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ボクだけのキミ、愛す。 #1
朝のチャイムが鳴り終わる少し前、教室にはもうすでに彼がいた。
御影 司。
黒髪の先にわずかに揺れる冷たい風。整った横顔に、無駄な動きの一つもない。
静かに座るその姿は、どこか異質で、他の誰とも交わらない空気を纏っていた。
けれど彼の視線は、確かにひとつの点に向けられていた。
「おはよう、結」
それは、“おはよう”というよりも、“呼び出し”に近かった。
望月 結は、小さく頷いて席に座る。
挨拶は返さない。ただ、彼の視線を避けずに、まっすぐに受け止める。
――これが、私の一日の始まり。
「今日の連絡は、最低十二回。五時間以上返信がなかったら、家に行く」
「……うん、わかった」
「あと、スマホの画面見せて。履歴」
結は言われるがままにスマートフォンを差し出す。
彼は何も言わずに指を滑らせ、LINEのトーク履歴、通話履歴、検索履歴を次々とチェックしていく。
「……よし。変なやつとは連絡取ってないな」
「うん、昨日も司くんとしか話してないよ」
「……いい子だ」
優しい声で、けれど微塵も緩まない視線。
それが、彼なりの“褒美”なのだと、結はもう知っていた。
昼休み、友人のひよりがこっそり声をかけてくる。
「ゆい、ちょっとさ……最近、御影先輩とどういう関係なの?」
「……どうって、普通だよ」
「普通があんな毎日監視される感じ? ごめん、あたしにはちょっと……怖いんだけど」
結は、困ったように笑うだけだった。
心のどこかで、それが普通じゃないことは分かっていた。
でも__。
(怖いことなんて、何もない。
だって、司くんが命令してくれるから、私、自分で何も考えなくていいんだもん)
放課後。ふたりきりの屋上。
司は、いつものように結の制服のネクタイを整えている。
指先が、喉元に触れる。少し、冷たい。
「今日、他の男が話しかけてたな。……英語の授業中」
「あ……ごめんなさい。でも、教科書を貸してって言われて……」
「次からは、俺を通せ。間接的でも、男に関わるのは許さない」
「……はい」
返事のあと、司の手が結の髪に触れた。
「言い訳しなかったから、今回は許す。けど、次は……罰、な?」
「うん……罰も、ちゃんと受けるから」
「……甘えてるな、結」
その言葉の直後。
司は、結の顎を指先で持ち上げ、目を覗き込んだ。
「俺の言葉だけが、お前のルール。世界がどう言おうと、お前は俺のものだ。いいな?」
「うん……それが、いちばん嬉しいの」
夕陽が背後に沈みかけている。
金色の光の中で、ひとつの関係が、より強く、深く__歪んでいく。