公開中
秘める恋心 其の二
花火
今回は、義勇さんとの噂がながれるしのぶさん。
ここのしのぶさんかなり、恋に踊る乙女さんです。
ーーーーー水柱と蟲柱が一夜を共にしたらしい
そんな噂がながれていている。火種がないところから噂はながれることがないのだこれは、昨夜のしのぶの発言が火種となったのだ。
『抱いてくれませんか』
少し詰まったが、その言葉を聞いた一般隊士が噂をながしたのだろう。
あの藤の家紋に他の人いたなんて……。何時もなら気配に敏感だから、その程度のことわかるだろうに、残念ながらこのときのしのぶの体調が悪かったのだ。仕方がない。
(警戒を怠った私の責任ですね)
しのぶが朝起きたら、もう義勇はいなかった。それは義勇が、手を出していなかったことを意味する。
他の柱にはいつも通りの下らない噂だと思っているだろう。だが、今回は当人のなかにその意思があるのだ。
(私冨岡さんに抱かれたかったの?)
あれ以来義勇としのぶは会っていない。というより、一方的にしのぶが避けているのだが。
『胡蝶』
『冨岡さん。すみません今は駄目です。それでは』
そういう感じで逃げてしまうのだ。
(冨岡さんの顔をみるとあの日のことを考えてしまいます)
あわよくば、あの発言を覚えていなければいいのだが。
そんなことも考えるほど、あの発言を思い出せば思い出すほど頬が紅く染まる。なんで、いってしまったのだろうか。
(どうして、なんだろう)
水柱様となら、蟲柱様も納得ね
どちらも容姿が優れていますものね
蟲柱様かららしいわよ
そのような声が影からこそこそと聞こえてくる。だが、私と冨岡さんは釣り合わないのだ、あの女性を見たら誰でもそう思う。あの綺麗な手入れの行き届いている黒髪。私にはないものだ。
(……私は違う、本当はあの女性なのに)
しのぶは知っている。その噂の相手は本来はあの女性なのだ。
この類いの噂はよくながれるが、いつもとは違う感覚で嬉しいような嬉しくないような複雑な気持ちだ。
(どうして、こんな気持ちになるの?)
いくら考えても、わからない。これは、誰かに相談しないといけないかもしれない。そんなことを考えながら、蝶屋敷の仕事をテキパキとこなしていく。
この感情にまだ名はないのだ。
---
「しのぶ様。行ってらしゃいませ」
「ありがとう。昼ぐらいまでには帰ってくるから」
手短に会話を済ませ、蝶屋敷にある薬を補充するために、町へと向かっていた。行きつけにしている、薬屋があるのだがそこの店主がかなり年をとっているため朝方にいかなければ、もう店が閉まってしまう。
夏の暑さが痛々しい。
こういう何気なく歩く時間があると、ついつい考え事をしてしまう。これは、本格的に誰かに相談しよう。と考えながら、歩いていく。ただ歩くだけでも汗が出てくるような暑さだ。蝶屋敷の子達が暑さで倒れないか心配だ。帰ったら素麺でも茹でようか。
薬屋は、華やかな通りを右手に曲がり少し進んだところにある。先ほどまでの道が嘘のように感じるぐらい落ち着いた雰囲気だ。
「ごめんください」
風鈴がチャランと音をたてる。いい音色で、先ほどまでの心配事が吹き飛びそうだ。
「しのぶちゃん。よく来たねぇいつも通りの薬を用意してるよぉ」
「ありがとうございます」
薬の受け渡し自体は早く終わるのだが、ここまで来るためにかなりの時間を使うのだ。行きつけにしている薬屋のため少し申し訳ないがここは早々に立ち去ろう。
