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とある便利屋の記録①
ある雨の日。
治安がそこそこ悪いことで知られるこの街で、葬式が行われていた。
亡くなったのは幸せいっぱいであったはずの夫婦。
ハイル・アンダーソン・フューラー、享年27。
|潮風穂波《しおかぜほなみ》、享年25。
死因はひき逃げだった。犯人はまだ捕まっていない。
アンダーソンには、2人の弟がいた。
それが19歳の三男ハイル・グルッペン・フューラーと、22歳の次男ハイル・ジェームズ・フューラーの2人。
この2人も、葬式に呼ばれていた。
葬式が終わると、遺産相続について話し合いが始まった。
グルッペンとジェームズの親戚は、亡くなった夫婦の遺物を売ったお金を分配するらしい。
つまり、アンダーソンが貯めていた5億の遺産は、グルッペンとジェームズが分配することになるのだ。
しかし、なんと遺言が見つかり、次男のジェームズは生前の使い込みがバレて分配はナシになった。かくして、三男のグルッペンが遺産を受け取ることになったのだ。
そして、アンダーソンと穂波には娘がいた。まだ4歳の小さな女の子である。
娘・|小波《こなみ》はグルッペンに引き取られることになり、親戚もそれに同意。
グルッペンは小波を育てるために、大学の道をやめ、『便利屋W』というよろず屋を始めたのだった。
一年後。
小波「おじちゃん、そとだれかいるー」
グルッペン「なんだ、依頼人か?」
大雨の中、グルッペンが外に出ると、そこに幼馴染の|桃瀬豚平《ももせとんぺい》(あだ名はトントン)がいた。
グルッペン「・・・トン氏?」
豚平「グルッペン・・・?」
グルッペンは慌てて豚平を中に入れ、話を聞いた。
豚平「俺が働いとった会社・・・。脱税しとってん」
グルッペン「それで会社が倒産し、無職になってしまったと・・・」
豚平「別に家族もおらんねんけど、俺が生活していけへんくなるから・・・早よ仕事見つけなやばいんよ」
グルッペン「やったらトン氏、便利屋Wで働いてみぃひん?」
豚平「ええんか⁉︎」
グルッペン「こっちもメンバーが俺1人やから困っとってん」
その時、よたよたと小波が歩いてきて、豚平が座っているソファによじ登ろうとしてきた。豚平の手を掴んでソファの上に立ち、100点満点の笑顔で、
小波「とんち!」
それだけ言った。豚平はその姿を見た途端、あまりの可愛さに悶絶した。
グルッペン「こんなちっさい子を幼稚園に連れて行かなあかんしな」
グルッペンが苦笑いで答えた。
そうして、便利屋Wに2人目のメンバー・豚平がやってきたのだった。