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依存異変ノ章 弐
「元凶の空気が濃くなっているわ」
そう、斎藤空さんは言った。そして続けて言う。
「あなたは原因がはっきりしている。死ぬくらいつらい思いをしたなら、それはしかたないとは言えないかもだけど、同情できる。でも、なかにはちょっとしたミス、気分でこうなった、などとあまりにも同情できないものがあるわ。そんなふうな空気がする」
空さんは、周囲の空気だけで誰かわかってしまう。すごいな、と思った。
「見えました!あれは…天使ですか?にしてはちょっとおかしいな」
ふらふらと狂気に満ちた顔をして飛び回っている天使らしきもの。でも、羽は黒ずみ、散りばめられているハートも濁っていた。
「堕天使、というやつですかね?」
そう言って空さんをみた。空さんは呆れつつ、ちょっと悲しそうだった。
「彼女は堕天使リーシュ。ほんとうは恋を司る神に仕えるのに、人間に禁じられた恋をした。そんなわけで追放されて、堕天使となり、いまの能力は『依存心を操る程度の能力』」
「だから、みんな依存したのか」
文さんも花音さんに、由有さんも紅さんに、依存していた。
「リーシュさん!みんなを依存させるのをやめて!」
「え〜?リーシュ、みんなに依存されたぁい」
聞く耳を持たない。
「どうしましょう、空さん!」
「しょうがないわね、この手はあまり使いたくなかったわ。闇、下がってて。危険だから」
「え?」
空さんはできるだけリーシュさんに近づいた。
すると、うっすら息苦しくなる。
「リーシュ、覚悟!」
空さんが手をかざすと、物凄い風が空さんの手に吸い込まれていく。
「むぅうぐっ!あぁっ!」
リーシュさんは力なく、ふらふらとおちていった。
「空さん、これは?」
「空気の濃度を薄めた。殺さない程度にね。気絶しただけだから、大丈夫。天使は丈夫だし。だって、殺されるってかんじなら、観念してくれるし」
「す、すごい、ですね」
空気の濃度を薄めた、としれっとなに食わぬ顔で言う空さん。
この人は怒らせちゃだめな人だ、と思った。