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親のプレッシャー
大北先生が担任になってくれたことは、両親も喜んでいた。
「これから良い生活が満喫できそう!」
にこにことして、言った。
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「行くの、行かないの?」
お母さんの言葉が、脳裏に焼き付いた。
わたしは成績がいい方で、中学受験をして東西中学校に行ってみたら、と言われていた。乃々葉も同じく受けるらしい。
でも、行きたくない。
仮に合格したとして、本当にいい学校生活は送れるのだろうか?
乃々葉しか知り合いがいない状況で。だいいち、乃々葉だって同じクラスになれるとは限らない。
ここから、すごく遠い。電車に乗って、としなければいけない。公立中学校だったら、歩いて15分もかからない。わたしの嫌いなお弁当制。公立中学校は給食制。
正直、デメリットばかりだった。唯一のメリットが、「将来の選択肢が広がる」だった。
でも、いまいちピンと来なかった。どう広がるんだろう。なぜ、東西中に行ったら、どう、幸せになれるんだろう。
親の誘いで見つけた東西中。本当に、行く必要はあるのだろうか?
こんなことなら、東西中なんて知らないで普通に公立中学校に行きたかった。高校で頑張りたかった。
授業だってついていけるか分からない。習い事だって、いつやめるの?
1時間の家庭学習もできないわたしに、できるの?
習い事だっていっぱいしている。さらに塾に行くというのだから、もっと忙しくなる。
前に体験した塾は怖かった。鬼のように怒ってきて、とにかく厳しい。4時間も座らされた。55分の授業で休憩が5分。その5分でみんなが喋って、それも苦痛だった。
今度体験するのはまた別の塾だ。でも、本当に大丈夫なのだろうか。
乃々葉は楽しい、と言っていた。彼女の言葉が、もしも違ったら。親を心配させないために、わたしと一緒に行くために、言っていたとしたら。
怖い。すごく、怖い。
なんでいつもこうなんだろう。
2年前、4年生の時もこうだった。
また東西中の話は出ていなかったけど、苦しめられていた。弟の暴力に。
学校から帰りたくない、という気持ちが2年前と重なった。今でも弟の暴力には苦しめられているけど、東西中についての話がいちばん苦しい。
1年前は慰めてくれたお母さんも、もう別人だった。
「助けて」
その叫びは、お母さんに届かない。