覚えてるんだ、__じゃあ…ほんとに、私のこと…わかんないの、」
「っ…ごめん、なさい」
俯く翔斗に、戸惑いを隠せなかった。
だ、だって…今までの思い出も、私のことも、全部…
このままいると泣きそうで、私は立ち上がって、病室を出た。
「ぇ、ちょ…っ」
後ろで響く、悲しそうな、寂しそうな…小さな声を振り切って。
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目が覚めると、そこはなぜか病院だった。
なんで…記憶を探ろうとしたとき、隣から女の子の声が聞こえた。
「うぁっ…よか、った…翔斗ぉ…(´;ω;`)」
「ぇ…っ、すいません…誰、ですか」
思い切って聞いてみると、目の前の女の子の顔が一気に真っ青になった。
さっきまでの笑顔も消えて。
そのあと、たくさん質問をされた。
私の名前は、とか、自分の名前は、とか。
実際になんの意味があるのかはわからないけど、一つ一つ、ちゃんと答えた。
答えるうちにもどんどん表情が曇っていく女の子。
…そういえば最初、「翔斗の、彼女の…」って言ってたかも?
じゃあ…この子は、僕の彼女…?
でも、僕の記憶には彼女がいたことなんてない。
だって、普通に小学校生活を過ごして…それで、…あれ、
そこからの記憶がない。中学校生活も過ごしたはずなのに、そこから
高校までの記憶がぽっかりないのだ。
もう、わかんないよ…どうしたら、
多分、最後の質問だった。
「じゃあ…ほんとに、私のこと…わかんないの、」
「っ…ごめん、なさい」
大きな瞳に、涙がたまっている。
なんだか申し訳なくてもう一度謝ろうとすると、女の子は勢いよく立ち上がって
病室を出て行った。
「ぇ、ちょ…っ」
呟いたけど、止まってくれなかった。
まだ名前も聞いてないのに…
今までのことをぐるぐる考えていると、ドアから看護師さんが入ってきた。
「お、目覚ましたんですね」
「ぁ…はい、あの…」
「はい?なんですか?」
「さっき、僕の…お見舞い?に来てくれた…女の子、あの子って…」
「あぁ!確か…姫川 美さん、でしたっけ?その子がどうしたんですか?」
「あの…僕、誰かわかんなくて…僕とどういう関係だったのか、とか…
わかりませんか」
「え……っ、ちょっと待っててください、先生呼んできます」
そう言って慌ただしく出て行った看護師さん。
ひめかわ、はる…って名前なんだ、
なんかすごい取り乱してたし、泣いてたし…あの子にとって、僕はそんなに
大切な存在だったのかな。
ぐるぐる考えていると、慌ただしい足音とともにドアからお医者さんが
入ってきた。
「目覚めたんだね!よかった…看護師さんから聞いたんだけど、もしかしたら」
お医者さんの口から発せられた、「記憶障害」という単語。
あぁ…僕は、あの子を忘れちゃったんだ。
きっと大切な子だったんだろうな…
「だから…今から検査するね、車いす、これ乗って」
「ぁ、はい…」
促されるまま車いすに座って、検査室へ連れていかれる。
それからなんか色々されて、どうやら無事に検査が終わったらしい。
「言いにくいんだけど……記憶が戻るのは、難しいかも。」
「ぇ…」
じゃあ、
じゃあ僕は…あの子を思い出せないのかな、
あの子、泣いてた。忘れちゃったから…よっぽど悲しかったんだろうな。
思い出して慰めたかったのに…無理なんだ、
視界が少し滲む。
「…でも、『かも』だからね!リハビリがんばろ!?」
励ましてくれる先生に、ありがとうございます…と小さく返した。
目の前の先生は看護師さんと一緒に、僕の病室から出て行った。
「…はぁ、」
もう一度記憶を探ってみた。
でも、やっぱり中学校からの記憶はない。
なんか変な感覚…
はぁ…と、またため息が漏れる。
…とりあえず、今日は諦めよう。
このままずっと思い出そうとするのも時間がもったいない。
そう思い、僕は布団にもぐった。
目を瞑ってからも、あの子の顔が忘れられなかった。