「ごめんなさい。私急いでいて」
「そうかい。また来てね」
そうカラッと元気な声で言う。お言葉に甘えて、そそくさと店を出る。
少し歩いた所で知り合いの顔が見えた。
(甘露寺さんだ)
どうやら、此方にも気づいた様子で元気よく大きく手を振っている。
小さく手をふりかえすと鈴がコロコロ転がったように笑いながら此方に近づいてくる。
「しのぶちゃん!偶然ね!」
「そうですねぇ。甘露寺さんはお買い物ですか?」
「そうなの!でも、一段落ついたから甘味処にでもいこうと思ってね!しのぶちゃんも一緒にどう?」
(えっとアオイには、昼ぐらいまでにはと伝えたのよね)
だが、最近はしのぶ自身に悩みがありそれを誰かに聞いて欲しいのだ。
(アオイ達には悪いけどここは誘いにのりましょう)
「是非ご一緒に」
「だったら、彼処に行きましょう!彼処はね蜂蜜をたっぷりかけたパンケーキがあってね。とっても美味しいの!」
店の外見は洋風文化を取り入れていて、色合いや建物の形状もあまり見慣れない。だが、近頃そういう建物も増えてきいるらしく、蜜璃の屋敷である恋柱邸も洋風文化も取り入れている。
店にはいると甘い匂いが鼻に漂う。席につくと店員の人がきて、注文をきかれる。
「えっとぉ、パンケーキを三十枚にアイスクリームの抹茶味とバニラ味、イチゴ味にうーんやっぱり、アイスクリーム全種類全部のせで!」
「は、はい!かしこまりました!」
「しのぶちゃんは?」
「すみません。こういうお店あまり来たことがなくておすすめはありますか?」
そういうと店員が、お品書きを持ってきてお店のおすすめのものを熱弁する。どうやら、蜜璃も頼んでいたがアイスクリームが美味しいらしくバニラ味のアイスクリームを頼んだ。
「しのぶちゃん。最近大丈夫?」
アイスクリームを食べながら、先程までは他愛もない話をしていた。
主に蜜璃の添い遂げる殿方の話だ。
(それがいきなりなんで私の心配を?)
「心配されることなんてないですよ?」
「あのね、最近しのぶちゃん少し顔色が悪くて……それに、元気もないように見えてね。だから、その大丈夫かなって思ってね。別になんにもないならいいんだけどね」
(いい人だなぁ)
そういえばさっきまで、忘れていたがそういえば蜜璃に相談したいことがあるのだ。
「実は最近わからないことがありまして」
「わからないこと?なんでも聞いてちょうだい!」
それから、最近義勇とあった出来事やその時の謎の気持ちについて語る。
(さすがに、抱いてあたりの話はぼかしましょう。それに、冨岡さんということも恥ずかしいですし)
「しのぶちゃんそれはね」
期待に満ちた顔になりながら、次の言葉をためらっているように見える。
「甘露寺さん、どうしたんですか?」
「そのね、多分それはしのぶちゃん。その殿方に対してしのぶちゃんの《《恋心》》があると思うわ!」
「へっ!」
恋心?しのぶは、恋心を心拍数が上がり血液中の巡りが速くなり、さらに目で追うようになるものだと認識している。
(その症状がでていたでしょうか?後で詳しく検査しなければ)
「しのぶちゃんはその殿方が、別の女の人と一緒に過ごしてるのがモヤモヤしてるんでしょ?多分それは|悋気《りんき》じゃないかしら」
「わ、私が悋気なんてない……はずです」
「しのぶちゃん自分の心によく聞いてみて」
自分の胸に手のひらをつけ、考える。
(あの女性に私が悋気なんてないですよね?でも、悋気してるとしたらなんで?)
