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音のまま演じ切れ #8
**第八話 萎えるぜ**
昼休みも終わり、残りの授業も終わり、放課後。
「よっ! オカルン、#名前#」
「「綾瀬さん!」」
手をひらひら振る綾瀬さん。
一拍置いてハモった気まずさが訪れたが、そんなこと知る由もない綾瀬さんは話し出す。
「今からゲーセン寄んない?」
「お、いいっすよ」「ジブンも大丈夫です」
ザ・青春な綾瀬さんの提案に、おれと高倉さんの陰キャ2人は目を輝かせる。
「でも、綾瀬さんの友達はいいんですか?」と念のため訊いてみると、「いーのいーの。バイトある子多いし」とのこと。
「それじゃ、行こー」
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「そーいや、#名前#ってどっから引っ越して来たの?」
「隣の隣の県っす」
「思ってたより近くですね」
「前の学校でも今みたいな感じだったん?」
「まぁ、そんなとこっす」
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「そこ! そこ! 右! あぁあ行き過ぎっ! 左! やっぱ右! 手前ぇえええ」
「綾瀬さん、指示が滅茶苦茶ですよ!」
「見てください、なんかめっちゃ取れたっすよ」
「広瀬さんは上手過ぎません?」
「実は一時期、週10で通ってたんすよ」
「限界突破してる……」
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「いやぁ楽しかったねー。うわ、もう夕方だ」
「っすねー。つか、前が見えな……うわぁああっ?!」
「ちょっ、大丈夫ですか? 半分持ちますよ」
「っはは! 派手に転けてら〜。うちも持とっか?」
「あ、ありがとっす……」
大量の戦利品を少し持ってもらい、体制を持ち直す。
ボォオオオオオオオオオッ
「「「っ?!」」」
刹那聞こえた不気味な音に、思わず身構える。
「っな、なんすか……?」
戸惑いの声を漏らす。
そのとき、ゆらりと空に何かが浮かんでいるのが見えた。
「うわっ、なんかいる!」
ゆっくりと降りてくるのを見て、揃って悲鳴を上げる。
「ききき来ましたよっ!」
「うわうわうわうわうわうわっ! 激ヤバっす!」
その何かの姿が徐々にハッキリしてくる。その正体に気づき、俺は叫んだ。
「多分アレ、一反木綿っす!」
「「一反木綿っ?!」」
2人が声を揃えて驚く。
「一反って12メートル50センチくらいらしいんすけど、コイツもそれくらいっす!」
布みたいな容姿といい、完全にそれだ。
「一反木綿、って……有名だから知ってるけど、実在したのっ?」
「人々の恐怖が具現化することもあるらしいっす!」
「そうなんですか?!」
そうこうしてるうちに、一反木綿は目の前に降りてきていた。
「っゔ」
「「綾瀬さんっ!」」
即、吹っ飛ばされる綾瀬さん。超能力で防ごうとしたのか、痺れた手をさすっている。
高倉さんが変身しようとするが、その前に一反木綿が彼を縛り上げる。
「っ……が……」
苦しそうに呻く高倉さんを見て、おれは自分を奮い立たせる。
小さく息を吐き、逡巡する。
(おれにでも、できること……。なんだ……? おれは、どうすれば……)
“演じなさい”
声が、聞こえた。
いつかの劇で魅せてくれた、彼女の声。
“貴方なら、できるわ。彼に、なれる”
「……な、る……?」
“私の力をあげるから。守ってあげて”
脳に、雷が落ちた気がした。
「“……あぁー、萎えるぜ”」
突然雰囲気が変わった《《ジブン》》に、2人が目を見開く。
2人を、助ける。それ以外は考えない。
本気を使ってダッシュをする。
「“めんどくせぇ”」
一反木綿を千切り、高倉さんを抱える。
呆然とする2人を見て、《《おれ》》はハッとした。
「っだ、大丈夫っすか? お2人とも!」
「うちは大丈夫、だけど……」「ジブンも、平気です」
本当に平気そうで、安堵する。
「……っはぁ〜、よかったっすぅ〜……!!」
「……………ってか、今の何?! ビックリした! オカルンかと思った!」
「っじ、ジブンも、自分を見ている気分でした! アレ、一体なんなんです?」
沈黙の後、噛みつく様な勢いで問う2人。若干引きつつ、話し始める。
「お、おれもよくわかってないんすけど……この間の幽霊が、助けてくれたみたいっす」
続けて言う。
「おれ、演技とか好きで。プロファイリングとかして、色んな人の性格をパズルみたいに組み立てる、あの感覚が好きで……」
最初はアニメキャラなどでやっていたが、それだけでは飽きたので周りの人でもやる様になった、と説明する。
「高倉さんに少し興味があったので、色々考えてたんっすよ。だから、咄嗟に演じれたっていうか……。あの幽霊のお陰で、演じた人の力を自分のものにすることができるみたいっす」
俯きながら、そう締める。
「なんていうか……凄いっすね」
「ね! つか、演技得意なの知らなかったんだけど」
「い、言う必要ないかな、って……。なんか自慢みたいに聞こえるかな、って」
「そんなことないし! ねね、もっと演技の話してよ!」
「ジブンも気になります!」
「えっ、えぇ〜……? えっと、そうだなぁ……」
帰りながら、ずっと話をした。
めちゃくちゃ疲れたけれど、不思議とそれが心地よかった。
ついに! 力を発揮! だぁああああ!
いやぁ、大変だったよ〜。ここまで来ないと、まともに怪異と戦えないし……。
よく頑張った、私!((