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#2 さっそく、お悩み相談
20分休み、わたしは悩み室に行った。
悩み室。以前はパソコン室だったが、最近、一人ひとりにタブレットが支給されてから使われなくなった。けっこう広いが、パーテーションで仕切られていて、わたしたちの部屋はパソコン室の4分の1ぐらいだ。ちなみに、その4分の3は児童会室。通りでせっまい。
パソコンはなくなっていて、長いデスクと3つ、4つのくるくる回転する椅子があるだけ。黒いカーテンと灰色のマット、灰色のデスクに紺色の椅子のせいで、殺風景になっている。
さて、宙は来るだろうか。
「おいっ」
「あぁ、やっと来た、副部長」
「副部長!?」
「そうだけど。わたしが部長で、宙が副部長。当たり前じゃない?」
「だいたい、部員が2人だろ」
ちなみに、あとで先生から聞いたことだけど、悩み委員会は1年中その委員会で、他の委員会には入れないらしい。ちなみに、児童会との掛け持ちはOKだ。
「あら、じゃあ書記でもヒラでもなんとでも」
「はー。なんで結花が部長って決まってんだろ」
「とにかく、2年3組に行ってみるわよ」
昨日、悩み相談のポストに悩みが投函されていた。
『2年3くみ16ばんごとうちく2年生のべんきょうふあんです なんとかしてほしいです』
まあ、予習復習したら完璧!って思えるのが理想よね…
「まあ、ふつうに予習復習したらいいだけじゃないの?」
「お前、ほんと人の心ないな」
「うるさいな。道徳の成績、一応二重丸だったから」
…一応、はいらないか。
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2年3組。わたしたちは2年4組だったから、懐かしい…とは思えない。でも、新入生が減ったから、4組がなくなってしまったのは悲しい。
「2年って、何やってたっけ?まだ理科、社会、家庭はないんでしょ?あ、書写の墨もないし、リコーダーもないや。なぁんにもないね」
「でも、国語も習うだろ。『風のゆうびん屋さん』とか、算数は…表とグラフとか、じゃない?俺、2年生初めてのテストで、グラフぼろっぼろだった記憶ある」
「なんでグラフでぼろっぼろなの」
一応、入口で立ち止まる。
「ごとう…さくさん、いますか」
小さい子が、てててっと駆け寄ってくる。はぁ、可愛い。
「ぼくです」
「悩み相談、してくれたんですよね。どんなところが不安なの?」
しゃがみこんで、目線を合わせて言ってみる。
「えっと…そのぉ、あたらしいべんきょう、ふあん。むずかしそうだし。さんすうとか、よくわかんないし」
「そうなんだ。でも、いままでやったことを覚えて、授業をきちんと聞いたらわかるよ!」
「ほんとぉ?」
「そうよ」
「やったぁ!」
良かった良かった、やっぱ小さい子は純粋無垢で信じやすくて助かるわ。
「ちなみに、授業を聞いてないとこのお兄ちゃんみたいになるから、気をつけてね」
「さらっとディスるな」
「もうだいじょうぶ!」
「良かったね、また悩みとか、勉強でわからないことがあったら、悩み相談ポストに入れてね」
「うん!」
そう言って、わたしたちは悩み室に引き返した。
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ふぅ、1つ目解決、っと。
「なあ、結花」
「んー?」
「悩み委員会、どうなんだよ」
「まだわかんないじゃん」
宙、時々変なこと言うよなあ。
「あ、じゃあね、また昼休み」
「あぁ、うん…」
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10分休み、わたしは友達の|佐々木美玖《ささきみく》と話していた。彼女はいわゆる「おしゃれで可愛い1軍」で、わたしとは程遠い存在。
「ね、結花。ちょっとテストしていい?」
「あぁ、いいけど」
問題!と自慢げに言う美玖。
「この中で、1番一般的に言われて嬉しい言葉はどれ?1,月が綺麗ですね。2,月も綺麗ですね。3、月は綺麗ですね」
「1、月が綺麗ですね」
夏目漱石か誰かが、「I love you」を日本語に訳す時、「わたしはあなたを愛しています」ではなく、遠回しに「月が綺麗ですね」といった、的なやつだ。
2と3は、間違って覚えている。個人的に、1だったら教養があるなあと思って嬉しい。
「うわー、ないわー」
「えぇ?」
理由をちゃんと説明すると、
「ほんと、結花って真面目だよね。超とかがつくほど。勉強のことしか考えてないの?」
と呆れられた。
「そう?」
「だいたい、2が嬉しいんだよ。月も綺麗だけど、それ以上にあなたが綺麗ですっていうの」
「ふぅん。まあ、人は外見だけじゃないから」
「あーあーあーあー、ほんっと真面目すぎるね。にっぶ!こんなにぶい人、初めてみた。結花さぁ、学力だって身体能力だってあんのに、唯一の0点は恋愛理解度だよ」
「ふぅん」
レンアイ、という言葉が一瞬、気の毒に思うことの「憐愛」に変換される。こういうところがまじめすぎるのだろうか。
「だからさあ、宙が呆れるんだよ」
「えぇ?ああ、まじめすぎて、人の心がないってこと?」
「そうじゃないんだよ、全く。呆れた!もう好きにすりゃいいよ」
「えぇ?」
こんなまじめすぎるから、悩み委員会がつとまらないんでしょ。そう宙は呆れてるんだ。
そう思って、窓から青いそらを仰いだ。