「よくわかりません」
「そっかぁでも、大丈夫!いつかわかるわ!今はその時ではないだけよ!」
その時ではないだけ。まだ、知らなくてもいいことなのだ。その事に安堵してふぅと一息つく。
(どうしたら、私と関係を持ってくれるのだろうか)
「甘露寺さん。あと聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「なんでも聞いて!」
「どうしたら、関係を持つこ、」
(何を聞こうとしてるのよ!甘露寺さんを困らせてしまうわ)
頬をビシッと強く叩く。頬が自分の手形に紅く腫れヒリヒリと痛むが、これは自分の戒めだ。
「し、しのぶちゃん?大丈夫?」
「大丈夫ですよ。甘露寺さんこれは戒めですから」
「そ、そう?ならいいんだけどそれで、聞たいことってなに?」
「い、いえなんでもないです。そういえばアイスクリーム美味しかったですね」
「そうよね!とっても美味しいわよね」
なんとか話を逸らすことができた。そこから少し話をし、今日はここでお開きとなった。
早足で蝶屋敷に向かいながら、時刻を確認すると昼過ぎだ。
「ごめんなさいアオイ!少し遅くなりました」
「しのぶ様!丁度お帰りになりましたか」
「丁度?」
今日は何も患者の診断の予定は入っていないはずだが。入るとしたら、例えば忙しく不定期でくる柱ぐらいなはず。
「水柱様がお出でです」
「冨岡さんが?なにか怪我をしましたか」
「いえ!話をしたいとのことらしくて。お疲れでしたら、断ってもよろしいとのことですか」
(は、話ってもしかして)
冷や汗がだらりと出てくる。みるみるうちに顔が青ざめていく。
「しのぶ様。お断りしますか?」
「い、いえ!行きます」
(逃げてばかりでは駄目よ、胡蝶しのぶ)
そう自分に言い聞かせながら冨岡さんがいる縁側へと向かっていた。
縁側へといくとそこには、何時もとは違い隊服ではなく着物を着ていてその上から羽織をはおっている。その姿に思わずときめいてしまい呼吸を忘れるぐらいの美貌だ。
そして、相変わらず凪いだ深い青の目で此方を見つめてくる。
(ず、ずるいです)
その事をきずかれぬように顔を取り繕う。
「冨岡さんどうしました?」
「いや、少し話をしようと思って。時間大丈夫か?」
「はい。大丈夫ですが」
すると奥の部屋の襖があき、アオイが入ってくる。こういうところがこの子は気が利くのだ。
「茶菓子とお茶です。ごゆっくり」
そして襖が閉められアオイが下がる。足音が遠退いたところで、話を振る。
「冨岡さん話ってなんですか?」
「噂の件すまないな。迷惑だろう」
「い、いえ!そ、その私はう、嬉しかっ」
(わ、私何を言っているのよ、ば馬鹿!)
「?嬉しい」
「いえ、なんでもありません!その事はもう大丈夫です!」
「そうか?なら、いいんだが」
(私も聞きたいことがあるんですよ。あの女性とはどういう関係性で?)
とは言えない。
「?聞きたいことがあるのか」
(本当に、この人は勘が鋭いんですから。でも、そんなあなたの秘密を私が暴いてもいいの?)
そのことに答えはでない。知りたくないのかもしれない。いや、知りたくない。どうして?この締め付けられるような気持ちは?冨岡さんにあったことでこの気持ちは大きくなっていく。
そして、いつぞやの甘露寺さんの言葉がよみがえる。
『それでね、他の人と話してるとキュウって苦しくなるの』
『そうなんですか。薬を処方しましょうか?重症です』
そのときはわからなかったが、今の症状はそれだ。キュウと苦しい。
この事を《《恋の苦しみ》》と甘露寺さんは表現していた。
(なら、私は冨岡さんのことを)
成る程と納得する自分もいることはわかっている。わかっているが、認めない。
「いえ、特にはありません」
「それでは、胡蝶の時間を無駄にはできないから失礼する」
「あ、待って!」
しのぶは、冨岡の羽織の裾を小さく掴む。この行動もしのぶ自身何にもわからない。だが、行ってほしくないと思った。それだけは本当の気持ちだとわかる。
「その、もう少し話していきませんか?私今日暇なんです」
あぁ本当は、嘘だ。
今日は患者の診断は入っていないが、カルテを書かなければならないし、補充した薬の並び替えもしなければならないし、昨日の任務の報告書も書かなければならない。他にもたくさんやらなければならないことがあるのだ。
それでも、一緒にいたい。わかっているが、まだ認めたくない。
認めたら、もう今の関係ではいられない気がする。
「胡蝶がいいならいいが」
他愛もない、任務の話や甘味処の話、最近食べた好物の話などをしていく。
(楽しいなぁ)
本当の笑みがこぼれるそういえば最近は気をはりつめていたのかもしれない。うとうとと体がふらつく。これは寝てしまう。
さぁと冨岡の膝の上に自分の頭が乗る。そして羽織を被せられる。どこまでも優しい貴女。お陰でとても寝心地が良い。
(今はこの一時を許してください)
なにも解決していないなのに、とても心が軽くなった。でも、まだ針は刺さっているような感覚はするが、きっと気のせいだ。
少し不自然なところできって申し訳ないです。
次回ついに自覚なるか!基本的には三話構成で話を終わりに、(話は繋がっているが)しようと思います!