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僕と彼の愛すべき日々
スピンオフ一気のせ!
Spinoff:Episode 1「湊、風邪をひく」
「……くしゅんっ」
不知火が原稿の進捗確認に湊の部屋を訪れると、そこにはくしゃみ連発の漫画家がいた。
「……なんか寒気するなーって思ってたんだよね」
「湊さん、それ典型的な風邪の初期症状です」
「えっ、いや、でも締切……」
「はい、ベッド。今すぐ寝る。原稿は俺がどうにかする」
「む、無茶言わないでよ……って、ちょ、引っ張らないで……!」
有無を言わせぬ手際で湊を寝かせ、毛布をかけ、氷枕までセットされる。
「ほんとに……過保護すぎ……」
「当然です。君は俺の大切な作家で、恋人ですから。」
そう言って不知火は冷えピタを湊のおでこに貼った。
「うっ、冷たっ……」
「我慢。かわいそうだけど、かわいい。」
「なにそれ……」
少し熱で赤くなった湊の顔を見て、不知火はくすっと笑う。
「明日には治してください。君が寝込むと、世界が半分くらい沈む気がする。」
「……そんなん言われたら、元気出ちゃうじゃん……」
「それが狙いです。」
おかゆを食べさせられ、薬を飲まされ、湊は「看病される恋人モード」を全開で満喫することになった。
(……こんな甘やかされ方、慣れたらもう戻れないな)
湊はベッドの中、ふわふわした頭でそんなことを思っていた。
Spinoff Episode 2:「湊の手料理、再び」
湊が風邪から復活した数日後のこと。
「この前のおかゆ……すごく美味しかった。だから、お礼しないとって思って」
キッチンに立つ湊は、いつもより少しだけ真剣な表情。
不知火が帰宅すると、部屋にやさしい香りが漂っていた。
「これは……ビーフシチュー?」
「うん、初めて作った。市販のルーだけど、煮込みだけはちゃんとやった……つもり」
湊が照れ隠しに口をとがらせるのを見て、不知火は笑いをこらえきれなかった。
「なんで笑うのさ!」
「いや……こうしてキッチンに立ってる湊さんが、かわいすぎて」
「……バカ。不知火さん、食べるの禁止」
「許してください。代わりに……感想は真剣に言います。ほら、いただきます」
一口食べて、目を見開く。
「……美味い」
「……ほんと?」
「嘘だったら、今すぐ抱きしめない」
「え、どっち?」
「どっちもです」
湊の顔がぽっと赤く染まり、ビーフシチューの湯気より熱そうだった。
(こんな平和な夜がずっと続いたらいいのに)
湊の心の中に、ふとそんな言葉が浮かんだ。
Spinoff Episode 3:「初めての温泉旅行」
「――というわけで、湊先生には原稿が終わったご褒美として、二泊三日の温泉旅行チケットを贈呈します!」
湊の担当作品がコミックス累計10万部を突破した記念に、編集部が粋なプレゼントを用意していた。
もちろん、チケットは“二名分”。
「……で、来ちゃったね」
静かな山間の旅館。
二人きりの部屋、そして、露天風呂付き。
「久しぶりにゆっくりできるな。仕事のこと、今は忘れましょう」
「……できるかな。不知火さんとふたりきりだと、逆に意識しすぎて死ぬんだけど」
「じゃあ、死ぬ前に。浴衣、似合ってるって言っておく」
「う、うるさいっ……っ!」
夜、ふたりで湯に浸かり、湊がふいに不知火の肩にもたれた。
「俺……今、すごく満たされてる。これ以上欲張っちゃいけないって思うけど……」
「もっと欲張ってください。俺も、君にもっと与えたい」
唇が触れ合い、湯気の中で肌が重なる。
ふたりの距離は、もうどこにも隙間がなかった。
Spinoff Episode 4:「修羅場中、会いたくなる夜」
コミックスの締切直前。
徹夜が続き、湊は久しぶりに“不知火不足”になっていた。
(顔、見たいな……声だけでも聞けたら……)
深夜2時。
迷った末に、スマホを握ってメッセージを送った。
【湊】
――「声、聞いてもいい?」
【不知火】
――「今、電話できる?」
すぐに通話がつながる。
「……どうした、湊さん。声が疲れてる」
「会いたかっただけ」
「……甘えたい?」
「うん……声、聞いてたら泣きそうになってきた」
不知火は電話越しに、できる限りやさしい声で話しかけた。
「君が眠るまで、ここにいる。原稿は逃げない。俺も逃げない」
「……ありがとう。好き」
「愛してる。頑張ったご褒美、今度たっぷりあげるから」
ふたりは静かに言葉を重ねて、通話のまま眠りについた。
Spinoff Episode 5:「未来の話をしよう」
締切明けの休日。
湊はのんびりと、不知火の隣でコーヒーを飲んでいた。
「……ねえ、不知火さん」
「うん?」
「もしさ、いつか一緒に住むとしたら、どんな部屋がいい?」
不知火は少し驚いたように湊を見つめた。
「……それは、“将来”の話ですか?」
「うん、まだ先でも。でもさ、朝起きて、同じテーブルでご飯食べて、出勤前にキスして」
湊の声は少し照れていて、でもどこか真剣だった。
「俺、そういう生活……きっと、好きだと思う」
不知火は微笑んで、湊の手を取る。
「じゃあ、今から考えましょうか。ふたりで住む家の間取り」
「えっ、もう?」
「君がそう言ってくれた日が、始まりの日ですから」
未来はまだぼんやりとしている。
けれど、目の前のこの人となら、どんな形でも“愛せる”と思えた。
はぁ、、、我ながら尊いなぁ、、、(笑)