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不思議な絵画とお客様 2
2話
昨日はなんだか不思議なことばかり起こった。喋って動く絵画に出会って、それでいて絵の中に引きずり込まれて…。
「ん…?」
何か体の上に重みを感じる。体を軽く起こし、重みの正体を確かめる。
「…ワイス…?」
また、絵から出て来たのか。下で、少し声が聞こえる。恐らく、彼女がワイスを呼ぶ声だろう。
「…お腹でも空いた?」
「みゃ」
ワイスの頭を撫でると、手にすり寄ってくる。ワイスを呼ぶ彼女の声がだんだん鮮明に聞こえてくる。
「…行こうね」
「みゃ」
彼女がいる部屋へワイスを連れて行く。
「ワイスー?どこへ行ったのー?」
「…ワイスならここだよ」
「あら」
部屋の遮光カーテンを閉め、部屋の電気を付ける。そして彼女の白い布を取った。
「もうワイスってば…そんなにその人が気に入ったの?」
「みゃっ」
「…なら良いのだけど。ワイスも、お友達が増えて嬉しいのね」
そう言って彼女は少し微笑んだ。
「あぁ、そうそう。貴方のお名前を聞かせて頂戴。これから一緒に過ごすなら、自己紹介ぐらいしないと」
「…夜屋怜」
「レイね。よろしく、レイ」
自分の名前はそこそこ気に入っている。何だか響きが良いから。
「…君のことは、なんて呼べば良い?」
「絵画、以外なら好きに呼んで良いわよ。私は名の無き絵画だから」
そうは言われても。…名の無き絵画、か…。夏目漱石の『吾輩は猫である』みたいな感じだな。
「…ナーノ、とか」
「なかなか良いじゃない。気に入ったわ」
「…じゃあ、これからよろしくね、ナーノ」
「えぇ、よろしく」
ワイスが僕の手からするりと出て、絵画に入る。便利だな、そこ。
「…僕はご飯作ってくるね」
「あら、作れるのね」
「…まぁ」
「じゃあ、クッキーなんかも作れたりするの?」
お茶菓子の類が欲しいのだろうか。コーヒーや紅茶の類はそっちで手に入るのだろうか。謎が多い。今度、教えてもらおう。
「…作れるけど」
「えっ」
…今完全に作れないと思って聞いてきたんだな。これでも料理は得意な方だ。基本何でも作れる。レシピと材料があれば。
「…作ろうか?」
「い、良いの…?」
「うん」
クッキーなら簡単だし。材料もあるし。
「お、お願いするわ…」
「分かった」
朝飯のついでに。今日の朝飯何にしよう。適当で良いか。食べさせる相手がいないからなのか、自分の食べる飯は簡素だ。久しぶりにお菓子作れるのか。
材料と道具。ある。作れるな。久しぶり過ぎてレシピを忘れていそうではあった物の、案外作れるものだ。すぐに焼く工程まで辿り着いた。焼いてる間に自分の飯を食べる。今日はおにぎりです。食べ終わったら洗い物。
「…~♪」
彼女の歌声が聞こえる。歌えるんだ。綺麗な声だ。思わず作業の手が止まる程に。そしてクッキーは焼きあがる。一枚食べてみると、甘い香りとバターの風味が口の中に広がった。成功だ。彼女の元へ持って行く。
「…出来たよ」
「ありがとう。美味しそうね」
彼女にクッキーを受け渡す。本当に不思議な絵画だ。…彼女の人生相談受付のポスターでも作るか。何でも簡単に作れるようになった世の中だ。…デザインにはあまり凝らなくて良いか。
白い画用紙に、『絵画人生相談 絵画に悩みを吐き出してみませんか?』と書き、少し概要となる話を付け足す。…俄には信じがたい文章が出来上がった。なんだこれ。そう思いながらも店の前に飾る。…ほんとになんだこれ。
「ねぇレイ!これ美味しいわ!」
戻った途端に目を輝かせながらそう言ってきた。クッキーは口に合ったようだ。
「…良かった」
「また、作ってくれる…?」
「…いつでも作れるから。また機会があったら作るよ」
「本当?ありがとう!」
大分気に入ったみたいだな…。それなら良いのだが。悩みを抱えている人が、ナーノのおかげで少しでも心が軽くなると良いな。そんなことを思いながら、ナーノと少し話した一日だった。
早速迷走してしまった。
次回から!
多分!
出てきます!
応募(?)順に出すと思いますのでよろしくお願いします。